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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第117話 余興会議
しおりを挟む翌日、午前と午後が入れ替わる頃、再び同じ場所に矢が飛来した。
俺は慌ててシヴァに乗って領都を飛び出し、矢の着地点に向かった。
俺が到着するのと、矢が着くのは同時だった。
偶然近くにいた冒険者と騎士数人はすでに駆け寄っていた。
「【双剣士】様!」
「……静かに」
するとすぐに、この場の誰のものでもない声が響き渡った。
『決戦の場所は、火柱にて知らせる。火柱が上がるのは7か所』
7か所……最低でも、7体は選出されたということか。
『誰も戦いに現れない場合、このチャンスは無効となり、侵略を開始する。そして、もう一つ余興を用意した』
少し溜めると、再び声が響いた。
『連合の選り抜き1体につき、連合の動きを制限する権利を渡してある。例えば、撃破した選り抜きが【各国王都の無事】を持っていた場合、王都に襲撃はしかけない、とな』
つまり、俺らが生きる権利をバラバラにして、それを取り返すようなものか?
『まあ、実際に戦ってみればわかる。それじゃあ、健闘を祈る』
そう言い残すと、矢は崩れ散った。
「【双剣士】様……これはつまり、最終的に我らは負ける、と侮られているのですか?」
「そういうことだろうな……少しでも多く、向こうの選り抜きを倒し、少しでも多く生き残ってみろ、と」
「だとしたら、おかしくないですか?」
「そうだな」
そう、明らかにおかしい。
今まで戦ってきた魔物たちの目的は、『人』の滅亡。
だが、これはその滅亡に反する。
いや、そもそも、村々を襲わない時点でおかしい。
戦力の乏く、食料を生産している村々を襲えば、簡単に俺たちは滅んだはずだ。
他に目的があることを警戒した方がいい、か?
その時、副騎士団長から『通話』が届いた。
『はい』
『至急、各国の精鋭をへラリア王都に集め、集会を行う。3日後までに王都へ』
『了解』
そう言うと、『通話』が切れた。忙しそうだったな。
「【双剣士】様……」
「心配はいらない。各国の精鋭がへラリア王都に緊急招集される」
そう言うと、騎士も冒険者も安堵した顔をした。
何か不味い出来事が起きたとでも思ったのだろう。
「俺は早速、このまま王都に帰還する。里帰りもしておきたかったけど、しょうがない」
里帰りすれば、村の人たちは安心するかもしれない。
でも、この世に未練が……この世にある未練が強くなってしまうかもしれない。
そのとき、2つの、布に包まれた箱を抱えた人が走って出てきた。
俺のもとへ辿り着くと、箱の1つを俺に渡してきた。
「これは……?」
「領主様からの贈り物です。これはラインに……弟に渡してください」
領主様からの贈り物ねぇ……貴族家秘伝の何かだったりして?
ん……? おとうと?
「……ってことは、ラインの兄さん?」
「いかにも、ラインの兄、ヤハ・ルルクスです。貴方のことはよく聞いています」
「そうですか。ありがとうございました。領主様にもお伝えください。この箱は王都に着いてから開けさせて頂きます」
「では、お気をつけて」
2つの箱を抱えて、俺は王都に向かって空を駆けた。
シヴァには『流星駆』を使わずに走ってもらった。
念の為、魔物たちがどこにいるか、確認しておかないとな。
ものの数時間で、王都が見えてきた。
辺りは薄暗くなってきたな。
すると、
――ゴアッ!!
視界の端が赤く染まった。
そちらを見ると、赤い火柱が森の中から天高く昇っていた。
そのため、シヴァには止まってもらった。
俺たちが飛んでいるのは、おおよそ上空50メートル地点だが、それより明らかに高い。
「……【魔導士】でもここまで高くはならねぇよな……」
俺の知る限りの魔術師の中で優秀なのは、【水晶使い】ラインと【魔導士】アーグの2人だ。
でも……
「あの2人の力でも、ここまでの威力は出るのか……?」
火柱の根元を見ると、すぐ隣に生えている木は焼けていない。
そして、火柱に取り込まれている木は見えないぐらい、濃い色をしている。
「――いや、無理だな」
上から声がしたから、見上げてみると、そこには【水晶使い】ラインがいた。
「【魔導士】ならもしかしたら……」
「……あ、そうだ。ライン、これ」
手に持った箱を1つ、投げ上げた。
「これは?」
「ハーマル領主様からの贈り物だ。ああ、そうそう。お兄さんが届けてくれたんだぞ」
「兄さんが……そうか」
ラインは仮面で表情はわからないが、故郷のことを感じているのだろうな……。
「さて、あそこに連合の選り抜きが現れるのか……」
「そうだな……あそこが……」
何か、感慨深くなってくるな。
「さて、王都に行こうか」
その火柱は、日付が変わるまで燃え続けた。
火柱が現れたのは全部で7か所。
そして3日後、へラリア王城内の一室
「『人』の精鋭諸君、緊急の招集に集めってくれて感謝する」
オレ――【水晶使い】ライン・ルルクスは他の精鋭たちとともに集められている。
「まあ、まずは自己紹介からしていこうか。ああ、その前に、全員、仮面は外してくれ」
この場は騎士団長が仕切っている。
「まずは私、へラリア騎士団長、レイハル・ストローク」
すると、辺りが少しざわついた。
話の内容はやはり、聖物のことだった。やっぱり、聖物は珍しいんだな……。
それから、自己紹介は時計回りに進んだ。
各国の騎士団長、副騎士団長の紹介が終わり、オレたち一般の紹介となった。
一番手はターバだ。
「【双剣士】ターバ・カイシ」
ターバは昨日、連合の第十隊隊長を討ち取ったおかげで、一目置かれている状況だ。
そして、隣に座るオレの番となった。
「【水晶使い】ライン・ルルクス」
オレは一応、初期【放浪者】の片割れだ。
そして、軽いざわめきが起こる。なんでも、オレのことを【水晶使い】ではなく【戦闘狂】と呼んでいるやつが目立つ。
オレって戦闘狂なのか? 確かに、魔物討伐数は多いだろうとは思っているけど、それも『人』を救うためであってだな……。
そこに私怨が混ざっていないかと聞かれたら……半分以上は私怨だな。
そこからは淡々と紹介が続いた。反応が起きたのは、
「【魔導士】アーグ・リリス」
「へラリア近衛騎士団第三隊隊長、ペテル・ヴァシクス」
「【前鬼】ヨウファン・コラヤン」
「【後鬼】ヤマル・コラヤン」
こんなものだ。
総勢23人。
そこに騎士団長、副騎士団長、隊長、【放浪者】全員、含まれている。
「決戦は8月の1日。それまで、君らにはここで暮らしてもらう」
強化合宿ってことか。こう言うと、少しだけ楽しみに聞こえるから不思議だよな。
「昼間は常に訓練場を開放してあるため、自由に使ってほしい。さて、では本題に入ろうか」
とある場所
「さて……やつらはどう動くかな。それより、鎌鼬」
『……はい』
鎌鼬と言えど、盟主の前では丁寧な口調になるようだ。
その理由は明白。勝てないからだ。
「どうだった? 感想は」
『はい、正直、勝率は五分五分だったかと』
「……そうか」
声の主は残念そうな声を出した。
「まだ器の力を解放できていないのか……」
『ラインは器の力を解放できるのでしょうか?』
「器に選ばれたんだ。器は自身を解放できる存在しか選ばない」
横から声をかけたのは、側近――餓者髑髏だ。
『盟主様、今回の余興なのですが……』
「ああ、お前たちにも参加してもらうぞ」
『盟主様は……?』
今回、盟主はすでに選出を終えていた。
選出された者もされなかった者も、各々自由に過ごしている。
「……結果次第だな」
『やつらが得られる権利はもう、お決めになったので?』
「当たり前だろう? ずっと前から画策していたのだぞ?」
鎌鼬《かまいたち》は聞けずにいた。
やつらにチャンスを与えた理由について。もし、不興を買ってしまえば、命はないからだ。
「ああ、『人』を全滅させない理由を問いたいのか? だとしたら、こう答えてやる。――『その方が楽しいから』」
この答えには、餓者髑髏も鎌鼬も理解が及ばなかった。
『……盟主様、他の4体が戻ってきたようです』
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