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第二章 〜水晶使いの成長〜

第45話  体育祭④

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 いよいよターバとの模擬戦が始まる。

 本気で戦える・・・のは久々な感じがする。
 いや、実際久々か。もう2月半前か。

 あれ以来、やってないからなぁ。血沸き肉躍るとはこのことだな。





 いよいよラインとの模擬戦か。
 本気のラインとやるのは、森の調査から帰ったとき以来……か。
 いい緊張感だ。
 体の内部から熱が噴き出すようだ。

 ……これは反逆戦だ。あの時よりも強くなった。お互いにな。……勝つ!





『――両者、構え。1年決勝戦……開始!!』

 オレは棍を、ターバは双剣を構えた。
 同時に身体強化も発動させる。互いに動かない。今なら、相手の一挙手一投足も見逃さない。



 数秒経った。
 どちらが先に動き出したのかはわからない。
 おそらく、同時。
 相手が動いたら動く。そう思っていた。というか、そのつもりだった。

 走りながら『晶弾』を4つ生成し、発射する。
 だが、ターバは止まらない。

 すべて弾かれた。
 無駄の一切ない動きだった。
 ターバにとって、双剣は腕の延長のようだ。自分の体の一部と化している。

 瞬く間に距離が迫る。
 そして、激しい攻防が繰り広げられた。

 オレの突き。ターバの交差させた双剣でギリギリ防がれる。 

 ターバの両斜めからの振り下ろし。上から突き下ろされた棍に防がれ、同時に胸に攻撃を食らう。

 後ろに跳ぶと同時にオレの棍を掴んで引き寄せ、バランスを崩させる。
 その反作用で体制を直し、攻撃をしようとする。

 体制を崩される。
 その中、ターバが攻撃をしようとしているのがチラリと見えたため、『晶盾・小』――小盾サイズの『晶盾』――を生成する。

 ――だが、一足遅かった。

 オレが捉えたのは、ターバの振り上げた左手側。
 だが右手側は既に振り下ろすところだった。

 よって、左腕・・に一撃をもらった。とっさの反射で、軌道上に左腕を滑り込ませることができた。
 それがなければ、こめかみに一撃を食らっていただろう。
 これで、互いに一撃。

 ちっ!  

 厄介だな。
 ターバは体を広く使ってくるからな。
 右だけ、左だけってのは無理。両方に気を付けないといけないし、オレも攻撃を入れる必要がある。

 どこかで大きな一撃を!

「「フーーーッ」」

 ターバとの距離はおおよそ5メートル。

 棍をどう使うか。
 水晶をどう使うか。
 ターバが双剣をどう使うか。

 それに、オレたちには型がない。
 つまり、決まった動きがない。途中の動きが同じでも、それから先が同じとは限らない。

 しょうがない。水晶をフル活用しよう。メインを棍から水晶にchangeだ。

 こればかりはタイミングを合わせる必要がある。
 同時に動きだす必要がな。

 だが、この互いの一挙手一投足も見逃さない状況。
 相手を誘導するなんて、屁でもない。

 …………じり

 オレが出した、体重の移動を知らせる音だ。
 体重を移動すると、足元の砂が音を立てる。そして、走り出す。

 よし! 成功だ。
 そして、コンマ数秒後、中間地点で激突する…………かのように思われた。

「──『晶壁しょうへき』!!」

 つい声が出てしまった。
 詠唱はいらないのにな。ま、イメージの問題でスゥなんかは詠唱を必要としているが。

 オレたち間に水晶の壁が現れた。
 ターバの攻撃が壁にぶつかる。その直前にオレは、壁に足をかけて上り、宙返りして後方の地面に着地していた。 

 よし、『晶棘しょうきょく』と『晶壁』の混合技、『晶壁棘しょうへききょく』だ。
 音からして、まだ壁の近くにいるはずだ。チャンスは今!

 『晶壁棘』を発動。顔、腹、足元があるであろう位置を狙った。
 万が一を考慮し、同じものを間隔を30センチほど空け、5列に発動した。





 目の前の水晶の壁から突如、水晶の棘が大量に生えてきた。ラインは俺を殺す気なのか? 
 体を横向きにして、何とか避けられたが。……これを上れば……。いいこと考えた。

 



 手応えがない。当たれば、わかるはずだが……! 上ってきてる。

 クククッ。残念だったな。
 感覚が軽くリンクしているのだよ。

 そろそろ頂点に到着か。
 さて、どうするか。ここで武器のみの戦いをするのも面白そうだ。
 ターバは水晶を気にしつつ戦わなければならないわけだしな。
 よし、そうしよう!

「よっこいせっと」 

 やっと降りてきたか。
 さて、は消すか。壁も消えて、見やすくなっただろう。
 オレたちの戦い、とくとご覧あれ……。

 互いに接近し、薙ぎ、突き、払う。
 棍の長さを生かし、双剣の同時攻撃を防ぐ。
 棍を回し、遠心力で威力を底上げし、攻撃する。
 交差させた双剣で防がれる。一進一退の勝負。

 水晶を使っても使わなくても、状況は変わらねぇじゃねぇか! と思うだろう。
 実際、少し前だとこう思っただろう。だが、今は違う。使えば――勝てる。

「……そろそろ頃合いか。ターバ。決着といこうか!」
「そうすっか!」

 互いに一度距離をとり、荒くなっていた呼吸を整える。 

 目は、油断なく前だけを見つめている。
 武器を構え直す。獲物を襲うチャンスを待つ肉食獣のように……待つ。

 周りの歓声は既に止んでいる。見飽きたのではない。
 むしろ、その逆。
 声を発することすら忘れ、観戦しているのだ。

 

 どうするか。
 水晶を使うことは、悟られているだろう。
 これで悟っていなけりゃ、ただの馬鹿だ。だが、ターバは馬鹿ではない。

 思考を戻そう。
 水晶を再び解禁する。

 だが、それによって、手段が増えてしまう。
 オレには切り札が存在しない。

 だが、ターバは? ターバは有しているのか?
 ……わからない。

 切り札には、いろんな使用用途がある。

 1つ。最後の手段。劣勢な状況を覆す可能性が、切り札に存在する場合に切れる手だ。

 2つ。早めに切り、相手に自分の実力を錯覚させる手だ。
 ただ、その時点で勝率をかなり高くなるようにしないといけない。

 3つ。切らない。もしくは、切ったことを気づかせない。
 相手は切り札を――相手が切り札の存在を知っている、もしくは感づいている場合、相手が馬鹿でない場合のみ――警戒し続けることになる。

 ターバは切り札を有しているのか。オレの切り札は何なのか。

 これを今一度考えなければならない。

 ターバの切り札。
 ターバは双剣士。攻撃魔法の適性はなし。考えられる手。

 武器を片方投げてくる。……ターバは剣が1本でも戦える。だが、水晶で防げる。

 突進攻撃。……オレの大きい行動が制限される。水晶が間に合うかどうか。
 だが、オレが合わせて後退すればいい。

 オレの創造の範疇を超える攻撃。……わからないな。切り札と呼ぶにはお粗末なものばかりだ。

 そして、オレの切り札は? 
 威力で考えるなら、『晶拳しょうけん』か?

 悪い手ではない。が、生成する間に攻め込まれる。生成物が大きいからしょうがない。

 機関銃のように『晶弾』を発射するか?

 大したダメージが入らないから、無視して突き進んで来そうだな……。

 ……いや、1つあるじゃないか。他の魔術師になくて、オレが持っているもの。

 知識として広まっていない、独自の技能ユニークスキルとも言うべきものが。

 そう、プログラミングが!

 良い案が浮かんだ。
 さて、ターバも考えがまとまったようだな。

 外野連中は何も言って来ない。体感時間はかなり長かったが、あまり時間は経っていないはずだ。
 不思議なもんだな。

「ライン、いいか?」
「ああ、問題ない。ちなみに、オレたちはどれくらいこうやっているんだ?」
「さあな」
「そうか。じゃ、行くか!!」
「おぉ!!」

 獅子と獅子。

 そう呼ぶしかなかった。
 それも、ただの獅子ではない。お腹を空かせた……否、血に飢えた獅子だ。

 この世界にいるのは「獅子」ではないのは置いといて。
 似たような魔物は存在するが、この例えはあくまで比喩だ。

 荒れ狂う獅子が2頭。勝者は……1匹しかいらない。





 観客席の一角にて。

「なぁ」
「なんだ?」
「あれ、1年坊主だよな?」
「あぁ、言いたいことはわかる。俺らでも勝てそうにないな」
「将来、どうなるんだろうな」
「さぁな。あれらは敵じゃない。それで、十分だと思うよ」
「そう……そうだな」





 再びグラウンドにて。

 なるほど、やはり切り札はなかったか、ターバ!
 アレをやるのはまだ先。今はまだだ。

 試合時間はすでに10分が経過している。
 体力もそろそろしんどいな。だが、焦ってはだめだ。
 

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