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第二章 〜水晶使いの成長〜

第44話  体育祭③

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『次の種目は、選抜リレー。選手は並んでください。2年生も3年生も』

 司会大丈夫か? だいぶ雑だな。声に覇気もないし。お疲れか?

「ターバ、行こうか」
「おう。あとの2人は?」
「先に行ったはずだ。さっき見えたから」
「そうか。順番は……俺がアンカー」
「オレが3番だな」

 話し合いの結果、この順番となった。
 実際は、3人でくじを引いて決めたんだが。ターバは一番速いんだから、アンカーで確定だ。

 選抜リレーだなんて、縁がないと思ってたが、こうして出ることになるとはな。
 少し緊張してきた……。

 総勢48人。
 各クラスの上位4人が集まっている。

 それが4(人)×4(クラス)×3(学年)。

 この集団の中にオレが存在している。
 未だ信じられない。だが、これが事実。
 別に、嫌じゃない。それどころか、嬉しい。

『開始!』

 あ、始まった。
 人が変わったな。声が違う。さっきは男だったが、女の声になった。

 ま、そこはどうでもいい。問題はそこではない。
 問題は、学年1位の奴が今走っていることだ。

 ここで差が開いてしまった。
 ま、全員あまり変わらないんだが。200メートルも走れば、そこそこ差は開いてしまう。

 だが、全く心配はいらなかった。
 2番目の奴が差を縮め、オレが1位をつかみ、ターバが差を広げた。

 結果、1位。1年の優勝はオレたち1組だな。



 そして、2年、3年と過ぎていき、選抜リレーはこれにて終了。
 そしていよいよ、選抜模擬戦だ。

「さすがに緊張するな……」
「ターバでも緊張するんだな」
「そりゃな。ライン、水晶も使うんだろ?」
「当たり前だ。瞬殺してやるよ。……ターバが相手なら、瞬殺できないし無傷で終わることもできないだろうけどな」

 ターバの攻撃は水晶を使っても完璧に防ぎきることはできない。
 どうなってんだ……。
 まぁ、勝つんだけど。

 3年の中には、覚醒者が数人混ざっている。
 身体強化では、勝ち目は0。それほど、覚醒の力は強大ということだ。

『では、これより、選抜模擬戦を開催する。各学年で勝者を1人、計3人決める。ルールは伝えた通りだ。では、1年生から』

 1年生から。
 ターバと決勝で当たるのが理想的だ。なんて願ったら、最初の試合で当たることになるだろうから何も考えない!

『トーナメント表はあの通りだ』

 各校舎に、垂れ幕が掛かっていた。
 1年生のは、オレたちの使う校舎に。

 よし! ターバとは決勝で、だな。
 スゥは……初戦からオレとか。水晶を使ってささっと終わらすかぁ。
 しかも一番目。

『記念すべき1試合目は、1組、ライン・ルルクス。1組、スゥ・フォナイ。両者は中心まで』

 グラウンドの中心で向かい合う。
 周りからは興奮した野次が飛ぶ。外野がうるせぇな゙ぁ。

 ……なんてな。驚きで声が出なくしてやるよ。

「お手柔らかにね、ライン?」
「初めてだな、戦うのは。手加減はしない。構わないだろ?」
「……うん。痛くないようにしてくれたら」

 クククッ。オレは残虐非道の限りを尽くす暴君ではない。心は慈愛に満ち溢れているんだ。

『両者、握手をしたら、教員用テントの横に、武器が置かれている。一つ選べ』

 握手をし、棍を手にし、戻る。
 スゥは魔術師だ。武器は持たない。訓練も受けていないはずだ。

『両者、構え! ……開始!』

 『火球ファイアーボール』が上空で爆破する。
 互いの距離はおよそ20メートル。
 互いに身体強化を発動する。

 その後、スゥは『火壁ファイアーウォール』を、オレは『晶弾しょうだん』を3つ生成し、発射する。
 だが、『晶弾』が『火壁ファイアーウォール』に到着するより速く、『火球ファイアーボール』が発射され、『晶弾』は飲み込まれてしまった。
 そしてその『火球ファイアーボール』を打ち消すため、『晶拳しょうけん』を、同じ軌道で3発連続で発射する。

 1発目。スゥの『火球ファイアーボール』を打ち消し、そのまま直進。
 そして『火壁ファイアーウォール』にぶつかるも、消滅。

 2発目。『火壁ファイアーウォール』が回復仕切る前に穴を広げ、スゥに迫る。
 『火壁ファイアーウォール』が視界を遮り、よく見えなかったが、なんらかの手段で『晶拳』がやられた。

 3発目。これは気づかれなかったらしい。
 3発目のみに仕込んだプログラミングが発動。『晶拳』が無数の『晶弾』に変わり、スゥに雨のように降り注ぐ。

 この間、オレもただ見ていたわけではない。スゥとの距離を詰めていたのだ。

 そして、『晶弾』がスゥに降り注いだことにより、『火壁ファイアーウォール』が消えた。
 そして『晶鎖』でスゥをグルグル巻きに縛る。動作なしノーモーションで魔法は使えるから、『晶弾』を向けておく。
 何かしようものなら、再び『晶弾』の雨が降り注ぐこととなる。

「……降参」

 そうそう。負けを認めるのはいいことだ。

『勝者、1組、ライン・ルルクス!』

 はいはい。大歓声ありがとござんす。瞬殺だったもんな。





 ターバ・カイシ。
 それが俺の名前だ。

 今から選抜模擬戦だ。
 相手は3組1位の大剣使い。名前は知らん!

『両者構え! ……開始!』

 身体強化を発動し、距離を詰める。
 相手も同じように。

 でも……遅いな。筋肉だけか。

 ……なるほど。さすがにわかってはいたか。

 俺の目の前では、相手が大剣を大きく振りかぶっている。
 縦ではなく横で。

 自分の弱点を理解し、相手の意表を突く。
 大剣は、振り下ろしが効果的だ。だが、敢えて横向きに振る。

 まあ、横にしようが関係はないんだが。俺より弱いことに変わりはない。
 筋肉だけで、速さを捨てた存在は……敵にはならない。

 相手の横振りを、双剣で巧みに軌道を上向きに逸らし、ガラ空きの胴体に攻撃する。
 刃の側面を使って殴打攻撃だ。そして、剣の柄で思いっきり殴る。

「ガハッ」 

 強く入ったようだ。唾はかからなかったはずだ。そして、足を引っ掛けて転ばせ、首元に剣を突き立てる。

「はい、終了!」
『勝者、1組、ターバ・カイシ!』

 大歓声。
 ラインぐらい早く倒せたらよかったんだが、魔法なしだとこんなもんだろ。
 ラインは属性特化だからな。しょうがない!





 その後も、ラインとターバは瞬殺を続けた。2人が決勝で出会うのは……時間の問題だった。





 おー。ターバも瞬殺を決めたか。……秒殺か? あの人も、もう少しパワーがあればな。

 大剣使いにスピードは求めるべきではない。大剣が重いからな。
 パワーがあれば、剣を振る速度も上がる。まあ、今回は相手が悪かったかもな。

 ターバはスピードもパワーも兼ね備えているからなぁ。はっきり言って、チートだろ。

 ターバは細かい動作が得意だ。
 だから、軌道を逸らすのが人一倍簡単にできる。
 いわゆる、パリィだ。あの、敵にやられたらめちゃウザいやつ。たまにいるよな。パリィに特化したキャラを育成するやつ。
 あれ、ほんとに腹立つよな。

 さて、こんな話は置いといて。
 ターバについての考察だったな。まぁ、オレも似たようなもんだし、そんなやつもいるだろう。

 転生者の可能性はなさそうだ。
 一般的に流出していない英語、和製英語が通じるかどうかが、転生者か否かを分ける。

 ターバの結果は、否。
 何度か使ってみたが、どれも理解していなかった。
 記憶が目覚めていない可能性もありえるが、それは誰にでも言える話だ。
 ……クソッ! 判別しやすくしとけよ。

 それと、魔王についての情報は皆無だ。
 存在そのものが怪しい。

 ただ、三賢者の時代。
 その時代に、【魔力の目覚め】という、世界規模の異常事態が起こったことがわかった。
 ただ、詳しいことはわからなかった。わかったことは、

 ・魔物の強力化
 ・魔術の一般化
 ・覚醒者の増加

 こんなものだ。1番目と3番目は名前の通り。
 そして、2番目。これは3番目に繋がっている。

 この現象が起こるまで、魔術は才能のある人にしか扱うことのできないものだった。
 だが、誰もが微弱ながらも魔術を扱えるようになった。
 魔術の最低ラインの引き上げが起こった、ということだ。

 ただ、いち早く三賢者が生活魔術を広めたため、そのイメージが定着し、良くも悪くも自由気ままに魔力を扱うことができなくなった。

 隠し絵で、一面が見えると、他の見方ができなくなってしまう。
 それと同じだ。
 それに、そもそもが弱いため、攻撃でも大したことはない。

 今の世の中の攻撃魔法の適性を持つ人の大半はこの現象が起こる以前でも魔法は使えただろう。

 つまり、魔力の最低ラインが上がったことで、「魔物が強力化」し、「身体強化、覚醒がしやすく」なり、誰でも魔法を使えるようになった。



 さて、少し物思いに耽ってしまったな。
 もう、次が決勝だ。

 ターバと本気でやるのは、森の調査から帰ってきた後以来、か。

 クククッ。ワクワクしてきた……!! 





 
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