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第二章 〜水晶使いの成長〜

第31話  クラス内戦闘⑤

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 お次はスゥ・フォナイの戦いか。
 はっきり、スゥ・フォナイがここまでこれたのは、単純に能力のおかげだな。

 火の壁──『火壁ファイアーウォール』で身を守りつつ、自分の魔法を強化する。

 それだけだ。
 確かに、その戦い方は良いだろう。

 でも、ターバには勝てない。
 オレにも、だけどな。
 消費魔力が多すぎる。つまり、持久戦になった時に分が悪すぎる。

 『火壁ファイアーウォール』は高さ3メートル、幅5メートルの巨大な火の壁を作り出す魔法だ。
 維持魔力量は少なくない。
 オレは、『晶壁』がその役目を果たし次第、消すようにしている。
 スゥはそれを消さない。

 しかも、それを維持したまま別の魔法……攻撃魔法を放つ。
 おまけに壁の向こうが見えないため、勘で打つしかない。
 魔力探知も、『火壁ファイアーウォール』が邪魔で、向こう側を見ることはできない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 魔力で生み出された火は、何を燃やしているのか。 
 有機物か?

 なら、空中に浮かばしている火は何を燃やしている?
 酸素か?

 答えは魔力だ。

 魔力は、1種のエネルギーであり、万物に通ずるエネルギーだ。

 もちろん、火の魔法を枯れ木に落とせば、枯れ木は燃え、二酸化炭素を発生させる。

 だが、そこで維持魔力量が必要かと言えば、そうではない。

 消費魔力量は、生み出した火の大きさに左右され、維持魔力は、生み出すのに使用した魔力量に左右されるからだ。

 魔力エネルギーを熱エネルギー、光エネルギーに。これこそ、火の魔術の原理。

 

 魔力は万能のエネルギーである。

             ──三賢者──

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 学校の寮の入り口にあった石碑。それに刻みこまれていた言葉。

 オレの水晶は?
 ……と、疑問に思ったが、科学エネルギーにでも変わっているのかな。

 ちょうど転生前の理科でやってた内容だな。
 コージェネレーションとかさ。……無駄なエネルギーを再利用だったか?


 
 話が少し逸れた。

 現在、スゥ・フォナイの方が優勢だな。
 範囲攻撃を使ってるからか、命中率が高くなっている。
 それに加え、相手が上げるうめき声を聞いたり、時々攻撃をやめて相手の動く音を聞いている。
 音で相手を捕捉しているようだ。

 ……まずい。ターバでも勝てるかどうか、怪しくなってきた。

「ちょっと、勝てるかどうか怪しくなってきたねぇ、ターバくぅん?」
「ラインだったら勝てるのか?」
「勝てますけど?」
「魔法使って?」
「そりゃあね」

 何を言ってるんだ、ターバよ……。あの壁を生身で突破するとでも?

「回り込むにしても、動かされるぞ?」
「え、まじ?」
「うん。半分にわけて、片方をね」
「ほ~~ん……。それでも、だな」

 突破方法に支障はない。

「俺が勝てば、あいつはラインとは当たらない」
「そうだけどさ……まあいい、頑張れよ。これが終わって少ししたら、始まるからな」
「そろそろ決着がつきそうだな」

 相手は息も絶え絶えだ。
 身体強化を発動させているおかげで持ちこたえているが。

 火を受けても、服はなんともない。
 なんだったか……。魔力が通るようになってるんだったか……いや、身体強化とリンクするんだったか……?

 まあ、なんだ。
 丈夫になるってことだ。
 多少なら修復されるらしい。一般の服は無理だけどな。

 そして、対戦する時に着る防具……というより、胸当て。
 それはさすがに修復されない。
 金属の部分は、だけどな。大部分な布製だけどな。

「さてさて、どうやってあれを突破しようか」
「武器は双剣……近接型。対して、相手は火を使う遠距離型」
「ラインだったらどうする?」
「水晶で壁の向こうから攻撃、もしくは、水晶で身を包み、壁を突破する、かな」
「水晶が使えなかった、使えない場合は?」
「攻撃を避けつつ、静かに接近して、回り込む」

 爆発攻撃が多いから、うめき声さえ上げなければ問題はないはずだ。

 爆発は、魔力の解放とでも言うのか。
 爆発の寸前に、魔法との繋がりは消える。
 逆に言えば、爆発でなければ、それを食らった場合、位置がばれると言うことだ。

「爆発は食らっても問題はないはずだ」
「そんな見分けつくか?」
「なんとなくだが、爆発する魔法は他のものと比べて重い気がするんだ。火の魔法は使えないからよくわからんが」
「ん~~。…………やってみるか」

 プログラミングに近いのかもな、爆発は。
 それにしても、ターバは何か思いついたのかね?

「どうした? 何か名案でも思いついたか?」
「成功する確率はあまり高くないし、失敗したら負けてしまう可能性が高くなる。……というより、ほぼ確定で負ける」
「成功すれば……?」
「ほぼ勝ちかもな。失敗した場合、実戦だと、死ぬか、致命傷」
「なるほどな、やってみたらどうだ? ここまで瞬殺を決めてきたんだ。ここでも圧勝すれば、評価はかなり高いぞ?」
「そうするかな」

 どうするんだろうか?

 失敗すれば負ける可能性大、か。
 武器を投げるのか?

 でも、『火壁ファイアーウォール』は魔法による火だ。
 操作圏内にあるし、火に向きを持たせることで防ぐこともできるかもしれない。

 そこら辺、ターバもわかって…………るのか? 怪しい……。

「ライン、そろそろ終わりだ……と言うより、もう無理だ」
「……ほんとだな」

 目にしたのは、『火壁ファイアーウォール』が消えるところだった。
 スゥ・フォナイの敗北か?

 いや、そうではない。逆だ。
 相手側がもう、戦闘の続行が不可能なんだ。

「──そこまで!」

 火による熱と、爆発による衝撃、そして逃げ続けたことによる体力の著しい消費。
 もちろん、そこそこ持ち堪えたせいか、スゥ・フォナイの魔力量も怪しいところだ。

 というより、残り魔力量がほとんどなくなったため、さっさと『火壁ファイアーウォール』を消したのかもしれないな。

「えー、次の試合は……何分後ならできますか?」
「30分……ですか……ね……」
「はい。次の試合は30分後に行いますので、各自自由にしていてください」

 毎度毎度限界近くまで魔力を使ってたんじゃ、疲労も蓄積するわな。

 ただ、総魔力量を増やすには一番効果的だ。持久走と一緒なんだから。
 ひたすら走り続ける。ひたすら魔力を出し続ける。
 
 持久走をしてすぐに体力が回復したように見えても、実はほとんど回復していない。
 だって、走れないじゃん。
 それと同じことだ。だから、次の試合は……

「短期決戦になりそうだな」
「え、なんで? 時間もまだあるし、休憩するって言ってるけど……」
「魔力と体力は似てるものなんだよ。ターバ、4キロ走って20分ほど休憩して、また4キロ走れるか?」
「……厳しいな。4キロならギリギリ……」
「1回目よりもしんどいだろ?」
「……そうだな」
「つまり、そういうことだ」
「なるほどな」

 つまり、感じることのできない疲労は蓄積され、回復に時間がかかるということだ。
 ただ、魔力は体力よりも単純なため、回復したら本当に回復。ゲージで表すことができる。
 体力は無理かな。
 




「スゥさん、30分経ちましたが、どうですか?」
「もう大丈夫です。いけます!」
「わかりました。ターバくん、始めますよ!」
「わかりました!」

 いよいよか。

 双剣士vs火の魔術師。

 どちらが勝っても負けても不思議ではない。オレはターバに賭ける。勘でしかないけど。

「よろしく」
「こちらこそ、よろしく」

 きっちり握手をし、距離を空け、構える。

 ……ターバの構えがいつもと違う。
 左手を前に、右手を上に掲げている。剣を投げるような構えをしている。
 重心はいつも通り前側だ。

 まさか……『火壁ファイアーウォール』を使われる前に投擲するつもりか?

 対してスゥ・フォナイは両手ともターバに向けている。ターゲッティングか。
 まあ、狙いはブレにくくなるよな。オレはあまりやらないけど。
 ……いや、無意識にやってるな。『晶弾』の時ぐらいだけど。

 にしても、互いにすごい集中力だ。もう周りの音も聞こえないぞ。
 いや、開始の合図ぐらいは聞こえるだろうけど。
 開始の合図しか聞こえない、と言った方が正しいかな。

「──開始!」

 その合図と同時にスゥ・フォナイが『火壁ファイアーウォール』を展開した。
 
 そのコンマ数秒前──「開始」のかの字が聞こえた瞬間、ターバは右手に持った剣を思いっきり投げ、それを追いかけるように走り出した。
 途中で左手の剣を右手に持ち替えることも忘れない。

 そして、持ち替えるのと同時に、『火壁ファイアーウォール』が出現した。
 少し出が遅かった。
 やはり疲れが溜まっているようだ。

 それに、おそらく投げられた剣には気づいているが、ターバの接近には気づいていない。
 ターバがほぼ無音で走っているのもあるかもしれないが。

「『火壁ファイアーウォール』をなぜ解かないんだ? 維持魔力がバカにならないだろうに」

 そう、それが疑問だった。

 逆転の一手が隠されているのかもしれない。
 だが、時間をかけるのは、お互いに得策とはなりえない。

 スゥ・フォナイは『火球ファイアーボール』……ではなく、『火の玉』を手当たり次第連射し始めた。 
 着弾すると小さな爆発が起こっている。

 ……そうか! 爆発の瞬間は感覚の繋がりが途切れる。だが、どこで途切れたかはわかる! 
 
 そこを失念していたな。おそらく、そのことにさっき気づいたのだろう。でも……

「──無駄だね、残念……」

 ターバは既に壁のすぐ手前まで近づいていた。 
 『火の玉』が発射されたのを確認し、内側に回り込んだのだ。

 もちろん、剣は避けられている。

 ターバが回り込んだのは、正面から見て右側。
 そして、スゥ・フォナイもそちら側に避けた。偶然か必然か。

 ──必然だ。

 ターバの投げた剣は、スゥの立ち位置から、若干左側にズレていた。
 だからスゥは、自分より見て右側に来た剣を避けるため、左側……オレ目線で右側に跳んだ。

 ……これが偶然の可能性もある。

 ──そして、スゥ・フォナイの首元にターバの剣が突きつけられ、勝負はあっさりと幕を下ろした。

「く……っ」

 あ~あ。泣かしちゃった。

「勝者、9番、ターバ・カイシ。次の試合は10分後です!」

 ターバが戻って来た。

「勝ったぜぇ」
「お前、あいつ泣いてんぞ?」
「俺が何か言っても変わらんでしょ? ってか、泣いてないぞ?」
「……ほんとだな。俯いたからてっきり……。それより、ターバ。あれは最初から仕組んでたのか?」
「当たり前でしょ」

 ……ですよね。さすがにオレも思い浮かばなかったぜ。

「さて、俺はラインと戦うために、向こうで準備するわ」
「ああ、わかった。多少の痛みは覚悟しとくんだな」
「そっちこそ」



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