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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第83話  ドラゴンの襲撃②

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 ドラゴンのモルモット。
 もちろん、使い捨てだがな。言葉が喋れないんじゃ、情報を吐き出させることもできないしな。

「さて、何から…………」
『グルルルァ!』

 おっと、さすがに気付かれたか。まあ、背中に乗られてるんじゃあな。 

 ドラゴンが飛び上がる。

 これは早く済ませないとな。

 水晶を上空に出現させる。『晶棘』だ。
 だが、普段の何倍も大きい。駿考案の『隕晶いんしょう』だ。
 しかも、これに『晶棘』を組み合わせた『隕棘晶いんきょくしょう』。

 こいつが暴れまわっているせいで、外す可能性があるため、あまり高さはつけていない。
 その分、魔力で威力を補う。

 ――ズンッ!!

「のわ!」

 威力を付けすぎたのと、背中に入ったのが悪かった。

 そのまま落ちてった。
 おかげで放り投げ出されそうだったじゃねぇか! ああ、オレの責任か…………。

 体が宙に浮いた瞬間、『晶鎖』を羽の付け根に巻き付けた。

「ほべっ」

 おかげで背中に全身をぶつけた。

「やれやれ。鱗の一部が砕けてるな。効果はあるみたいだな。うん、次だ」

 オリハルコンを出し、刀に変える。
 単純な斬撃でいこう。

「はあ!」

 ざしゅっ! といい音がしたが、鱗はやはり傷ついている。
 それどころか、肉まで抉れている。あれ、これってオレが悪い?

 次は重量も加えて、ハルバードでいこう。

「ぬうん!」

 ああ、やっぱりダメージ入ってる。
 思いっきり入ってるし。そう思考していると、ターバから『通話トーク』が入った。

『ライン、物理攻撃は意外と入るらしいぞ~~』
『ああ、今実感じてるよ。物理攻撃は全体的に入るのか?』
『騎士団長が言うには、殴打系が入るらしい』
『なるほど、了解。んじゃ、このまま倒す。引き続き援護を頼む』

 さて、実験の必要はなくなった。

「それじゃ、使い捨ての道具は処分しないとな。――『重撃』!」

 首元にハルバードを振り下ろす。『重撃』の効果で、中まで振動が入る。周辺の鱗全部に罅が入る。

 う~~ん、情報を持ち帰られるのは避けたい。なら……。

 ハルバードを刀に変え、首の付け根に立つ。

「なら、じゃあな。――『飛撃』」

 刀を振り、首を一刀両断する。
 ハルバードと『重撃』の効果で鱗はほとんどなかった。『飛撃』の効果で、刀よりも長い首を斬ることができた。

 そして、門の上まで戻る。

「お疲れ~~」
「おお!」
「あらら、そちらの2人は魔力がギリギリか。ゴーレムは……まだ大丈夫そうだな」

 ゴーレムを消す。被害はなさそうだ。

「注意を引くためとは言え、絶え間なく中級魔法を使ってたからな」
「ああ、ありがとう。騎士団本部まで運べばいいか?」
「いえ…………迎えが来ますので」
「そうか。わかった。ターバは?」
「俺は平気だ」

 ターバってそこら辺の魔術師程度の魔力を持ってるからなぁ。



 オレとターバは騎士団長からお呼び出しを食らったため、騎士団本部に向かった。

 その道中にて

「ターバ、お前、加護持ちだろ?」
「ん? ああ、そうらしいな。どうせ聞かれるから答えるけど、加護は【不死】だ。効果は再生」
「え、死なねぇのか? すごいな……」

 つまり、腕が千切れて再生できんのか。問題は服か。

「いや、そうでもないんだよ」

 ああ、うまい話には裏があるのはどこも一緒なのね……。

「再生には時間がかかりすぎる」
「腕を斬り飛ばされた場合はどうなる?」
「新しく生える。ただ、くっつければ時間は短縮できる」

 斬られた腕を、断面同士くっつければいいわけね。
 ただ、戦いの最中にそんな余裕はないだろうな。

「え、実験したのか?」
「いや、わかる。なんとなくな」

 へえ。なんとなく理解した。

「それに、寿命はある。状態異常への耐性もこれまで通りだし。外的外傷を癒すだけだ。回復するからと言って体力を消費するでも回復するでもない」
「それでも、良いだろ」
「まあな。粘り強い戦いはできるようになったな。ただ、負けない・・・・
「そうだな。ああ、脳が潰された場合とかも再生できるのか?」

 物語じゃ、吸血鬼ヴァンパイア動死体ゾンビは脳を潰せば死ぬ…………死ぬ? 動かなくなる。

「ああ、大丈夫だ。加護は肉体に宿るものではないらしいしな」
「へえ、そうなんだな」
「――やあ」

 突如、後ろから声をかけられた。





 騎士団長より要請を受け、私――【魔導士】アーグ・リリスはドラゴンの討伐に向かっている。
 私に宿りし加護の名は【全属性理解】。

「【魔導士】様!」

 門に着くと、近衛騎士が3人いた。

「ああ、わかっています。して、ドラゴンは?」
「現在、こちらを睨み中です。戦闘は避けられないかと」
「わかりました。なら、倒しましょうか。――『炎槍ブレイズランス』」

 炎の槍を3本放つ。これで倒せれば僥倖ですが……。やはり、そう簡単にはいきませんか。

『ギャアァァア!!』

 ドラゴンは咆哮を挙げ、翼を広げて空に舞い上がります。
 そのまま上空を旋回し、火の玉を放ってきます。
 もちろん、1発だけではなく、何発も何発も。

「防げ!」
「「は!」」

 近衛騎士たちは優秀のようですね。言ったときにはすでに構えていた。
 ですが、このまま上空から攻撃されては、いつかは防ぎ漏らしますね。

「――『飛行フライ』」

 魔法で宙に浮かぶ。
 加護のおかげで、使える魔法です。他の人は使えないようですが、それは理論がわからないから、でしょう。

 この魔法は、重力無視の効果が必要。
 つまり、かなり高度な魔法です。さて、解説はここまででいいでしょうか。

「ドラゴン、私、【魔導士】が相手する」
『ぐるる…………』

 仮面の魔力探知でドラゴンを見ると、かなりの魔力保有量であるのがわかります。

 私の魔法は、作られた瞬間、すでに名前があります。飛行魔法もです。

「――まあ、今考えることではないですか。さあ、ささっと終わらせましょう。――『爆炎追跡弾マークミサイル』」

 火の玉がドラゴン目掛け飛んでいく。生成したのは4発です。

 ドラゴンは急上昇して避けますが、これは自動追尾の魔法。
 まあ、飛んでいる間は自動で魔力を持ってかれるんですが。

 4発全弾、ドラゴンに命中したようです。
 そして……爆発。

「見た目の割にすばしっこいですね。でも、私には勝てません」
『がる……』

 今の攻撃で鱗はボロボロ。左目も潰れているようです。

「まだまだ終わらせませんよ? ふふ…………。――『混属弾カオスエレメンツ』!!」

 四大属性すべての特徴を持つ私の持つ魔法の中でも最強級の魔法。
 水の質量、火の拡散性、土の頑丈さ、風の速さ。

 本来、莫大な魔力を消費しますが、加護のおかげで効率化できています。
 魔法を理解できているおかげで。
 余分魔力を削るのがまた骨でした。

 『混属弾カオスエレメンツ』は、さすがに連発はできません。追尾もありません。しかし、魔力範囲内であれば操作可能。
 そして、ドラゴンがいる場所は操作可能範囲内。

「――終わりです」

 ドラゴンに命中し、大爆発を引き起こす。
 事前に『風殻トルネードウォール』で身を包んでいたため、返り血は浴びませんでした。

 下を見ると、ドラゴンの頭や腕などがかろうじて原型を留めて落ちていました。グロい光景です。

「ふむ…………綺麗に鱗の残っていた背中に当てたとは言え、十分すぎる威力……。やはり、この魔法は素晴らしい。さて、帰ろう」

 門の上に降り立ち、近衛騎士に後処理の手伝いを頼んだ。

「いえ、後処理はわたくしどもで行いますので、【魔導士】殿は騎士団本部まで」
「そうですか、なら、お言葉に甘えさせてもらいます」

 そういえば、向こうはあのラインが相手していたはずです。ちょうど終わったようですし、見に行ってみましょうか。



 いない……。どこかですれ違ったかな? 
 『飛行フライ』を使い、上空から注意深くラインを探す。
 すでに夕方でしたが、真っ暗闇でも仮面の効果でどうってことありません。

 歩くよりも『飛行フライ』の方が速いおかげで、追いつけました。

 背後に気配を消して降り立つ。そして、

「――やあ」

 半分驚かすつもりで、声をかけた。
 





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