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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第76話 叫び
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3年後。
ライン、20歳。
愛馬フレイに跨り、王都を見下ろす。
この3年間に手に入った、魔物連合に関する新たな情報は少ない。
1つ、魔物連合は全部で十隊あること。
2つ、隊ごとに役割が異なっていること。
3つ、オレと【魔導士】が魔物連合に要注意人物とされていること。
近衛騎士の特殊任務に就いていることが原因だろうが、どこから魔物に情報が行くんだ?
これらの情報は、魔物連合の下っ端中の下っ端の魔物から入手したものだ。
下っ端とは言え、最低でも白金級の実力はあるが。オーガとかな。
ただこの3年、へラリア国内での魔物連合の目撃、遭遇情報はほぼ皆無。
すべて、鬼の国――フェンゼル国が入手した情報だ。
オレ自身、装備も変えた。
つっても、このコートが一段グレードアップしただけだが。
服にカメレオン効果――魔力を込めることで色が思い通りに変化する──が追加された。
「正直、ここまで魔物連合と遭遇しないとなると、かえって不安になるな…………」
仮面を着け、肌の見えている部分は極めて少ない。首の周辺のみだ。
不審者か!
「フェンゼル国に出現するやつらも、忠誠心など皆無に近い連中だったし。隊との遭遇もない」
オレはこの3年間、各地を飛び回って来た。
だが、行けたのはヘラリア国内を除くと、エルフの国――アグカル国と、鬼の国――フェンゼル国のみだ。
この2国は郡県制を用いており、ほぼ一枚岩だが、へラリア国は世界で唯一、封建制を用いている。
そのため、ヘラリア国は──王への絶対的な忠誠心があるとは言え──一枚岩ではない。
封建貴族共は、オレを人として認識しているのかと疑わしく思うほどにオレを呼びつけた。
まあ、好待遇だったからプラマイゼロかな。
……いや、マイナスだ。
時間とられたのは変わりないからな!
リザードマンの国なんかも気になるところだ。
乾燥地帯らしいから、あまり気乗りしないけど。
気にはなるけど、行く気はない。
いつかは行かないといけないんだろうけど。
結界にも行ってみたいところだ。
でも、遠いから面倒なんだよな。
他の国も行かないとなぁ。
ケモミミの生き物の住まう国――ワインド国。
オレがケモミミ萌えだったら永住する。国民は人族、ケモミミ。
耳は、犬のようにピンと立った耳だ。そして、男女問わず、髪が長い。柔軟な体を持つ。
現在この世界に存在する――公式の――国は、この4つのみ。
非公式の国は、蛮族どもの集落のことだ。
大人しいが、高圧的な態度、野蛮な態度から、衝突もしばしば。
さて、もういいかな。
「さて、そろそろ出発するかな」
これから、エルフの国に赴く予定だ。
ターバ、ヤマル、リーインも学校を卒業した。
エルフであるリーインに会えるかもしれないな。
ゴース、ミル、ローズ、ノヨの4人は、もう1人――ターバの友を加え、パーティー――現在鉄Ⅰ級—―を結成している。
活動地はハーマル領。
アグカル国。
「ようやく着いたな」
へラリア国と隣接しているため、着いたのは出発した日の夜だった。
着いたのは王都ではなく、別の都市だ。
さすがにフレイを休ませないといけなかったしな。
フレイ自身は余裕だったらしいが、時間的にな。遅いし。暗くなっても、オレもフレイも問題はないんだが。
「さて、まずは宿を取らないとな」
エルフの国は人間の国となんら変わりはない。行きかう人々の少し長い耳以外は。
言語は全世界で統一されているため、文字が読めない、なんてことはない。
手ごろな宿に入り――フレイは宿の外だ――受付に行く。
「いらっしゃい」
そこにいたのは上品な細身のエルフだった。バーのマスターみたいな見た目だ。
「宿の予約を頼む」
そう言い、冒険者の証の短剣を見せる。
仮面は外さない。オレは有名らしいからな。魔物連合をここに招くわけにはいかない。
それに、覚醒者で仮面を着ける人は少なくない。そんな人たちはたいてい、痣の形が気に入っていない人たちだ。
オレの仮面ほど高性能なものは少ないが、穴が開いていなくても外が見れるのは、仮面の最低ラインだ。
「かしこまりました。何泊の予定で?」
「今晩だけだ」
「かしこまりました」
「ああ、あと外でアヌースを待機させているから、寝床はあるか?」
大半の宿では、追加料金を払うことで騎獣の世話を受け持ってもらえる。
ただし、人間の国ではそれ専用の施設が、宿とは別にあるため、宿で頼むことはない。
「ええ、ございます。1頭でよろしいですか?」
「ああ」
「かしこまりました。では、こちら、部屋の鍵です」
番号の刻まれた鍵を渡され、オレは指定の部屋へ向かう。
フレイの鞍は着けたままでいいだろう。
その日はぐっすり寝れた。
ここの宿、結構いいな。ふっかふかのベッド。防音設備も…………いや、単に人が少ないだけか。
それになにより、宿代が安い。
か~~な~り稼いでいるオレだが、一般人の感覚が抜けているわけではない。
一般人の感覚、と言っている時点で手遅れな気はするが。
時は少々遡り……ラインがエルフの国に向った日の早朝。
ここは、ハーマルの冒険者組合。
「さて、出発!」
「「おーー!!」」
冒険者パーティー、岩塊の拳骨。
ネーミングをしたのは、このパーティーの福リーダーである、ゴース。
そしてリーダーは、ミル。
メンバーはロイズ、ノヨ、ヒュンミイ。
ラインの友人4人と、ターバの(ただ1人の)幼馴染1人。
ライン、ターバと交友が深いパーティーだ。
5人はこれから、森へ魔物退治…………見回りへ向かう予定だ。
時間をかけて整えた装備で身を包む。
所詮、鉄級が3年かけた金額だ。
鉄級の冒険者の給料は一般的な給料と同じ……若干低い。
まだまだ発展途上の装備。正直に言えば、貧相だ。
冒険者がパーティーを組むことはあまり多くない。
だが、この5人は仲良しゆえにパーティーを組んだ。
本来はラインの友人4人で組む予定だったが、前衛3人、後衛1人。
バランスが悪い、ということで、魔術師であるターバの幼馴染であるヒュンミイに白羽の矢が立った。
矢が立った相手がターバの幼馴染であったのは偶然だ。
仲が打ち解けるのに、時間はさほどかからなかった。
「さてさて、準備はいい?」
ミルの呼びかけに、返って来た答えは
「「おぉ!!」」
肯定だった。
これも3年間繰り返され、すでに出発前のルーティンだ。
5人は冒険者学校を卒業し、1年間は別々の冒険者の元で修業し、2年目からパーティーを組み、活動。
功績を積み、鉄Ⅲまで昇進した。昇進スピードは普通レベル。
寝泊まりするのは、冒険者専用の寮がある。
そこの宿泊料金は、給料から差し引かれるが、宿に泊まるよりよっぽど安い。
もちろん、宿に泊まることもできる。
ちなみにラインは、諍い防止のため、宿に泊まる派だ。
近場の森に入り、探索を開始する一行。
その日の天気は快晴。季節は春ということもあり、暖かい。
日中になると若干汗ばむ。
魔法具を買う余裕はないため、タオルで汗を拭うしかない。帰ったら共同の風呂場へ直行だ。
日が傾きだした頃、帰ろうとする一行だったが、辺りに霧が漂いだした。
「霧?」
「おい、まずいんじゃないか?」
霧はとても濃く、あっという間に濃くなり、一寸先も見えなくなった。
この場に魔力探知が使える者がいれば気づけたかもしれない。
――敵襲を。
この霧は魔力によるものだった。
中級魔術『霧』。扱えるものが少ない魔法だ。
水の属性特化型の数人が使えるぐらいで、才能と細かな魔力操作を必要とされる。
効果は、ただ霧を発現させるだけだが、術者は霧の中の様子──空間を把握できる。
また、この霧を生み出した張本人は、霧を自由に操れるまでに成長していた。
「みんな、いる──」
メンバーの安否を確認しようと振り返ったミルが見たものは、崩れ落ちる仲間の体だった。
濃い霧の中、見えたのはそれだけだった。それも、霧のおかげで繊細に見ることはなかった。
『────』
「!?」
後ろから、ナニカに声をかけられた気がした。
次の瞬間、ミルの意識は消えた。
ライン、20歳。
愛馬フレイに跨り、王都を見下ろす。
この3年間に手に入った、魔物連合に関する新たな情報は少ない。
1つ、魔物連合は全部で十隊あること。
2つ、隊ごとに役割が異なっていること。
3つ、オレと【魔導士】が魔物連合に要注意人物とされていること。
近衛騎士の特殊任務に就いていることが原因だろうが、どこから魔物に情報が行くんだ?
これらの情報は、魔物連合の下っ端中の下っ端の魔物から入手したものだ。
下っ端とは言え、最低でも白金級の実力はあるが。オーガとかな。
ただこの3年、へラリア国内での魔物連合の目撃、遭遇情報はほぼ皆無。
すべて、鬼の国――フェンゼル国が入手した情報だ。
オレ自身、装備も変えた。
つっても、このコートが一段グレードアップしただけだが。
服にカメレオン効果――魔力を込めることで色が思い通りに変化する──が追加された。
「正直、ここまで魔物連合と遭遇しないとなると、かえって不安になるな…………」
仮面を着け、肌の見えている部分は極めて少ない。首の周辺のみだ。
不審者か!
「フェンゼル国に出現するやつらも、忠誠心など皆無に近い連中だったし。隊との遭遇もない」
オレはこの3年間、各地を飛び回って来た。
だが、行けたのはヘラリア国内を除くと、エルフの国――アグカル国と、鬼の国――フェンゼル国のみだ。
この2国は郡県制を用いており、ほぼ一枚岩だが、へラリア国は世界で唯一、封建制を用いている。
そのため、ヘラリア国は──王への絶対的な忠誠心があるとは言え──一枚岩ではない。
封建貴族共は、オレを人として認識しているのかと疑わしく思うほどにオレを呼びつけた。
まあ、好待遇だったからプラマイゼロかな。
……いや、マイナスだ。
時間とられたのは変わりないからな!
リザードマンの国なんかも気になるところだ。
乾燥地帯らしいから、あまり気乗りしないけど。
気にはなるけど、行く気はない。
いつかは行かないといけないんだろうけど。
結界にも行ってみたいところだ。
でも、遠いから面倒なんだよな。
他の国も行かないとなぁ。
ケモミミの生き物の住まう国――ワインド国。
オレがケモミミ萌えだったら永住する。国民は人族、ケモミミ。
耳は、犬のようにピンと立った耳だ。そして、男女問わず、髪が長い。柔軟な体を持つ。
現在この世界に存在する――公式の――国は、この4つのみ。
非公式の国は、蛮族どもの集落のことだ。
大人しいが、高圧的な態度、野蛮な態度から、衝突もしばしば。
さて、もういいかな。
「さて、そろそろ出発するかな」
これから、エルフの国に赴く予定だ。
ターバ、ヤマル、リーインも学校を卒業した。
エルフであるリーインに会えるかもしれないな。
ゴース、ミル、ローズ、ノヨの4人は、もう1人――ターバの友を加え、パーティー――現在鉄Ⅰ級—―を結成している。
活動地はハーマル領。
アグカル国。
「ようやく着いたな」
へラリア国と隣接しているため、着いたのは出発した日の夜だった。
着いたのは王都ではなく、別の都市だ。
さすがにフレイを休ませないといけなかったしな。
フレイ自身は余裕だったらしいが、時間的にな。遅いし。暗くなっても、オレもフレイも問題はないんだが。
「さて、まずは宿を取らないとな」
エルフの国は人間の国となんら変わりはない。行きかう人々の少し長い耳以外は。
言語は全世界で統一されているため、文字が読めない、なんてことはない。
手ごろな宿に入り――フレイは宿の外だ――受付に行く。
「いらっしゃい」
そこにいたのは上品な細身のエルフだった。バーのマスターみたいな見た目だ。
「宿の予約を頼む」
そう言い、冒険者の証の短剣を見せる。
仮面は外さない。オレは有名らしいからな。魔物連合をここに招くわけにはいかない。
それに、覚醒者で仮面を着ける人は少なくない。そんな人たちはたいてい、痣の形が気に入っていない人たちだ。
オレの仮面ほど高性能なものは少ないが、穴が開いていなくても外が見れるのは、仮面の最低ラインだ。
「かしこまりました。何泊の予定で?」
「今晩だけだ」
「かしこまりました」
「ああ、あと外でアヌースを待機させているから、寝床はあるか?」
大半の宿では、追加料金を払うことで騎獣の世話を受け持ってもらえる。
ただし、人間の国ではそれ専用の施設が、宿とは別にあるため、宿で頼むことはない。
「ええ、ございます。1頭でよろしいですか?」
「ああ」
「かしこまりました。では、こちら、部屋の鍵です」
番号の刻まれた鍵を渡され、オレは指定の部屋へ向かう。
フレイの鞍は着けたままでいいだろう。
その日はぐっすり寝れた。
ここの宿、結構いいな。ふっかふかのベッド。防音設備も…………いや、単に人が少ないだけか。
それになにより、宿代が安い。
か~~な~り稼いでいるオレだが、一般人の感覚が抜けているわけではない。
一般人の感覚、と言っている時点で手遅れな気はするが。
時は少々遡り……ラインがエルフの国に向った日の早朝。
ここは、ハーマルの冒険者組合。
「さて、出発!」
「「おーー!!」」
冒険者パーティー、岩塊の拳骨。
ネーミングをしたのは、このパーティーの福リーダーである、ゴース。
そしてリーダーは、ミル。
メンバーはロイズ、ノヨ、ヒュンミイ。
ラインの友人4人と、ターバの(ただ1人の)幼馴染1人。
ライン、ターバと交友が深いパーティーだ。
5人はこれから、森へ魔物退治…………見回りへ向かう予定だ。
時間をかけて整えた装備で身を包む。
所詮、鉄級が3年かけた金額だ。
鉄級の冒険者の給料は一般的な給料と同じ……若干低い。
まだまだ発展途上の装備。正直に言えば、貧相だ。
冒険者がパーティーを組むことはあまり多くない。
だが、この5人は仲良しゆえにパーティーを組んだ。
本来はラインの友人4人で組む予定だったが、前衛3人、後衛1人。
バランスが悪い、ということで、魔術師であるターバの幼馴染であるヒュンミイに白羽の矢が立った。
矢が立った相手がターバの幼馴染であったのは偶然だ。
仲が打ち解けるのに、時間はさほどかからなかった。
「さてさて、準備はいい?」
ミルの呼びかけに、返って来た答えは
「「おぉ!!」」
肯定だった。
これも3年間繰り返され、すでに出発前のルーティンだ。
5人は冒険者学校を卒業し、1年間は別々の冒険者の元で修業し、2年目からパーティーを組み、活動。
功績を積み、鉄Ⅲまで昇進した。昇進スピードは普通レベル。
寝泊まりするのは、冒険者専用の寮がある。
そこの宿泊料金は、給料から差し引かれるが、宿に泊まるよりよっぽど安い。
もちろん、宿に泊まることもできる。
ちなみにラインは、諍い防止のため、宿に泊まる派だ。
近場の森に入り、探索を開始する一行。
その日の天気は快晴。季節は春ということもあり、暖かい。
日中になると若干汗ばむ。
魔法具を買う余裕はないため、タオルで汗を拭うしかない。帰ったら共同の風呂場へ直行だ。
日が傾きだした頃、帰ろうとする一行だったが、辺りに霧が漂いだした。
「霧?」
「おい、まずいんじゃないか?」
霧はとても濃く、あっという間に濃くなり、一寸先も見えなくなった。
この場に魔力探知が使える者がいれば気づけたかもしれない。
――敵襲を。
この霧は魔力によるものだった。
中級魔術『霧』。扱えるものが少ない魔法だ。
水の属性特化型の数人が使えるぐらいで、才能と細かな魔力操作を必要とされる。
効果は、ただ霧を発現させるだけだが、術者は霧の中の様子──空間を把握できる。
また、この霧を生み出した張本人は、霧を自由に操れるまでに成長していた。
「みんな、いる──」
メンバーの安否を確認しようと振り返ったミルが見たものは、崩れ落ちる仲間の体だった。
濃い霧の中、見えたのはそれだけだった。それも、霧のおかげで繊細に見ることはなかった。
『────』
「!?」
後ろから、ナニカに声をかけられた気がした。
次の瞬間、ミルの意識は消えた。
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