上 下
99 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第93話  クラーク村での戦い②

しおりを挟む

 謎の魔物が、血から大剣を生成する。

 その大剣は、血から作り出したとは思えないほど黒かった。そして、奇妙な形に歪んでいた。
 
 人狼に(若干)似た顔に、何の感情も浮かんではいない。
 狂気に濡れた唸り声もない。
 狂気を孕んでいるのかすらわからない。

「お前はなんだ?」

 答えは返ってこない。

 脳がやられているような反応と目だな。

 謎魔物が身じろぎしたかと思ったら、すぐ目の前に迫っていた。
 そして、大剣を振り上げ――





 いつもと変わらない日常を過ごしている、クラーク村。
 そこに、ラインの愛馬――フレイがたった一匹で村へと戻って来た。
 いち早く気づいたのは、リアナスだった。

「フレイ? どうしたの、1人で? まさか……ラインになにか!?」
「ぶるる」

 フレイは首を横に振り、それを否定した。

「ぶるっ……ぶるっ!」
「なに!? どうしたのフレイ!?」

 フレイはリアナスの体を押し、村のはずれへ行くように促す。
 それは、森とは反対方向だった。

「まさか、森から離れろってこと? 森で何かが起きてるの!?」
「ぶるっ!」

 フレイは頭を縦に振り、その質問を肯定する。

「なるほどね。……わかった! 村の人たちをこっちに誘導すればいいのね!」
「ぶる」

 フレイは激しく頭を縦に振る。
 ちなみに、これはフレイの独断だ。

 フレイの考えに従い、リアナスは村のはずれに村人たちを連れて行った。

 普段、物静かなリアナスが必至に村人たちを集めて話をしていたため、村人たちは何かよくないことが起きるのだろうと察することができた。
 だから、みんなリアナスの指示に二つ返事で従った。



 村人全員を避難したその直後、森から1つの影が飛んできた。
 




 ――間一髪で、棍を水平に構え、謎魔物の攻撃を防ぐ。

「ぐっ!! なんちゅーー馬鹿力だ……ヨッ!!」

 大剣を弾き飛ばす。
 その勢いで、謎魔物は大きくバランスを崩す。

 まずは内部破壊だ。

「――『音砲ショックキャノン』!!」

 貫通、範囲攻撃の『音砲ショックキャノン』だ。
 効きはいいらしい。謎魔物は大きく揺らめく。

 そのまま、倒れ――

「――は?」

 倒れるだろうと本気で思っていたオレが愚かだった。
 目の前にいる謎魔物は、連合の隊長よりも強い。

 倒れ際に大剣を振るい、斬撃が飛んでくる。
 そう、オレたちが使う技術スキル、『飛撃』だ。

 油断していたため、反応が一瞬だけ遅れた。だが、なんとか間一髪で避けることができた。

 左腕に掠り、服が破けた。が、腕は無傷だし、服も瞬時に治った。

 謎魔物の放った『飛撃』は、大木を数十と斬り倒した。

 この方向はたしか、村だったな……。このまま『飛撃』を撃ち続けられたら、いつか村に届くかもしれない。
 位置を変えないとな……。


 
 …………ちっ! 
 位置を変えることができない。

 横に動こうものなら、『飛撃』で牽制してくる。
 こいつには、騎士道精神でもあるのか?

 と思ったオレが愚かだった。愚か2回目だ。

 謎魔物は大きく跳躍し、オレを飛び越えていった。
 まさか……!!

 ――『人』の気配、匂いを感じたのか!!

 急いで追いかける。
 幸い、そこまで足は速くないようで、すぐに追いつけることができた。

「お前の相手はオレだと――」

 ――ドンッ!

 ノールックで押し飛ばされた。
 ……が、手は打った。

 オレの右腕から『晶鎖』を伸ばし、謎魔物の体に巻き付ける。
 間に木の枝を挟んでいるため、滑車の原理で必要とする力が軽くなる。

「捕まえたぁ……!」

 そして、謎魔物はようやくオレを敵と認定したらしい。
 向かい合い、謎魔物の体をよく観察する。

 正体不明。奇怪な技を保有している。
 進化型や異形型に加え、突然変異まで持ち合わせているのか?

 だが、重くて持ち上がらない…………!

「――『晶弾』」

 あの毛皮に『晶弾』は効くのか……効かないのか……。

 …………効いた。

 だが、あまり深くは入っていないっぽい。  
 浅そうだ。

 しっかし、こいつの正体はまったくわからない。『不可知の書』で検索するが、何もヒットしなかった。

「なら……これだ! ――『晶装・そう』!」

 水晶で槍を3本作り出し、謎魔物目掛け放つ。 
 が、それが謎魔物に届くことはなかった。

 謎魔物が手に取った大剣を、一瞬で何閃も振るい、すべての攻撃を打ち消した。

 それどころか、その攻撃はすべて『飛撃』だった。 
 おまけに、恐ろしく速い。
 避けるのも、近距離だったこともあってギリギリだった。

「――『晶皮』!」

 避け切れず、左肩に当たってしまった。『晶皮』でダメージは大幅に軽減させることができたが、元の威力が大きかったため、軽く斬れた。
 傷口は深くはないおかげで、戦闘の続行は可能だ。

 それに、今ので『晶鎖』がバラバラにされた。……が、オレを敵として認識しているようなので、逃げることはない。

 今度はオレから行かせてもらおうか!

 棍を構え直し、距離を詰める。
 そして、腹目掛け、6連突きを放った。そして最後に、大振りの一撃を放つ。

 それで、謎魔物は吹っ飛んでいった。追撃の一手として、『音砲ショックキャノン』を放つ。
 範囲を極限まで絞り、威力を上げる。狙ったのは、頭。

 しかし結果として当たったのは、幸か不幸か、胸だった。

 …………ん? この音は……! まさか! 

 謎魔物が飛んで行った方向から、波の音と船が揺れる音。
 船がある、ということは、人がいるということ。

 木々をすり抜けながら進むと、すぐに・・・森を抜けた。そこは、先ほどまでオレのいた村――クラーク村だった。

 だが、人はいない。仰向けに横たわった謎魔物以外。
 仮面を外し、村に入る。

 ちょうどそのとき、フレイから村人の避難の完了の意思が伝わってきた。

 オレは指示を出した覚えはないので、これはフレイの独断だろう。
 ほんと、賢いやつだ。あとでご褒美を上げよう。
 この意思は伝えていない。サプライズだ。

 そして、件の謎魔物はというと、ふらふらとしながら立ち上がっている。口からは血が出ている。
 ただ、そのオーラには殺気と狂気が含まれているように思えた。
 もちろん、オレの気のせいの可能性もある。

「ここはオレの滞在先の村でな。ここを荒らさせるわけにはいかない。森へ帰って…………」

 そんなオレの思いを裏切るかのように、謎魔物は周囲の建物を吹き飛ばした。

 足を振り上げ、地面を思いっきり踏む。
 それと同時に、辺りに大きな振動。それにより、建物が倒壊する。

 この振動はオレには届かなかったが、砂煙は大量に届いた。サングラスで目をガードする。

 そしてその倒壊した建物を、謎魔物が腕を振るい、建物の瓦礫を吹き飛ばす。
 しかも、これら一連の流れが一秒にも満たない一瞬で行われていた。

「化け物が! ここを荒らすなって言ったばかりだろが!」

 孤児院は離れていたため、被害はない。でも、いつ攻撃が届くかもわからない。

「ルルクス様……!?」

 ――!!
 声が聞こえた方を見ると、村長が物陰に隠れてこちらを見ていた。
 先ほどの謎魔物が立てた轟音が気になって見に来たのだろう。

「まずい!! ここから離れ――」
「は……ぁ……」 

 その瞬間、村長の体が、右肩口から左腰にかけて斬られた。
 そして村長は崩れ落ちる。

 誰が見てもわかる。致命傷だ。
 村長の体から、血が大量に流れる。だが、謎魔物のもとへ集まりはしなかった。

 攻撃がまったく見えなかった。あれがオレに向けられていたら、避け切れずに深手を負っていただろうな。

「すまない、村長さん。オレにお前を助ける技術は持っていない」

 それに、回復術師もこの村にはいない。
 もう助からないだろう。すでに虫の息だ。事切れるのも、時間の問題だ。

 村人たちを守っているフレイを呼び、村長を運ばさせる。

「よくもやってくれたな。覚悟はできてるんだろうなぁ?」

 オレの管轄下にある者を死なせてしまった。それはオレのプライドが許さない。
  
 その返答は、『飛撃』で以て返って来た。拳で語るタイプか。暑苦しいな。 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...