101 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第95話 クラーク村での戦い④
しおりを挟むクラーク村では、建物の修繕が行われていた。
ラインと謎魔物との戦いで倒壊した家屋の数、7。修復が必要な家屋は全部で8つ。
寝る場所のない村人は、孤児院で過ごしている。
潮風の影響もあり、この村に畑はない。
漁業で生計を立てている村だ。つまり、船と網は必需品。
それらが無傷だったのは、不幸中の幸いだった。
修復資金はすべて国がもっている。支援物資も無料で届く。
周辺の村からも人手がやってきて、村の修復は2週間で終わった。
それに、相変わらず漁はできていた。
本来、魚介類は野菜などの農産物よりも高値で取引される。
今回、このような事態に巻き込まれたため、クラーク村の魚介類は、国が通常より若干高値で買い取り、通常の値段で商人たちに提供した。
国からすれば、大赤字となる行為だ。
しかし、【水晶使い】が関わっているとなると、国は無下にできなかった。
2週間が経ち、村は元通りに回復した。
しかし、村のどこにもラインはいない。
11日前――ラインと謎魔物との死闘から、わずか3日後。
孤児院のベットで寝ていたラインは、目を覚ました。
「ライン! ――目が!」
横にいたのはなんと、リアナスだった。
「リア……ナス……? なんでここに?」
オレはてっきり、当番でいるのだろうと思っていた。
「寝ぼけてる?」
「いや、そういう意味ではなく……当番か何かか?」
「いや、たまたまよ。なんとなく様子を見に来たの」
嫌々ここにいたわけではないのか。よかった。
「あれから、何時間経った?」
「時間……? えーー……っと、72時間弱?」
「3日後か。そうか、3日も眠っていたのか」
「いや、3週間は目を覚まさないって言われてたわよ?」
WとDの間違いだろ。weekとdayの。
まあ、目は覚めたからよしとして…………。問題は、だな。
「お前、口調変わったな。何かあったのか?」
「もう、肩に力を入れる必要はないと思って。ラインのことを、信用できたみたい」
何、そのヒロインみたいな台詞。
「人間不信だったのか?」
「…………」
「何があった? お前の過去に。言いたくないなら言わなくていいが」
言わなくてもいいとはいったけど、聞きたい。
言わなくてもいいなんて思っちゃいない。
「私の村は、あの魔物に襲われたわけじゃないの…………」
ああ、そういうことか。話は読めた。
「私の村を襲ったのは魔物じゃなくて、『人』だった――」
リアナスは語り始めた。厳重に閉じ込めた記憶を。
彼らは、親切な人たちだった。
彼らは、村に時々来る隊商で、村によく、薬や雑貨を売りに来ていた。
──でも、ある日突然、村に火を放った。
隊商の荷馬車の中には、数えきれないほどの人がいた。
村人たちは全員、惨殺された。
村には騎士と冒険者がいたけど、あいつらの中にも覚醒者が数人いて、瞬く間に村は地獄絵図と化した。
でも、あいつらの中の1人に見つかって、死を覚悟した。
でもそいつは私を殺さず、逃がしてくれた。
私を袋の中に入れ、「トイレ」と言って隊から離れ、私を解放した。
1人で森の中を生き残ることのできるようにと、ナイフと救護用花火をくれた。
救護用花火は、3時間後に使えと言われていたから、言われた通り、3時間後に使った。
日時計を使って、時間を計った。
夜が来る前に、冒険者パーティーが到着し、私は救われた。
そしてそのまま、この村の孤児院へ預けられた。
そしてその1週間後、盗賊たちが全滅したとの噂が流れてきた。
「…………これが、私の人生」
そう言うリアナスの目には、なんの感情も浮かんでいなかった。悲しみも、怒りすらも……。
「私の身は、私で守る。でも、子供たちを放ってはおけなかった」
「自分と同じ境遇だったからか?」
「それもあるけど何より、安全だから」
そうか、やっぱりこいつは人間不信なんだな。『人』不信っていう方がいいのか?
「そうか……いでっ!!」
「傷は完全に塞がっていないから、安静にね。私の魔力じゃ、止血と治癒力促進しかできなかったの」
そう言われ、自分の体を見る。
リアナスの急変した態度に目を奪われ、自分の体のことなど、頭から抜け落ちていた。
オレの体は、服の上からだとわかりにくいが、包帯でミイラ状態だった。
「騎士団から治癒術師が派遣されたから治りが早くなったんでしょうけど、それでも……」
オレ、こんなに傷多かったか?
大きな傷は、腹と左肩ぐらいだと思っていたんだが。
それに、明らかに武装していた箇所も怪我をしている。
一体、何が起きたんだ? だが、かろうじて歩くことはできそうだ。
「……ちょっと歩く」
「だ、大丈夫なの?」
「リハビリも兼ねてな。…………ぐっ!!」
「肩を貸すわ」
「ああ、ありがとな」
ほんと、丸くなったなこいつ。
目を盗んで仮面を着け、『透視』を使う。うん、魔物ではなさそうだ。
外に出ると、村は急ピッチで復旧作業が進んでいた。魔物の死体はそのまま放置だ。
「なんで死体を放置したままなんだ?」
「まだ調査が済んでいないの。未知の魔物とのことだから、近いうちに国から調査隊が派遣されるわ」
一応、ちゃんとしているようだ。
とは言え、これと同じ個体が出現するとは思えないけど。まあ、確率は0ではないか……。
「なあ、こいつはここから一歩も動かしてないのか?」
「ええ、そうよ」
「つまりオレの今立っているここは…………」
そうだ、オレはこの位置から魔法を放ち、一瞬の隙にあの、今魔物の頭部が転がっている辺りに立っていた。
覚醒していたとは言え、あそこまで一瞬にして移動し、居合斬りを放ち、魔物の首を斬った。
オレはリアナスに肩を貸してもらいながら魔物のもとへ移動した。
そして、首の断面を触る。…………硬い。肉も、骨も。
それに、抵抗などなかったかのようにスッパリ斬れている。
肉は弾性も有している。
これを斬った? オレが?
「すまん、ちょっと離れていてくれ」
リアナスを離れさせ、刀を出す。
そして覚醒し、刀を振り下ろす。だが、骨に止められてしまった。
肉は、こいつが死んでいるせいか、あっさり斬れた。でもやっぱり、多少の抵抗はあった。
しかし、この骨の硬さはどうなってやがる?
技術を使えば骨も斬ることができるだろう。
でも、ここまで綺麗には斬れないだろう。
「何やってるの?」
「ああ、いや。少し気になることがあってな。……とっとと…………」
「大丈夫じゃなさそうね。にしても、何があったの? その傷、まるで内側から破壊されたよう…………」
「そうなのか?」
「うん、『状態異常看破』で見ればね」
あれ、『状態異常看破』って回復術師専用の魔法だったよな?
ああ、そう言えばさっき、「私の魔法では」って言っていた。つまり……
「リアナス、お前…………回復術師なのか?」
「独学だけどね。学校にも行っていないしね」
まあいい。ただあの瞬間、オレは「できる」と思った。
漫画風に言えば、あの瞬間オレは限界を超えた。
その反動として、オレの体が内部から崩壊したと考えるのが妥当か。
つまり、オレの強さはまだ限界じゃない。
まあ、器の能力も条件を満たしていない今、使えないからな。
能力が目覚めると、強くなるかもしれないな。
しかしこの場合、成長で突破するものではなさそうだ。
覚醒みたいに、成長限界の突破が必要なんだろう。ゲームで言う、レベル限界の上昇。
「ん…………?」
森から謎の気配……? この感じ、魔物か?
魔力探知で見える範囲にいる。これは…………ちょっとまずいか?
いや、大丈夫そうだ。雑魚の集まりだ。
そして、森から一体の魔物が姿を現した。それは、人狼だった。
その体には2本の赤い痣が浮かんでいる。連合の魔物だ。
そして口を開き、近くにいるオレに話しかけてきた。
喋れるらしいが、実力は一般の人狼と同じぐらいだろう。
敵意を向けてくるようでも、勝てる。
『……お前、これ、倒した?』
カタコトだった。頭もよくなさそう。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる