上 下
100 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第94話  クラーク村での戦い③

しおりを挟む

 ここは、謎魔物の攻撃のおかげで家屋がなくなり、広場とつながった。
 おかげで、騎士団祭の会場よりも広い。

 棍を剣に変える。
 そして、【魔導士】の技からアイディアを得た新技を使う。

「――『晶装・剣』」

 この剣、片手両刃剣の形を模倣コピーし、水晶で再現ペーストする。しかも、大量に。
 それら全てをオレの周囲に待機させる。
 その数、12本。
 
 そして、謎魔物が距離を詰めてきた。
 それと同時に、手に持った大剣を振り下ろしてきた。 

 だが、オレはそれを受け流した・・・・・
 大剣は地面にめり込む。

 すかさず、足で押さえつける。
 謎魔物は必死に剣を抜こうとするが、オレがそれを許さない。
 オレも必死で押さえつける。

 その隙に、謎魔物を囲むように『晶装・剣』を展開する。

 ――そして黒ひげ危機一髪のように、剣が謎魔物の体中に刺さる。

 そして極めつけに、オレの手にあるオリハルコンの剣を、謎魔物の胸に刺す。

「これで――」

 ――グシャ!

 顔を強く殴られ、背後にあった家にぶつかる。
 その衝撃で家は倒壊する。誰かさん、ごめんなさい。
 
「ぺっ」

 口の中を切った。
 家にぶつかる前に『晶皮』が間に合ったが、謎魔物の攻撃をもろに食らってしまった。 
 大きな攻撃を加えていたこと、オレが謎魔物の胸の前に立っていたことが幸いし、骨折はなさそうだ。

 修理費は国に請求しようか。聖火の指輪リングオブクリーンフレイムを買って、懐が冷たいんだ。

 

 にしても、剣はどれもあまり深く刺さっていない。
 つまり、それだけ筋肉が発達しているということ。

 とは言え、武器は返してもらわないとな。

 オリハルコン――謎魔物の体に刺さっている剣を消し、再び手の中に出す。

 ここまで攻撃の効きが悪いのなら、狙う点は…………

 1つ、眼球。
 2つ、『音砲ショックキャノン』による防御無視攻撃。

 だが、どれも決定打にはならない。1つあるとすれば、眼球から脳へ。
 ただ、これをやるには、謎魔物が動かないでいてくれること。頭蓋骨が硬くないこと。
 この2点が鍵だ。

 そして、謎魔物の攻撃は侮れない。破壊力が桁違いだ。

 あの、周囲に振動を与える魔法らしきもの。
 これはフレイの『激震インパクト』と同じだろうと推測できる。

 あの武器は、とんでもない質量だ。
 それにあの謎魔物の桁違いのパワーに、あの長い手が生み出す遠心力。
 質量×圧倒的なパワー×遠心力。振り下ろしの場合、重力加速度も味方する。

 大剣使いは何人もいるが、目の前のこいつは桁違い。
 その実力はおそらくだが、連合や騎士団の隊長を優に超えるだろう。

 つまり、オレがこいつに勝てば――英雄だ。
 

 
 あの謎魔物に刺さった剣はもう消してしまおうか。出血による弱体化も狙いだ。

 あいつの毛皮には、棍や水晶の殴打効果は効きが悪い。

「――『晶装・槍』」

 とりあえず、少しでもダメージを与えることを目標とする今は、使用するのは刺突武器の方がよさそうだ。との判断から槍を作る。

 維持魔力も考え、生成したのは3本。
 すべて、オレの周りに待機だ。

 近接戦だ。

 距離を詰め、直前で武器を片手斧に変化させ、振り下ろす。
 
「動きは学習させてもらったぜぇ……!」

 謎魔物が先ほどからオレに対して行っていた攻撃と同じ動きだ。
 あれだけ何度も見せられたら、誰でも学習できる。

 それに、こいつは結構慎重派らしい。見た目に反し、冷静クールだ。

 攻撃は避けられた。――が、想定の範囲内だ。

 あえて中心線より若干右側を狙った。
 だから、謎魔物は左側に90度回転しながら避けた。
 
 だが、その方向には水晶の槍がある。
 少しでも深い傷を負わせるため、30メートル離れているところに待機させていた。

 そして、水晶の槍が謎魔物の背中に刺さる。
 進行方向は一定。加速度もあり、謎魔物に到達する頃にはかなりのスピードに到達していた。

 今回はかなり深く入った。

 ──だが、先ほどとは状況が違った。

 さっきは大剣を押さえつけていたため、殴られるだけで済んだ。
 今回は違う。大剣は謎魔物の手の中。
 そして、天高く振り上げられている。

 武器を棍に変え、水平に構え、防ぐ。が…………

 大剣にはあまり力が入っていなかった。それに気づいた瞬間、腹に衝撃が走った。

 オレの体は、ボールのようにバウンドしながら地面を転がった。

「がはっ……がほっ…………!」

 吐血する。
 肋骨が数本やられたか。

 今は、オリハルコンで完全武装をしている。
 防具も装備している。手甲ガントレット足甲グリーブも。そして――胸鎧ブレスプレートも。 
 胸鎧《ブレスプレート》越しでもダメージが入った。だが、オリハルコンにダメージはないように見える。

 つまり、今のはオレの『音砲ショックキャノン』と同じ、貫通――防御無視攻撃。
 『激震インパクト』か? 『重撃』の可能性もあるか。

 それにしても、今のはかなり重い一撃だった。
 覚醒していなければ、今頃は戦闘不能だっただろうな。危ない。
 ダメージはかなり大きいがな。正直に言って、痛い。



 どっちが先に倒れるか……。オレの負けは、村人たちの死だ。
 こいつがこの辺りの村を襲い、壊滅させた犯人なのは確実だ。
 おまけに、すごく強い。

 口元の血を拭い、棍を構える。
 そして、周囲に水晶の槍を出しておく。今度は、これらを上空に動かす。
 今度は、30本だ! 集中力が少し持っていかれるから、早めに使いたいところだ。

 再び距離を詰め、顎を狙い、棍を突き出す。
 そして棍を刀に変え、体全部を使って思いっきり振り下ろす。
 その際に足を曲げていたため、そのままバックステップで反撃を躱す。
 
 それでも、鼻先を大剣が通った。脳がいろんな場所にあるんじゃないかってぐらいの反応速度だ。
 だが、その風圧がバックステップを後押ししてくれる。

 その瞬間、謎魔物に一瞬、チャンスが生まれる。
 
 上空の槍を、すべて落下させる。自由落下ではなく、下向きに力を加え続けているため、加速度がいろいろすぎことになる。
 今回は柄を短く、穂を大きくしてある。
 そして無駄なく、全部が謎魔物の上に落ちる。

 そこに、さらにオレのサポート。
 振り下ろされた大剣を、『晶鎖』で地面に固定。万が一を考え、何重にも『晶鎖』を出す。
 いくら馬鹿力でも、これを破ることはできないだろう。

 謎魔物が上を向く。その顔には、諦めが浮かんだように錯覚した。

 だが、オレはこいつの強さを身をもって知った。だから、さらに一手、用意した。

 オレの前に、水晶の剣を12本出し、剣先はすべて謎魔物の方向を向いている。
 謎魔物に槍が当たるその瞬間、すべての剣を発射させる。

 そのとき、謎魔物を中心に凄まじい衝撃波が走り、すべての水晶が砕け散る。だが、オレの体にダメージはなかった。
 オレの『魔法排除リジェクトマジック』と同じ効果があるのか? まあ、高確率でそれだろう。

 だが、それで終わりではない。
 もう1つの手――物理攻撃。

 謎魔物の背後に回り込み、刀を鞘に納める。
 その瞬間、謎魔物の首と体がサヨナラした。首ちょんぱだ。

 オレの脇腹からは血が流れている。

「ああ、オレも……やられたか…………」

 大剣は地面に固定されたままだ。じゃあ、オレは何に……。

 謎魔物の剣を持っていない方の手を見ると、何かが霧散しているところだった。
 それと同時に、大剣も霧散している。
 おそらく、魔法の効果で生み出していたもの。

 オリハルコンの下――腹部を怪我している。傷跡を見れば何にやられたのかわかるんだが…………。
 もう、無理だな。

 ――そのとき、オレの意識は途絶えた。

 体中から血が流れている。回復術師のいないこの村では、オレの命も怪しいな。

 騎士が連絡してくれるか……。いや、もうすでに連絡しているかもしれない。
 村長はあのときすでに致命傷というか、死にかけだったし。

 もう、オレは何も考える余裕はなかった。

 そのままオレの意識は、暗い暗い……闇の中へ沈んでいった。
 天空へ浮上しなかっただけマシだと思おう。
 


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...