57 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜
第56話 最強決定祭⑥
しおりを挟む迫りくる2本の水の槍。
さっき受けてわかった。
――実体がある。
水だから、受け止めても意味ないと思っていたが……いざ受け止めると、硬かった。
剣が沈むこともなかった。
なら、俺の独壇場だ。流せばいいんだ。水だけにな!
……ん、一瞬、水が凍ったか?
四代元素には、それぞれ特性がある。
特に水は、4つの中で最も重い元素だ。
迫りくる2本の槍を……走りながら、一方は避け、一方は受け流した。
目の前およそ5メートル先に相手――リーリエ・ユウがいる。
「くっ……『水球』! はぁ……はぁ……」
魔力も限界か?
――いや、そんなわけがない。
ここまで、さほど時間は経っていないし、魔法もそんなにたくさん打ったわけでもない。
それになにより、発する言葉に疲労が見えなかった。
つくづく人を騙すのが好きだな、こいつは。
手加減はしない。
「演技がお上手なことで」
「!!」
迫りくる3つの水の塊をすべて魔力を通した剣で一閃のもとに打ち消し、相手に迫る。『水槍』と比べ、かなりもろかった。
武器も、意外と大丈夫そうだ。
二度目は通用しない。
「ウ……『水盾』!!」
「二度目は通用しないんだよ!」
1年生の『水盾』は半径1メートル前後もいけばいいらしい。
目の前の盾は、1メートルちょい。優秀だが、抜けてはいない。
そして、盾の中心はみぞおちの辺り。一般的だ。
俺が真正面に突っ込むだけだと思われてんのかね?
地面を滑り、盾の下から出現した。
「ども」
「!?」
斬りはしないさ。ただ、眠ってもらうだけ。
「――!! …………」
下から顎に素早く一撃を入れ、気絶させた。これしか使えないんだよな。
『リーリエ・ユウ、戦闘続行不能! 勝者、ターバ・カイシ!!』
次はラインか。
特別授業で何度か戦ったが、本気では戦えなかったからな。
互いに、大きく成長した。今度こそ勝てるかもな……。
はっきり、ラインとの戦いは面倒なんだよな。
魔法で距離を詰めさせてくれないし、詰めたら詰めたで、攻撃手段を持ってるし。
ほんと、どうなってんだか。
魔法も上手く扱い、近接攻撃も強い。水晶の怪物だな。
『いよいよ1年生部門も決勝戦です! 今まで、弱小校が代名詞だったハーマル。なんと今年は、その選手2名が決勝で相見えることとなりました! 2人とも怒涛の勢いで勝利を掴み取ってきた猛者! 今年は豊作だぁ!!』
バッと勢いよく、司会者が手を挙げた。
途端、会場は静まり返った。「静かにしろ」の合図だったのだろうか。
ちなみにオレ、ラインとターバはコロッセオの中央――会場の中央に待機している。
『――……それでは、始めましょう。物理、魔法両方とも一流の実力を持つ、ライン・ルルクス!!』
歓声と共に、オレに観客の注目が集まる。視線がいたるところに刺さってるんだが。
『そして、息も吐かせぬ連撃を放つ、期待の双剣士、ターバ・カイシ!!』
女性の観客からの黄色い声援が多い。
……おい。ファンクラブでもできるんじゃないだろうな?
オレには男どもの野太い声援が多いってのによぉ。
『どちらが勝ってもおかしくないこの戦い! それでは始めましょう! ――両者、構え…………開始!!!』
身体強化を発動し、『晶弾』を4発放つ。
そして、『晶装』で両手に手甲、両足に足甲、胸を守る防具(名前忘れた)を作った。
これで防御においては心配ない。
ターバが剣を2回振るうだけで『晶弾』はすべて消えた。
武器は新しい……新品のものが与えられている。もちろん、オレにも。
芯に魔鉱が使われているらしい。
つまり、魔力親和性は十分ということだ。これまで以上の本気が出せる。
正真正銘、100%の本気だ!
「ライン、これまで通りにいけると思うなよ?」
「んなこと、百も承知だっての。現に、今までここまで防御を固めたことがあったか?」
武器に魔力を通されると、水晶がこれまで以上に柔らかく感じるだろう。
厄介だな~~。『晶弾』程度は簡単に破壊されたし。
『晶拳』であれば、破壊はされないだろうけど……。
ええい! 物は試しだ!
『晶拳』を3つ生成し、ターバ目掛け飛ばす。この隙に距離を詰めようか。
本来、魔術師や射手などに代表される遠距離攻撃を主体とする者であれば、相手と距離を離すのがベストな選択だ。
だが、オレは例外だ。
近距離攻撃も長けているため、水晶魔法と組み合わせることで、攻撃力が倍増する。
2倍じゃない。相乗だ。
「そうくると思ってたぜ!!」
「――!?」
読まれていたか……。
まぁ、隠すつまりは微塵もなかったし、こっちもそれを望んでいるから構わないんだが……。
一手、潰されたな。
奇襲の形で、大きい一撃を入れておきたかったんだが。
左手の剣が振り下ろされる。『晶盾』で耐えきれるか?
耐えきれるとは思うが……。実験は必要、か。
「ふん!!」
「――『晶盾』」
半径1メートルほどの円形の盾を、オレと剣の間に作り出した。念の為、棍を構えておく。
――ガッ……キィィイン!
よし! 弾いた!
剣が当たりそうになったとき、『晶盾』を少し前に出したのだ。盾も武器として扱えるって、どこかの小説で読んだからな。
知識面において、オレはターバよりも秀でているはずだ。感覚面ではわからないが……。
「なるほど。盾は守るだけじゃないってか」
「そんなことにわざわざ答えねぇ……よ!!」
がら空きのターバの腹目掛け、突きを繰り出す。
もちろん、両手に持った剣から目は離さない。離したら、そのときこそ痛い目を見ることになる。
「うおっとと……」
ぎりぎりのところで、半身で避けられてしまった。
そしてそのまま迫ってくる。
だが、オレがそんなことで負けるはずがない!
「ぬおっっ!!」
棍を両手で、ターバ目掛けて薙ぐ。ほぼ0距離だが、先ほどのザイン・ハーバーとの戦いで成功したんだ。今回もできるはずだ。
そして……成功したが、同時に顔に一太刀もらってしまった。
幸い、傷はかなり浅い。眉の上辺りだ。
そして、そこで攻撃をやめるほどオレは愚かじゃない。『晶弾・機関』でターバを狙う。
――勢いよく、数えたくなくなるほどの数の『晶弾』が、雨のようにターバに降り注ぐ。
「うおっっ。情け容赦の欠片もないな!」
なんて泣き言は言っちゃいるが、剣の柄同士を重ね、回転させることでほとんどの『晶弾』を防いでいる。
ま、足止めは完了、か……。
オレはこれまでの試合では、『晶弾』しか使っていない。
もちろん、ターバ相手には『晶盾』、『晶壁』も使ったが。あ、あと『晶拳』もか。『晶弓』もばれてはいるが……。
――そう、オレは『晶棘』を披露していないのだ。
入学したての交友の場では使ったが。
逆に言えば、それだけだ。
「お前相手に情けが必要なのか、一度議論を交わしたいところだね」
「まあ、いつか……な」
ここで『晶弾・機関』をやめ、次に移る。
オレの武器創造系は知られていないはずだ。ちょっと考えれば、それぐらいできるだろうと思われるかもしれないが。
「「――おおぉぉぉおおおおお!!」」
オレたちは、さっきまでいた地点のちょうど真ん中でぶつかる。
オレはすでに、半径およそ1メートルの『晶盾』を展開している。
そして、互いに武器に魔力を込めている。
その戦いは、未だ冒険者になっていない学生……それも、1年生が繰り広げていい戦いではない……と、外野の皆さんは言いたげだ。
オレとターバ。
もうすでに、金級の冒険者に引けを取らない実力に達していた。
中には、年齢偽証を疑う者もいるだろう。
だが、(少なくとも)オレは本当に1年生で、15歳(ターバは(本人曰く)誕生日を迎えたため、16歳)だ。
2人は【魔導師】、近衛騎士団団長級に到達するのも、時間の問題。
逆に、この2人も異常だったのだが、ラインとターバはそれを超える異常さだった――――
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる