92 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第86話 騎士団祭②
しおりを挟むオレは今、ヤマルの兄と鍔迫り合いの状態。
くっそ! この怪力め!
コラヤン兄の武器は大剣。人の身長と同じくらいの長さだ。質量は言わずもがな。
「――『晶弾』」
対人戦では殺傷能力は抑えるんだが、この場では抑えない。
「くっ!」
コラヤン兄は『晶弾』を間一髪で、体をのけ反らせることで回避した。そして、そのままバックステップ。
オレは、棍を刀に変え、斬りつける。
「ようやく……一撃!」
肩口から腹まで斬れた。鮮血が飛ぶ。コラヤン兄の服が赤く染まる。
そのコラヤン兄のもとに、2つの人影が飛んできた。ゲラードとヤマルだ。
どちらもそこそこの傷を負っている。
だが、ターバと【魔導士】は無傷。
いや、ターバは回復した可能性もあるのか。
「さて、│本当の《・・・》3対3をしようか」
そう、これはチーム戦。
3人は立ち上がり、武器を構える。
戦力差は歴然だった。にも関わらず、立ち向かう。
そう、それが――近衛騎士だ。
口には出さない。自分でもクサイってわかってるから。
「コラヤン兄妹。これで決める」
「「了解」」
作戦があるのか、ゲラードが前に出てきた。2人は後ろだ。
「──『秘剣・吹風』」
コラヤン兄の剣の刀身に、風が纏わりつく。
技術の『秘剣』系は武器に付与する技だ。
それに対し『衣』系は、身体に付与する。ちなみに剣でなくても『秘剣』だ。
「――『秘剣・流水』」
ヤマルは槍の両穂先に水を纏わりつかせる。水は纏わりつくだけでなく、流れている。
「――『秘剣・発火』――『秘剣・吹風』」
ターバが2本の剣にそれぞれ違う属性を付与させる。右に火、左に風。
オレはできないんだよなぁ。
オレが使えるのは、土属性と無属性のみ。
「さあ、行くぞ、コラヤン兄妹!」
「「はい!」」
「ライン、ターバ。手筈通りに!」
「「おお!」」
オレたちは横一列に並ぶ。
向かって左から、オレ、ターバ、【魔導士】。
「「――『炎槍』!!」」
ゲラードと【魔導士】が同時に炎の槍を放つ。
ゲラードの『炎槍』はオレを狙ったものだったが、【魔導士】の『炎槍』は、ゲラードの『炎槍』が狙いだった。
ぶつかった2つは掻き消える。相殺だ。
「――『飛撃』!」
ヤマルがオレ目掛け『飛撃』を放つ。『秘剣・流水』があるため、水を纏った『飛撃』が迫る。
「――『飛撃』」
しかし、それを狙った『飛撃』が飛ぶ。ターバの、風を纏った『飛撃』だ。
先ほどのぶつかり合いとは違い、『飛撃』の欠片と水が飛び散る。
次はおそらく…………。
「おぉぉおおお!!」
予想通り、霧の中からコラヤン兄が迫って来た。
「――『剛撃』!!」
斬撃の塊である風を纏い、『剛撃』で威力を底上げした一撃が振り下ろされる。
「――『晶棘』!」
右手から『晶棘』を出し、コラヤン兄を吹き飛ばす。寸でのところでガードされ、無傷だ。
追い打ちを――
「――『爆炎』!」
完全に感覚外からの一撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!!」
「――ライン!」
着地には成功した。
が、決め手の一撃だったのか、かなりの威力だった。おかげで、舞台の端まで飛ばされた。
「ごほっ……ぺっ!」
血反吐じゃないよ、痰だよ。
「もらったぁ!!」
「――『炸裂炎』!」
勝利を確信したコラヤン兄の背後で、【魔導士】の放った『炸裂炎』が命中し、大爆発を引き起こした。
さっきの仕返しだ、コノヤローー!!
「ぐはっ!」
「ふん!」
こちらへ体を傾けてきたから、がら空きの腹目掛け――殴る。
「ふっ……!」
体内の空気がすべて流れ出たようだ。
そして、棍で顔を横から殴りつける。
「お前の相手はオレだ!!」
売られた喧嘩は大抵、買う。お釣りが出ても受け取らない。それがオレのスタンスだ。
吹き飛ぶコラヤン兄の顔面を掴み、地面に叩きつける。その勢いで会場に罅が入る。
「ゴフッ! こんのぉ!!」
コラヤン兄は首跳ね起きでオレに蹴りを加えつつ、起き上がる。
「ぜぇ……ぜぇ…………はぁーー……」
ヤマルとゲラードの相手は、ターバと【魔導士】だ。
「売られた喧嘩は買う趣味でな」
「これが喧嘩だと……? 俺の体、傷だらけじゃねえかよ!」
「正々堂々とは言ってねえよ!!」
まあ、オレも攻撃を受けてるし。
武器をハルバードに変え、コラヤン兄とオレの立っていた場所の、中間地点でぶつかる。
振り下ろされる大剣を半身で躱し、ハルバードを横に振るう。
「――『水衣』!」
躱された。結構リーチあるのに。
武器を棍に変え、突きを放つ。右腕一本だけだが、そこは――
「――『重撃』!」
で、カバーだ。
棍が腹にヒットし、コラヤン兄を吹き飛ばす。
吹き飛ぶコラヤン兄に追いつき、再び『重撃』で突きを放つ。
「こん……のぉ!! ――『火衣』! ――『重撃』! ――『剛撃』!!」
火力は最大。だが、肉体が保たないはずだ。
「バカヤロ! 肉体が保たねえぞ!」
回復魔法で治るけど。
まあ、そんなレベルの怪我はしないけど。
あくまでハッタリだ。
「お前にさえ勝てれば……いいんだよ!!」
超重量、人の身長ほどの長さの大剣。そして、コラヤン兄の怪力。
それだけでもかなりの脅威だったのに。
そこに、火力を上げる『火衣』と『剛撃』。
吹き飛ばし効果のある『重撃』。
これらの組み合わせは理論上、最高火力だ。
最大火力の大剣が、さらに火力の出る、振り下ろしで。
「これで…………終わりだ!!」
――やばい!
受け止める? だめだ、武器が折られる。
避ける? 衝撃で吹き飛ばされる。
だが、やらないより…………。
ああ、諦めの姿勢になってたな……。
「――『音砲』!」
『音砲』で思考を真っ白にさせる。勝利を確信してたから、その効果は絶大だった。
一瞬、コラヤン兄の動きが止まった。その一瞬さえあれば――十分だ。
『音砲』は、内部にもダメージを与える。
脳を一瞬フリーズさせることもできる。
コラヤン兄の動きが止まったその一瞬の隙に、決定的な一撃を加える必要がある。
「――『剛撃』 ――『重撃』!」
2つの技の組み合わせだ。
これらを付与した棍で、コラヤン兄の腹部を思いっきり――突く。
「ごふっ……!!」
そして、ここが舞台の端だったこともあり、コラヤン兄は場外負けとなった。
『おーーっと! ここでフェンゼルのヨウファン・コラヤンが脱落!!』
「くそ! お前と――」
なんか喋ってたが、無視だ無視。どうせ嫌味だろ。
「加勢に行こうか?」
「いや、ここは私たちで終わらせます」
「了解」
助けの必要はなし、か。
まあ、押しているし、勝利は時間の問題だな。
ヤマルの槍捌きは見事だが、ターバの手数と技量が相手だと、大した意味を持たない。
ゲラードとかいうフェンゼルの副騎士団長も、魔法の腕は確かだが、加護持ちの【魔導士】の前では、まるで歯が立たない。
それに、ターバとゲラードが戦っても、ターバが勝つし、ヤマルと【魔導士】が戦っても、【魔導士】が勝つ。
実質、コラヤン兄さえ倒せば、あとは見世物試合に等しい。
一番の脅威はコラヤン兄だった、というわけだ。
向こうがオレに狙いを絞り、オレだけでも脱落させようとしたのに対し、オレたちもコラヤン兄に狙いを絞った。
フェンゼルの連中は、一矢報いるため。
そしてオレたちは、勝利を確実にするため、各々、コラヤン兄とオレを狙った。
一矢報いる対象がオレだったのは、コラヤン兄の私情が故《ゆえ》だろう。
そして、決着がついた。
『勝者は、近衛騎士の精鋭3人! 【魔導士】、【水晶使い】、【双剣士】!』
決着は、ターバが会場の端まで誘導し、【魔導士】の『爆炎』で優しく場外へ落とした。
ゲラードは……相手が【魔導士】なだけあって、大したことがないように見えた。
観客を見渡すと、騎士団長と副騎士団長がこちらを見ていた。
「終わったようだ」
「そうだな」
2人は、初めはいなかった。所用で席を外していた、というのが表向きの理由。
その実の目的は……
――狩りだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる