上 下
56 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜

第55話  最強決定祭⑤

しおりを挟む
 ザイン目掛け、無数の水晶の弾が飛ぶ。
 殺傷能力はないが、当たれば痛い。

「いっ ――ガッ! ――グフ!!」

 痛みが動きを制限する。

 これこそ、『晶弾・機関』。
 弾が水晶製の機関銃だ。銃というものが存在しないこの世界で、最も銃に近いものとなった。
 
 今のうちに体勢を整えておこうか。
 これだと、手数は多いけど、決め手に欠けるんだよなぁ。
 殺傷能力アリにしたら……即死かな。ハチの巣になって。

 ……3……2……1……0!!

 発射を止め、一気に距離を詰める。
 未だ痛みで反応が鈍っているっぽいな。素肌が、見える範囲でも青痣だらけだ。

 腕に『晶装』で手甲ガントレットを纏い、走り出す。
 そしてそのまま、ザインの顔面を殴った。
 我ながらきれいに入ったと思う。

「――!!」

 声が出なかったらしい。  
 そのまま、腰の辺りを中心として、90度後ろ向きに回転し、地面に背を向けて倒れた。
 ピクリとも動かない。……鼻血が出てる。オレが殴ったせいだけど。

 そして、上から・・・落ちてきた・・・・・二本の短剣・・・・・を『晶盾しょうじゅん』で防ぎ、試合終了。

『ザイン・ハーバー、戦闘不能! ライン・ルルクスの勝利!! なんということでしょう! 巷で【貴公子】と呼ばれる男が敗れました!』

 貴公子……?
 奇行種じゃなく?

 たしかに、男のオレから見てもイケメンだし、そんな雰囲気してるわー。
 白馬にでも乗ってなヨ。

 まあでも、戦闘センスはあるっぽい。

 オレに殴られる直前、短剣を真上に投げていた。それも、剣を持っていた右腕をオレの後ろまで伸ばしてからだ。
 そこは、オレの――人間の死角だ。

 一般の人間にとって、瞬時にあれほどの判断をすることは難しい。
 それができた、ということは、才能がある、センスがいいということ。

 ――オレは見破ったけどな? 
 
 逆の立場だとどうするか。
 オレは、『晶盾』を間に作り、身を守る。やっぱり、防御することを考えてしまうと思う。
 実際オレにとって・・・・・・、それは正しい。



『さて、早速次の試合を始めましょう! ディース領、リーリエ・ユウ! 対するは、ハーマル領、ターバ・カイシ!!』

 観客席の一部から黄色い声援……。人気だなぁ。
 どっちに向けた声援だ?





 さて、次も俺、ターバの試合だ。
 相手はリーリエ・ユウ。魔術師だな。夏休みにラインに教わった魔力探知でわかる。

 一つ、問題がある。
 武器を所持しているのか、いないのか。
 所持していた場合、何を、どれだけ持っているのか。

 既に身体強化を発動させているから、短杖ワンドの魔力反応が隠れて見えない。
 魔力のこもっていない武器は魔力探知では確認できない。

 身体強化を発動させていることを考えると、短杖ワンドを隠し持っていると推測できるが……。

 こちらは慎重にならざるをえない。
 相手が短杖ワンドを所持しておらず、威力の高い――一撃必殺級の切り札を有している場合、負ける。

 そう思わせておいて、短剣、短刀ナイフを忍ばせているかもしれない。
 あれ、短刀ナイフは短剣に含まれるんだっけ? 

 ここは慎重になるべきか、ならないべきか……。

 剣に魔力を流し込めば、威力、切れ味が増加するだけでなく、魔法すら斬る・・ことができる。

 ただ欠点として、武器の劣化を促進させてしまう。
 何より、これは支給品。
 今までいろんな人に使われてきたであろう物だ。途中で使い物にならなくなりました、じゃ最悪だ。

 魔鉱石製の武器なら、魔力との親和性が高いから云々……。持ったことがないからわからん。

 俺の魔力量は、生まれつきそこそこ多いらしい。
 魔術師の才能を持ってる人よりは少ないらしいがな。
 そして、今に至るまで鍛錬を積み、魔力量はかなり増大した。弱い魔術師ぐらいはあるらしい。

 とにかく、油断は禁物。
 慎重になりすぎるのも悪手。難しいなぁ。
 とにかく、身体強化を発動しておこう。

『では……開始!!』

 相手の手札を一枚一枚めくっていく。
 現在の情報は、相手が魔術師であること。

 属性特化かもしれない。
 一般魔術師かもしれない。

 ただ、魔術師であるなら、距離を詰めないとな。
 だが、そう簡単に近寄らせてくれないのが魔術師なんだよな。厄介な。

 ──だけどぉッ!

「魔術師との戦いは嫌というほどやってきたんだよ!」

 ラインがそうだ。
 スゥもそうだ。

 魔術師との戦いは――経験は嫌というほどやってきたんだ。
 特に、ラインはいい練習相手だった。全然距離を詰めさせてくれなかった。

 だが、学んだ。

 ――答えは単純だ、と。

 魔力を込めた武器で、魔法を消しながら進めばいいだけ。
 接近できれば、こっちのもんだ!

「──『水球アクアボール』」

 拳大の水の塊が3つ飛んできた。
 ……『水球アクアボール』。初級攻撃魔法だ。
 だが、杖を構えて魔法を発射している。


 
 短杖ワンドには、魔法に補正をかけるものも存在する。

 補正効果はさまざまだ。
 消費魔力量の軽減、威力の向上、緻密な魔法操作、推進力の向上などなど。

 ただ、そのような短杖ワンドは、素材から魔力を帯びているため、後付けで魔力を付与された一般的な短杖ワンドとは違い、魔力量が多い。

 その違いを見破ることができるか、できないか。   
 隠し通せるか、通せないか。

 それだけで、勝敗を左右することもある。



 剣に魔力は通さない。
 この剣の耐久度がどれほど残っているのかわからないからな。

 それに、相手の魔法は弾道がバラバラで、間が大きい。
 同時発射されたものでもない。なら、わざわざ打ち消す必要はない。

 1発目。滑って避ける。
 2発目。顔を少し傾けてなんとか避ける。
 3発目。跳んで避ける。

 そして、相手はすぐ下にいる。
 女とはいえ、手加減はしない。でもやっぱり、無力化するだけに……。

「くっ……──『水盾ウォーターシールド』!」

 ――ガキン!

「硬っ!」

 後ろに跳び、再び地を駆ける。
 そしてまた、『水盾ウォーターシールド』と武器がぶつける。

 やっぱり、魔力を込めてなんとか、か。
 だが、一撃ぶつける度に水が散り、盾の耐久度が落ちている。
 つまり、一定以上のダメージは無効化できない。一定が、どれぐらいなのかはわからないが。

 十数度目の攻撃でようやく破壊できた。

「くっ!」
「終わりだ――」

 ――その瞬間、俺は完全に油断していた。

 あとは仕留めるだけ。そう思っていた。

 目の前の相手も、俺と同様、冒険者学校の上位を担う存在であることを――

「──『水槍アクアジャベリン』!!」



 攻撃魔法の基礎魔法には、属性が異なっていても、型がある。『~~弾』や、『~~槍』などだ。

 『~~弾』は、一直線に駆ける小さな球。
 威力は低いが、出が速く、魔力消費量も少ない。

 『~~槍』は、一点集中型だ。
 そして、それにふさわしい威力を持つ。
 だが、当たらなければ怖くなく、また、一直線に飛来するため、確実にとどめを刺すときに使用される。

 そして現在、ターバは、攻撃を外し・・・・・そうにない・・・・・ほどの距離まで接近していた。

「うお――!!!」

 脳裏に、クラス内戦闘でスゥの放った『火槍フレイムジャベリン』がよぎった。
 あの・・ラインの『晶壁しょうへき』を溶かした技。
 あれと同じ型の魔法が、至近距離で放たれた。

 脊髄反射で、剣を交差させて構えた。
 そして、脳からの指示により、剣に魔力を込めた。
 その時、武器の耐久のことなんか頭になかった。

「うぉぉおおお!!」

 くそ、凄まじい威力だな。全然押し返せない! 

「その程度? 案外すぐに決着付きそうだね」

 クスっと小馬鹿にしたような微笑を浮かべた。
 そのとき、俺の中で、バブチンッと、何かが切れた音がした。

「安心して。回復までに死ななければ――」

 ドスンッ!

「――!?」
「調子に乗るなよ?」

 先ほどの音は、俺が『水槍アクアジャベリン』を打ち破り、地面に双剣を打ち付けた音だ。

「へえ、驚いた。『水槍アクアジャベリン』を打ち破――」
「その手には乗らねえ……よ!!」

 時間稼ぎをするつもりだったんだろうな。
 また『水槍アクアジャベリン』を打たれたら面倒だ。……いや、当たったら厄介、か。

 あの感覚は何度も経験した。ラインの突きと同じだ。
 つまり――

「次、『水槍アクアジャベリン』は効かない」
「へえ。なら、正確な事実を得るためにも、実験を行わないと。──『水槍アクアジャベリン』!!」

 今度は2本か。どちらも俺を捉えている。
 だが、もう大丈夫。

 ──流せる!

 俺の得意技は――受け流しだ! 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

処理中です...