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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第86話  騎士団祭②

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 オレは今、ヤマルの兄と鍔迫り合いの状態。

 くっそ! この怪力め! 
 コラヤン兄の武器は大剣。人の身長と同じくらいの長さだ。質量は言わずもがな。

「――『晶弾』」

 対人戦では殺傷能力は抑えるんだが、この場では抑えない。

「くっ!」

 コラヤン兄は『晶弾』を間一髪で、体をのけ反らせることで回避した。そして、そのままバックステップ。

 オレは、棍を刀に変え、斬りつける。

「ようやく……一撃!」
 
 肩口から腹まで斬れた。鮮血が飛ぶ。コラヤン兄の服が赤く染まる。

 そのコラヤン兄のもとに、2つの人影が飛んできた。ゲラードとヤマルだ。
 どちらもそこそこの傷を負っている。

 だが、ターバと【魔導士】は無傷。
 いや、ターバは回復した可能性もあるのか。

「さて、│本当の《・・・》3対3をしようか」

 そう、これはチーム戦。

 3人は立ち上がり、武器を構える。
 戦力差は歴然だった。にも関わらず、立ち向かう。

 そう、それが――近衛騎士だ。
 口には出さない。自分でもクサイってわかってるから。

「コラヤン兄妹。これで決める」
「「了解」」

 作戦があるのか、ゲラードが前に出てきた。2人は後ろだ。

「──『秘剣・吹風すいすう』」

 コラヤン兄の剣の刀身に、風が纏わりつく。

 技術スキルの『秘剣』系は武器に付与する技だ。

 それに対し『衣』系は、身体に付与する。ちなみに剣でなくても『秘剣』だ。

「――『秘剣・流水』」

 ヤマルは槍の両穂先に水を纏わりつかせる。水は纏わりつくだけでなく、流れている。
 
「――『秘剣・発火』――『秘剣・吹風』」

 ターバが2本の剣にそれぞれ違う属性を付与させる。右に火、左に風。

 オレはできないんだよなぁ。
 オレが使えるのは、土属性と無属性のみ。

「さあ、行くぞ、コラヤン兄妹!」
「「はい!」」
「ライン、ターバ。手筈通りに!」
「「おお!」」

 オレたちは横一列に並ぶ。
 向かって左から、オレ、ターバ、【魔導士】。

「「――『炎槍ブレイズランス』!!」」

 ゲラードと【魔導士】が同時に炎の槍を放つ。
 ゲラードの『炎槍ブレイズランス』はオレを狙ったものだったが、【魔導士】の『炎槍ブレイズランス』は、ゲラードの『炎槍ブレイズランス』が狙いだった。
 ぶつかった2つは掻き消える。相殺だ。

「――『飛撃』!」

 ヤマルがオレ目掛け『飛撃』を放つ。『秘剣・流水』があるため、水を纏った『飛撃』が迫る。

「――『飛撃』」

 しかし、それを狙った『飛撃』が飛ぶ。ターバの、風を纏った『飛撃』だ。
 
 先ほどのぶつかり合いとは違い、『飛撃』の欠片と水が飛び散る。

 次はおそらく…………。

「おぉぉおおお!!」

 予想通り、霧の中からコラヤン兄が迫って来た。

「――『剛撃』!!」

 斬撃の塊である風を纏い、『剛撃』で威力を底上げした一撃が振り下ろされる。

「――『晶棘』!」

 右手から『晶棘』を出し、コラヤン兄を吹き飛ばす。寸でのところでガードされ、無傷だ。
 追い打ちを――

「――『爆炎ボム』!」

 完全に感覚・・外からの一撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。

「がはっ!!」
「――ライン!」

 着地には成功した。
 が、決め手の一撃だったのか、かなりの威力だった。おかげで、舞台の端まで飛ばされた。

「ごほっ……ぺっ!」

 血反吐じゃないよ、たんだよ。

「もらったぁ!!」
「――『炸裂炎プロミネンス』!」

 勝利を確信したコラヤン兄の背後で、【魔導士】の放った『炸裂炎プロミネンス』が命中し、大爆発を引き起こした。

 さっきの仕返しだ、コノヤローー!! 

「ぐはっ!」
「ふん!」

 こちらへ体を傾けてきたから、がら空きの腹目掛け――殴る。

「ふっ……!」

 体内の空気がすべて流れ出たようだ。
 そして、棍で顔を横から殴りつける。

「お前の相手はオレだ!!」

 売られた喧嘩は大抵、買う。お釣りが出ても受け取らない。それがオレのスタンスだ。

 吹き飛ぶコラヤン兄の顔面を掴み、地面に叩きつける。その勢いで会場に罅が入る。

「ゴフッ! こんのぉ!!」

 コラヤン兄は首跳ね起きでオレに蹴りを加えつつ、起き上がる。

「ぜぇ……ぜぇ…………はぁーー……」

 ヤマルとゲラードの相手は、ターバと【魔導士】だ。

「売られた喧嘩は買う趣味でな」
「これが喧嘩だと……? 俺の体、傷だらけじゃねえかよ!」
「正々堂々とは言ってねえよ!!」

 まあ、オレも攻撃を受けてるし。

 武器をハルバードに変え、コラヤン兄とオレの立っていた場所の、中間地点でぶつかる。
 振り下ろされる大剣を半身で躱し、ハルバードを横に振るう。

「――『水衣』!」

 躱された。結構リーチあるのに。
 武器を棍に変え、突きを放つ。右腕一本だけだが、そこは――

「――『重撃』!」

 で、カバーだ。
 棍が腹にヒットし、コラヤン兄を吹き飛ばす。

 吹き飛ぶコラヤン兄に追いつき、再び『重撃』で突きを放つ。

「こん……のぉ!! ――『火衣』! ――『重撃』! ――『剛撃』!!」

 火力は最大。だが、肉体が保たないはずだ。

「バカヤロ! 肉体がたねえぞ!」

 回復魔法で治るけど。
 まあ、そんなレベルの怪我はしないけど。

 あくまでハッタリだ。

「お前にさえ勝てれば……いいんだよ!!」

 超重量、人の身長ほどの長さの大剣。そして、コラヤン兄の怪力。
 それだけでもかなりの脅威だったのに。

 そこに、火力を上げる『火衣』と『剛撃』。
 吹き飛ばし効果のある『重撃』。
 これらの組み合わせは理論上、最高火力だ。

 最大火力の大剣が、さらに火力の出る、振り下ろしで。

「これで…………終わりだ!!」

 ――やばい!
 受け止める? だめだ、武器が折られる。
 避ける? 衝撃で吹き飛ばされる。

 だが、やらないより…………。

 ああ、諦めの姿勢になってたな……。

「――『音砲ショックキャノン』!」

 『音砲ショックキャノン』で思考を真っ白にさせる。勝利を確信してたから、その効果は絶大だった。
 一瞬、コラヤン兄の動きが止まった。その一瞬さえあれば――十分だ。

 『音砲ショックキャノン』は、内部にもダメージを与える。
 脳を一瞬フリーズさせることもできる。



 コラヤン兄の動きが止まったその一瞬の隙に、決定的な一撃を加える必要がある。

「――『剛撃』 ――『重撃』!」

 2つの技の組み合わせだ。
 これらを付与した棍で、コラヤン兄の腹部を思いっきり――突く。

「ごふっ……!!」
 
 そして、ここが舞台の端だったこともあり、コラヤン兄は場外負けとなった。

『おーーっと! ここでフェンゼルのヨウファン・コラヤンが脱落!!』
「くそ! お前と――」

 なんか喋ってたが、無視だ無視。どうせ嫌味だろ。
 
「加勢に行こうか?」
「いや、ここは私たちで終わらせます」
「了解」

 助けの必要はなし、か。
 まあ、押しているし、勝利は時間の問題だな。

 ヤマルの槍捌きは見事だが、ターバの手数と技量が相手だと、大した意味を持たない。

 ゲラードとかいうフェンゼルの副騎士団長も、魔法の腕は確かだが、加護持ちの【魔導士】の前では、まるで歯が立たない。

 それに、ターバとゲラードが戦っても、ターバが勝つし、ヤマルと【魔導士】が戦っても、【魔導士】が勝つ。
 実質、コラヤン兄さえ倒せば、あとは見世物試合エキシビションマッチに等しい。

 一番の脅威はコラヤン兄だった、というわけだ。
 向こうがオレに狙いを絞り、オレだけでも脱落させようとしたのに対し、オレたちもコラヤン兄に狙いを絞った。

 フェンゼルの連中は、一矢報いるため。
 そしてオレたちは、勝利を確実にするため、各々、コラヤン兄とオレを狙った。
 一矢報いる対象がオレだったのは、コラヤン兄の私情が故《ゆえ》だろう。





 そして、決着がついた。

『勝者は、近衛騎士の精鋭3人! 【魔導士】、【水晶使い】、【双剣士】!』

 決着は、ターバが会場の端まで誘導し、【魔導士】の『爆炎ボム』で優しく場外へ落とした。
 ゲラードは……相手が【魔導士】なだけあって、大したことがないように見えた。

 観客を見渡すと、騎士団長と副騎士団長がこちらを見ていた。

「終わったようだ」
「そうだな」

 2人は、初めはいなかった。所用で席を外していた、というのが表向き・・・の理由。
 その実の目的は……


 
 ――狩りだ。





 
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