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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第97話 帰る
しおりを挟む壁画の側まで近づき、辺りを見渡す。
覚醒し、『透視』と魔力探知を発動する。
だが、何も発見できなかった。これ以上何も見つかりそうもない。
だがここで数年前、謎魔物……改め魔狼の封印が解かれた。
誰がこの封印を解いたのかはわからない。
この封印は、あの4つの白い石と真ん中の石柱のすべてを破壊しないと解けない仕組みだったのだろう。
事故で封印が解かれるとは思えない。
辺りに散らばった石を見るに、この地下への入り口は閉じられていたはずだ。
「にしても、こんな場所は地図には載っていなかった。こんな場所が他にもある可能性が出てきたな。【放浪者】に伝達が必要か……。騎士団長に言っておこうか」
連合の隊長や盟主が見つからない以上、こういった遺跡に隠れている可能性があるか。
遺跡は複数個ほど、各地出見つかってはいる。が、どれも探索されつくしたはずだ。
当たり外れがあるのか、そもそもこの答えが間違っているのか。
何はともあれ、騎士団長に話をしておこうか。全部投げちまおう。
まあいい。目標は達成だ。村の戻ろう。
村長に『通話』で、今日中に村に帰る旨を伝える。
晩ご飯までには帰れそうだ。
村跡まで『流星駆』は使っていなかった。
そう、これを使ったおかげで、昼過ぎには村に着く計算となった。つまり、問題は昼ご飯。
道中でバモを捕らえ、生活魔術の『点火』で火を起こし、焼いて食べる。
フレイは近くにあった木の実を持ってきて食べ始めた。アヌースは草食だ。
そして、もう少しで村に到着…………となる前に、連合の魔物を発見した。隊長はいなさそうだ。
「フレイ、頼む」
連合の連中は一か所に密集していた。
見た感じ、バランスのとれたパーティー編成だ。魔術型が1匹、近接型が2匹、防御型が1匹か。
魔術師は進化型オーガ。近接はディービービと、6本の腕を持つ魔物――土蜘蛛。防御型は全身が岩のような魔物――ゴンディ。
ゴンディって…………(笑)。いつ聞いても笑えるネーミングセンス。
【魔力の目覚め】以前から存在する魔物のネーミングは独特すぎる。
カクトツとかゴンディとかバモとか。
フレイが着地と同時に『激震』を使い、4体の魔物は転倒する。
足腰がなってねぇな。
そして、『雷翔』を使い、ディービービが倒れる。
オーガと土蜘蛛は若干、耐性があるようだった。
ゴンディは耐性がありそうなのに痺れて動けないようだ。
まあ、ゴンディは岩のような見た目だからな。岩じゃない。
岩のように硬いのは間違いないけど。だが、硬いのは外皮のみ。
痺れているところに『音砲』は効果が薄い。
それに、最初に潰すべきは魔術師だ。
進化型オーガに近づき、剣で胸を一突きにする。そして『晶装・槍』を3本作り出し、刺す。
その勢いでオーガの体を後ろに飛ばし、剣を引き抜く。
剣を振り、血を落とす。
すぐ後ろには土蜘蛛が4本の腕に持った棍棒を振り上げて立っていた。
だが、気配と音でばればれ。
「――『晶壁』」
棍棒を『晶壁』で防ぎ、次に――
「――『晶壁棘』」
『晶壁』から『晶棘』を出し、土蜘蛛の体を貫く。残るは痺れて動けないゴンディのみ。
ゴンディを見るのはこれが初めてだが、亀みたいだな。あんなに可愛くはないけど。
苦しませないよう、武器を棍に変え、『重撃』と『剛撃』で頭部を破壊する。
死体をどうしようか……。
選択肢1。放置。
しかし、血の匂いに釣られて他の魔物が来るかもしれない。
他の魔物を呼ぶわけにはいかないな。村も近いわけだし。
選択肢2。埋葬する。
サイズが大きいから掘るのが面倒。道具もない。
選択肢3。解体する。
無理、食べられない。硬くて不味いんだ。
選択肢4。遠くへ運び、捨てる。
……ああ、これでいこう。
魔物の死体を『晶鎖』でぐるぐる巻きにする。
そして『晶鎖』の端を合流させ、1本の『晶鎖』にする。
辺りの木々を斬り倒し、準備完了。
覚醒し、『晶鎖』を持って回す。
ハンマー投げの要領だ。やったことないけど。
大分勢いが付いてきた辺りで、村とは反対方向へ飛ばす。
魔力操作範囲――30メートルを過ぎたところで『晶鎖』を消す。
これで、魔物の死体が空を飛んでいる摩訶不思議な光景の完成だ。
まあ、血抜きもせずにぐるぐる回したわけで……辺りは血まみれだ。
回していた張本人のオレに血は付いていない。返り血がつかないように戦闘を行っていたし。
フレイは事前に空中にいたため、返り血はない。
ただ問題は、ここで快楽殺人が起きたんじゃないかと思える現場となったこと。
まあいいか。オレは知ーらね! っと。
クラーク村へ戻り、夕食を食べ、子供たちを風呂に入れ、眠る。
そして翌朝
オレはへラリア王都へ戻る日となった。今日は村の――漁に出ていない――人たちがオレを見送るために集まっている。
村長が口を開く。
「ルルクス様、お世話になりました」
「こちらこそ、長期に亘る滞在中の食と住の提供、感謝します」
オレ、この村にどれぐらいいたっけ? たしか……40日ほどか。
騎士団長に近況を聞いたところ、ここ数日で、再び連合の動きが静かになってきたらしい。
とりあえずはまた一時の平穏か。
「ルルクス様、我ら一同、心より感謝を……。そして、またいつでもいらしてください」
「ありがとうございます」
普段、敬語は使わなかったけどTPOは弁えている。
次に口を開いたのはこの村の騎士、シーヨーだった。
「ルルクス様、稽古をつけていただき、ありがとうございました」
「ああ。これからも励めよ」
「はい!」
やっぱり真面目だなぁ、こいつ。まだ伸びしろはある……と思う。
オレ、教官じゃないもんな。まあ、ミスリル級だし、まだ若……くはないか。
オレの7つ上だったもんな。つまり28歳。
2か月前がオレの誕生日だった。だから、今オレは21歳。
そして、最後に口を開いたのは、リアナスだった。
「ライン、また戻って来なさいよ」
「おう!」
子供たちは孤児院で留守番だ。来たらうるさいから。
にしてもこのリアナス、来たばかりの頃とは雲泥の差だな。
どこかで入れ替わったんじゃないかと、密かに疑っている。
「それじゃ!」
こうしてオレは、ケモミミたちの村、クラーク村をあとにした。
村が見えなくなったあたりで仮面を着け、空を飛ぶ。
そして『流星駆』を使い、一度、ワインド国王都で宿を取った。
そして、騎士団長に報告を入れる。
『騎士団長、ラインです』
『ラインか。どうした?』
『ええ、ワインド国クラーク村での一件が片付きましたので、帰還の連絡と報告を』
そうしてオレは、村で起こった出来事やその他諸々を話した。
周辺の村々を襲っていた謎魔物の正体が、はるか昔に封印されていた魔狼だったこと。
その封印は誰かが故意的に解いた可能性が高いこと。
遺跡の話。
魔狼を倒しにきた連合の話。
『――以上です』
『ふぅーー……。なるほどな。解かれた封印か。となると、他にも封印があるかもしれないな』
『ええ。かなりの強さでした。連合の隊長よりも強いかと……』
隊長と戦ったのは、あの第十隊の人狼ぐらいだな。
エルフの国で遭遇した異形蛇は、魔物かどうかすら怪しかったし、魔力は持っているだけの雑魚だった。
『だが、倒したのだろう?』
『ええ、まあ。相打ちに近い形でしたけど』
オレも3日近く眠っていたわけだしな。かなりの重症だったし。
『なんにしろ、よくやってくれた。クラーク村付近の連合の調査。周辺の村々を壊滅に追いやった魔物まで討伐し、調査するとは』
『そうなってしまった、と言うべきでしょう。連合が魔狼と戦うところに、偶然遭遇してしまったので』
『終わりよければすべて良し、だ……。結果的に見ればお前の働きはとてつもないものだ』
『まあ、ありがたく受け取っておきましょう』
謙遜しておいて、持ち上がったところで受け取る。これがオレのやり方だ。
『さて、ではライン、お前はへラリア王都に戻って来てくれ。今は連合の動きも落ち着いているからな。一週間後に戻ってくればいい』
『はい、わかりました。ゆっくり帰るとしましょう。では、失礼します』
騎士団長との『通話』を切り、寝る。
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