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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第99話  帰る③

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 王都で再会した、【貴公子】ザイン・ハーバーと、模擬戦を行うこととなった。
 お互い暇な身としては、ちょうどいい暇つぶしにはなるだろう。

「本当は別の人を誘っていたんだけど、相手が日付を間違えてね……。里帰りしているよ」
「ちゃんと伝えたのか?」
「そのはずだったんだけどね……。まあ、ちょうどいいじゃないか」

 まあ、そうだけど……。

 近衛騎士や冒険者が模擬戦を行える場所は限られている。
 森の中などの、人がいない場所だ。

 だが、オレたちは森に入るわけではない。それ専用の施設があるのだ。
 
「受付をしてくるから、ラインは先に入っていて」
「おお、わかった」

 ここは、最強決定祭の開かれる、コロッセウム。
 ここでは冒険者や近衛騎士がよく訪れる。

 ここだと、本気で戦える。
 まず、この広さだ。
 そして、ここには回復術師が数人、在中している。そのため、怪我は――怪我の度合いにもよるが――すぐに完治する。

 以上の理由から、騎士の訓練施設としても使われる。
 隊として共同で活動することは少ないが、やはり隊の中で仲は深まる。

 よくここを利用するのは、第一隊と第三隊、第七隊だ。
 第一隊は精鋭部隊のため、第三隊は遊撃部隊のため、第七隊は魔法攻撃部隊のため、戦闘は自然と派手になる。
 騎士団長と副騎士団長も、ストレス解消や運動不足解消のためによく訪れる。

 これほど人気のため、完全予約制だ。
 上司だから、集団だから優先される、なんてことはありえない。
 だから、雑兵でしかないザインでも予約を取れていた。



「いいよ、ライン。時間は1時間ある」
「ああ、わかった。さて……るか?」

 準備運動なしでも問題はない。
 実戦じゃ、準備運動なんかする暇はないしな。体を温めながら戦うことが準備運動だ。

「よし!」
「それじゃあ……」

 オリハルコンを棍に変え、構える。
 ザインは2本の短剣だ。
 そして、防具を着用している。だが、オレは着けない。
 実戦じゃないからっていうのもあるけど、魔法で代用が効くし、魔法の籠った服だから、すぐに直る。

「ライン、防具はなくていいの?」
「ああ。問題ない!」
「そう……か!」

 ザインは、短剣を2本ともオレ目掛けて飛ばす。

 避けることなど、造作もない。前に走りながら左右に跳んで避ける。
 そのまま距離を詰めるが、ザインの手にはすでに短剣が握られていた。さっき投げた短剣だ。

 仕組みは簡単。
 オレが短剣を避けた時点で、短剣を消し、再び手の中に出す。
 オリハルコン製の武器にのみ許される戦い方だ。

 今回オレは、防御魔法は使わない! 
 最初は棍じゃない方がいいかな……。

 棍を拳銃に変える。そして『晶弾』を発射する。
 連射はしない。できないしな。引き金を引くことで発射する仕組みだし。

 全弾、狂うことなく命中する。
 その間も、短剣が投げられ続けていたが、所詮2つずつ。避けるのは簡単だ。
 距離も取っているしな。





 勝者がどちらなのか、誰の目にも明らかだった。
 攻撃が当たるラインと、攻撃を避けられるザイン。
 手数の多さもラインの方が倍以上。
 費用対効果もラインの方が良い。

「……オレの勝ちだな」
「ちぇーー、負けた~~」
「すみません、回復をお願いします」
「はーーい」

 回復術師を呼び、『回復ヒール』をザインにかけてもらう。
 オレはかすり傷も負っていない。
 体力も魔力もほとんど消費していない。
 数分あれば回復するレベルだ。

 回復したようだ。

「ありがとうございました。……ライン、付き合ってくれてありがとう」
「ああ、こっちもいい暇つぶしになった」
「それじゃ、僕はもう行くよ。打ち合わせがあるから」
「おう!」

 ザインと別れ、コロッセウムを出る。
 仮面は外した、冒険者スタイルのままだ。

 そのとき、騎士団長から『通話トーク』が入った。
 歩きながら会話をする。心の中での会話ができるからな。

『どうしました?』
『ああ、ミュイから話は聞いているだろうが、情報共有だ』

 情報共有? 

『ああ、封印に関する情報だ』

 封印に関する情報? 封印の解き方とか?

『封印の間には、白い石と石柱があっただろう?』
『はい』
『石柱は魔物を封じる大本。そして、それを封じる――封印を強化するのが、あの白い石』

 つまり、石柱に魔物を封印。その封印を維持するのが、あの白い石ということだろう。

『実はな……この事は国王陛下と私、ミュイしか知らされていないのだが、これら封印の道具はある』

 ――!?

『封印の道具がある!? つまり、再封印も可能ということですか?』
『いや、そうではない。道具はあっても、やり方がわからない状態でな。まあいい。それより、本題だ』

 本題じゃなかったんだ、これ。極秘情報をついでで話すなヨ……。

『封印を解く方法は、石をすべて割ること』
『それだけ……ですか?』
『だが封印者でない限り、石を割る度にとてつもない、回避不能、威力減少化の攻撃魔法が浴びせられるらしい』

 うわぁ……趣味悪い~~。
 封印を解こうとするんだから、それぐらい当然だろうけど。

『あと、一つの石を割って5秒以内に次の石を割らないと、石は復活する。痛みで悶絶している間に、5秒なんてものはあっという間に過ぎる』
『それが、最低でも2つ、解かれた……と』
『ああ、そうだ』
『たとえば、一つの石に1人着かせて順番に割れば……?』
『いや、すべて同じ者がやらないと、封印は解かれない。石も割れない』

 頑丈な封印だな。
 封印は技術だ。それが失われてしまったのは大きい。

『とりあえずの情報はこんなものだ。封印された魔物に関しては、封印を解こうとする愚か者を出さないようにするため、情報は意図的に排除されている』
『情報は0、ですか……。それが私たちにとって仇となるとは……滑稽ですね』
『まさに、そうだな……。さて、話は終わりだ。今日中にあと3人には話をしておかないとならないから――』

 最後まで言い終わらないうちに『通話トーク』が切れた。
 せっかちな人だ。可哀そうに……。
 オレは絶対騎士団長や副騎士団長にはならないと決めた。





 とある場所

「調子はどうだ? お前たち」

 そこに座るのは魔物連合盟主。
 そして側には、ぼろぼろのフードで全身を覆っている何か。
 2人の前には、跪いている5体の魔物。いずれも姿は隠れていて見えない。

 この場所は、『人』はおろか、魔物の誰も見つけられなかった場所。
 そこの更に奥深くにある。

「こいつらで全部か?」

 盟主は側に立つ者に尋ねた。

『はい。この者たちこそ、現代まで封印されていた選り抜きたちです』
「そうかそうか。さて、諸君。我が配下となってくれたこと、感謝するよ」

 盟主はにこやかにそう言った。

「お前たちは、今後こう名乗るといい。【六道ろくどう】。『人』どもに報いを……」
『『は!!』』

 5体の魔物は部屋から出て行った。が、外に出たわけではない。
 盟主に待機と命令されている以上、この場所から出ることはできない。

『盟主様。一つ、よろしいでしょうか?』

 側に立っていた者が盟主に声をかけた。
 他の配下の中でも一等礼儀正しいのと、元いた側近が死んだため、こうして側近となっている。
 そしてなにより、配下の中で一番強かった。

「どうした?」
『あの魔狼フェンリルですが、あれでよろしかったのでしょうか?』
「構わんさ。あれは脳をやられていたからな。どこぞの馬鹿が精神に細工をしたのだろうよ。それがなければ、お前とあれだけで十分だったのだがな」

 当初の予定では、魔狼フェンリルを仲間に加え、この側近と魔狼フェンリル、そして盟主の3人で『人』を滅ぼす予定だった。

 しかし、封印から解かれた魔狼フェンリルは、封印を解いた前・側近を殺し、逃亡。

 その場に盟主も居合わせたが、話が通じないとみると、撤退を下した。
 前・側近は一瞬遅れたため、死んだ。

「とはいえ、あのラインが魔狼フェンリルを倒すとはな。とうとう、器の所持者として目覚めたか……?」



 
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