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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第114話  人狼バルクス

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 時はラインが鎌鼬かまいたちと戦う日の朝まで遡り……




 
 俺の名前はターバ・カイシ。
 両手に剣を持って戦う珍しいスタイルから、【双剣士】という二つ名が付いた。今のところ、俺以外に剣を2本以上持って戦う人、魔物は見ていない。
 短剣はもちろん、除外。

 俺の立ち位置は近衛騎士団第一隊所属の、【放浪者】。活動圏はへラリア国内のみ。
 ラインや【魔導士】に比べたら活動圏はかなり狭いけど、これでもなかなか大変。
 魔物が村々は襲わないとは言え、それはちょっかいを出さない場合のみ。ちょっかいを出して滅んだ村もいくつかある。

 俺の役割は、魔物連合と交戦中の都市に助っ人として参戦し、戦局を変化させること。
 大抵の魔物は俺には弱すぎて、俺の参戦によって、一時的なものでしかないけど、襲撃が止まる。 
 
 こんなことをただひたすら繰り返していては意味がない。
 いずれどこかがひび割れ、負ける。

 

 俺は故郷、ハーマルの領都に来ていた。
 少々苦しい状況だそうだ。なぜなら、戦闘中に突如として仲間が死んでいくらしい。

 最初は、「戦闘中に死ぬのは別に変なことではないだろう」と思った。
 だが話を聞くと、どうやら攻撃を受けた様子はないのに突如、致命的な傷が現れ、回復も間に合わずに死ぬらしい。
 呪いではないのかと言っていたが、呪いなんてこの世に存在しない。そんなのは御伽噺の中にしかない。

 そう、何か仕組みがある。
 それに、今回の件は俺の加護【不死】と相性がいい。



 俺の加護【不死】は、寿命以外の死因を悉く無視するというふざけた効果を持つ。
 傷を受ければ塞がる。怪我の度合いによっては回復に時間は掛かるが、そんなもの、この加護からしたら、大したことはない。
 


 相棒の覚醒アヌース、シヴァに乗り、空を駆ける。
 緊急性の高いため、『流星駆スターダスト』を使用してもらっている。王都付近にいたため、ものの数時間で到着した。



 着いたが……激しい戦闘は行われていない。
 10人ほどは門のすぐ傍で戦っている。後は門の上から矢や魔法による援護射撃だ。 

 なるほど。呪い(仮)を警戒してこんな戦術を取っているのか。
 ともかく、まずは騎士団駐屯地に向かわないとな。





「おお、【双剣士】様」

 今の俺は仮面を被り、肌をほとんど見せていない、いかにも怪しい恰好をしている。
 それでも見分けることができるのは、服の色や模様、仮面の模様から。

 こんなんで大丈夫か? と不安にはなる。
 だって、服を剥ぎ取られたら魔物が安易に侵入できるようになってしまう。
 もしかしたら、何か見分ける方法でもあるのか?

「ああ、呪いとか言っていたけど……詳しく聞かせてくれ」

 得た情報はどれも聞いた通りの眉唾物だった。
 
 戦闘中、突如隣にいた味方が血を吹いて倒れた。
 突如、足元に何か落ちたため確認したが、自分の腕だった。
 
 こんなものだ。すべてに共通して言えるのは「突如」という言葉。
 その原因解明が第一の目標になる。
 その次に、魔物の殲滅。
 見た感じ、強い魔物はいなかった。森の奥に隠れている可能性もあるけどな。
 


 俺は騎士団駐屯地を離れ、門へ向かった。
 森から離れている3か所の門は襲撃を受けていないようで何より何より……。

 シヴァが使える攻撃魔法は『激震インパクト』『火炎砲ファイアブレス』の2つだ。
 『激震インパクト』はラインの愛馬、フレイも使えるやつだ。高威力で、地面に向けて使うとより効果的だ。
 『火炎砲ファイアブレス』はフレイは持っていない魔法で、口から火を吹く魔法だ。この前、ゴブリンに使わせてみたら消しくずになった。

 オリハルコンの手甲ガントレット足甲グリーブを着用し、双剣を握る。

 シヴァが右側から、俺が左側から攻撃を仕掛ける。とりあえずは、門の側で戦っている連中の助太刀からだ。
 救える命は救っておかないと、後で後悔することになる。リーインの二の舞にはさせない。
 リーインの死を直接目にしたラインは、どんな気持ちだったかな……。
 
 遠くから『飛撃』を放ち、魔物の注意をこちらに向ける。
 その隙にシヴァが向こうから『火炎砲ファイアブレス』で敵を一掃し、戦っていた騎士や冒険者が背後から魔物を一突き。
 今ので、半分は削れた。

 シヴァが地面に向けて『激震インパクト』を放ち、魔物たちを味方もろとも転倒させる。
 俺はタイミングを合わせてジャンプしたおかげで転ばなかった。

 魔物2体の間に立ち、それぞれの剣で喉元を一突き。すぐに他の魔物の元へ走り、同じようにする。

 森の中の連中は……とりあえず、こちらの準備を整えよう。
 兵法に関しては、ラインよりも優れている自信がある。
 門の中に入る。

 すると、歓声と共に出迎えられた。まだ戦いは終わっていないというのに……。
 ラインがいたら楽なんだけど……。いないものを数えてもしょうがないか。

 ラインはリーインの死以降、狂ったように魔物を殺している。
 二つ名が【水晶使い】から【戦闘狂】に変わりそうで、危惧している。実際、そう呼んでいる人もいる。

 俺は……まあ、【放浪者】である時点で有名にはなるよな……。一部、ファンクラブができているらしい。いや、一度捕まったな。
 素顔は広く――魔物以外――知られている。

「さて、これより森の中に潜っている魔物どもを狩る。動きは……」

 俺がこの場にいる騎士や冒険者に伝えた内容はこうだ。
 まず、近接型20人ほどが俺と同行し、魔物に襲撃を仕掛ける。その他は門の上で待機。遠距離射撃をさせる。 
 同行した約20人は魔物を射撃圏内まで誘き寄せる。射程内に魔物が入ってきたら、魔術は技術スキルで総攻撃。ここら辺は詳しく指示を出した。

 今回の呪いとやらは、俺が受ける。俺はこれでも【放浪者】だ。1人でいれば狙ってくるはず。
 それに、俺には【不死】の加護がある。この力はまだ人前で――ばれない程度には使ったが――使ってはいない。 

「【双剣士】様は大丈夫なのですか? ……それとも、何か呪いに心当たりがおありで?」
「いや、正体はまるでわからないけど、策はある。ただ、俺が狙われないと意味がないからな。俺一人で行く」
「なるほど、雑兵は我らが責任を持って対処いたします」
「ん、そうしてくれ。さて、作戦を決行しようか」
「「はい!!」」

 

 俺が騎士や冒険者合わせて20人を連れて門の外に出た。
 門の上には多くの影がある。
 森の奥にも複数の影。魔物だ。

「行こうか」
「「はい!」」

 武装を整え、覚醒し、森に向かって全力で走る。
 それを見て、魔物たちも向かってきた。森に隠れて、魔力が入り乱れていてよくわからなかったがかなりの数がいた。
 こちらが21人なのに対し、向こうは……ざっと見た感じ、50体ほど。勝てない数じゃない。

「いいか! こいつらは頼んだ!」
「「ぇ?」」

 俺は勢いよく跳び、魔物たちの真ん中に降り立った。そして、森までの道を確保するべく、魔物たちを薙ぎ払う。
 俺の予測が正しければ、呪い(仮)の元凶は森の中にいる。

 この人(と魔物)混みの中、思ったように動くのは難しい。行動が阻害されては、呪いとやらも上手く掛けることは難しいはずだ。
 つまり、森の中で数が減るまで待機、もしくは……

「俺を誘き出している、か」

 そう思ったところで、森までの道が開かれた。
 やはり、と言うべきか、魔物は森に入ろうとする俺を一斉に無視し始めた。
 敵に後ろに回られるのはよくないことなんだが……森の中は魔物たちの狩場か。





 森に入り、進む。戦闘の音が微かに聞こえる辺りまで来たところで、俺は止まる。
 
「――『風衣かぜごろも』」

 魔法で探知能力を底上げする。
 双剣は両手に握りしめている。全方位に意識を向け、即座に対処する構えはできている。
 武装は腕と足だけ。でも、問題はない。

 万が一に備え、辺りの木々を斬り倒したいが、そうしている間に攻撃されたら対処が遅れる。

 目を閉じ、全神経を限界まで研ぎ澄ませる。

 ――……じゃり…………

 微かに、そんな音が聞こえた気がした。
 
「――『水衣みずごろも』」

 咄嗟の判断で『水衣』を使用おかげで、間一髪助かった。
 目の前に鋭利な爪が伸びていた。
 
 

 

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