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第二章 〜水晶使いの成長〜
第25話 森の探検②
しおりを挟むさてさて、どうするか……。
「ライン、どうするよ?」
「2人で射るか?」
「そうするか。それなら、確実に殺れるだろ」
「よし、構えろ。…………3……2……1……0!」
放たれた2本の矢は、迷うことなく、カクトツに命中した。
『晶弓』は頭に、ターバの矢は、首に命中した。
どちらも急所だ。
カクトツはそのまま、倒れ、死んだ。
「ほんとに便利だな、お前の水晶」
「だろ? ほら、こうやって刺さった水晶も……消すことができる」
「血抜きがすぐ終わるな」
「今回は時間がないし……。ターバ、首を切り落としてくれ」
「はいよ!」
頸動脈を傷付けて血抜きするのがいいんだが、今回は時間がないからしょうがない。
頸動脈を傷付けて血抜きすると、肉の新鮮さが保てるが、頭を切り落とすと、腐りやすくなる。
衛生的にも良くないしな。
「よっと!」
綺麗な太刀筋だなぁ。
スッパリ切れてるわ。
「さてと、ちょうどよく蔦があるな。これで吊り上げるか」
「切ろうか?」
「根本から切ってくれ、ここだ」
オレが蔦の根本を探し出し、そこをターバが切る。
「枝が高いな。ライン、俺が上に登っとくわ」
「ああ、頼んだ」
ターバは、猿も顔負けの速さで木を登っていった。
「ライン、いいよー!」
「よし、そらよっと!」
オレは『晶弓』を作り、蔦の先を結びつけ、ターバの少し上を狙って射る。
蔦の部分をターバが掴んだのを確認し、『晶弓』を消す。
ほんと便利!
修行の結果、半径30メートルほどの範囲で操作できるようになったからな!
「上げるぞ~」
「ほ~い」
傷が付かないように持ち上げておく。
蔦の先を持って、ターバが少しずつ降りてくる。
原理は滑車と同じだ。重りがターバ、滑車が気の枝。
少しずつ首なしカクトツが上がっていき、ようやく首が地面に付かなくなった。
「これでどんぐらい待てばいいか……」
「大体、1時間ぐらいか?」
「……さすがに腹減ったな」
「首は切り落としたし、それ以外は食用だからな。摘まみ食いは駄目だぞ。血を抜かないと解体できないしな」
「野草集めでも手伝うか?」
野草も魅力的なんだが、最もいいものを知ってる。
「果物でも探そうぜ」
「それしようか!」
1時間後。
「どッせーい!!」
カクトツと数種類の果物を抱え、オレたちは広場に戻った。
「すごいですねぇ……」
「今から、こいつを解体するんで、もう少し待ってください」
「ターバ、ライン、先生。私たちも終わったよ」
ヌー、クォーサ、ヤマルも戻ってきた。
……ハーブ類が多いな、流石だ。ハーブ類は、案外そこらに生えてたりする。
それに、肉の臭みを消し、香りを付けててくれる。
前世では、綺麗な水場に行けば結構生えてた。
「お! ハーブ類が多いですねぇ。こちらの茸は……?」
「全部食べられるやつです」
どれも前世にはなかったやつばっかりだな。
……ん? まて……、これは……!
「これが気になるの?」
ある茸を凝視していたら、ヤマルが声をかけてきた。
なるべく、心の内を悟られぬよう、冷静に尋ねたつもりだ。
「……これは、なんだ?」
似ているだけだ、そうだ。そんな考えは、即座に打ち破られた。
「──シイタケだよ?」
「……他のも名前を教えてくれるか?」
動揺はしたが、上手く押さえ込めただろう。まさか、シイタケが出てくるとは……。
良いのか悪いのか、他の茸は全部聞いたことがない名前だった。
「シイタケといえば、唯一、三賢者によって発見された茸ですね」
「唯一……?」
「詳しくは、いずれ授業でやりますけど、その植物の賢者が発見した茸が、シイタケなんです。他のものは、それ以前に発見されていましたが。そして繁殖方法を発見し、広めたとされています。今私たちが食べている茸の半分は、シイタケですよ?」
どうなってやがる!
植物の賢者は、名前の通り、作物を作り出せたのか?
そうだ……今思えば、大豆とか大根とか出回ってる! なんの違和感もなかったが……。
だとしたら、三賢者ありがとう!!
だが、前世と似ている作物、動物でも、名前が違うものもある。
ゴロンの実、カクトツ、バモ……ex。
同じものは、スライム、大根、シイタケ……ex。
スライムが前世と同じ呼び方――スライムなのも気になる。
三賢者が生み出した……?
いや、伝説に謳われている存在がいるし、生み出すメリットが謎だ。
可能性はかなり低い。
「──さて、火も付きましたし、解体も終わったようなので、料理しましょうか!」
そういや、解体してたんだった。
解体用のナイフは先生から借りた。
水晶で作ってもいいんだが、切れ味が悪いからな。
上手にスパッと切れるものは、まだできない。少しでも時間がある時に練習しないとなぁ。
「先生、俺たちは、これ洗ってきますね!」
「わかりました、あまり遠くに行かないように」
ハーブ類があったってことは、近場に川がある証拠だ。こうやって歩いていると、どこからともなく……
サァーー
と、水の流れる音がする。
「ターバ、こっちだ」
「わかった。俺には聞こえないんだけど……」
「……身体強化を発動させてみろ」
「……あ、ほんとだ。え、ライン、今発動させてんの?」
「耳だけ、な」
耳だけではないけどな。目も発動させてる。
「どうやったらいいんだよ!」
感覚頼りだが、そこも含めて長々と説明した。
全身に血管みたいなのが張り巡らされてる感覚ってのを説明するのに、やたら時間がかかった。
説明しながら解体用ナイフを洗い、手を洗った。
で、帰りに魔力探知とほぼ同じだ、と言ったら、それで解決してしまった。
……なんなんだ、ほんとに。苦労して、言葉を選びに選んで説明してきたのによ!
先生たちのもとへ戻ると、既に火が焚かれ、料理が造られていた。
先生が持ってきていた小さめの袋。
この袋の中に、簡易的なフライパンやら調理器具が入っていたらしい。道理でがちゃがちゃ音がしたわけだ。
あと、小さな瓶を3つ。中には油が入っていた。ゴロンの油だ。
肉は、一部は洗って乾かした木の棒に突き刺し、火で焼いている。そして他の部分はというと……
「あーあ、せっかく瞬殺したのになぁ」
「カクトツって、大きいもんな。1食じゃ余るか」
「だからって、半分も捨てるかね?」
捨ててこい、と言われた。
まあ、自然の輪廻に任せると言えば、聞こえはいい。悪く言えば食品ロスだな。
「カマルーでも探しておけばよかったかな~」
「最初に見つかったのがカクトツだったんだ。仕方ねぇだろ。それに、カマルーだと、数匹探す必要があった」
カマルーとは、うさぎ型の魔物だ。
茶色の毛を持つ、戦闘能力はほぼ皆無の魔物だ。姿形は、前世のうさぎとまるで変わらない。
アルミラージとかいないかなぁ。……そもそもいないか。
いても、似た魔物を転生者が発見して名付けた魔物だろうな。
オレたちは適当にカクトツの余った肉を捨てた。
「さてと、帰るか」
「あ~~、腹減った~~」
そのとき、
「ギャギャ!」
あ……?
せっかく見逃そうと思ってたゴブリンたちじゃないか。話の通りの姿だな。
「ゴブリン!」
「やれやれ……だいたい20匹ってとこか」
「逃してくれそうもないな」
「せっかく見逃そうとしてたのに……、命知らずな奴らめ」
「聴覚強化とやら、俺も使えるようになりたいなで、どうするよ? 何体いける? 俺は半分は倒せるけど……」
「余裕を持って、何体?」
「5」
「じゃ、お先にどうぞ。余りは、瞬殺するから」
ゴブリンの強さは一般男性ぐらいだ。
知性はとても低く、野生の魔物と同じくらい。
少しすばしこいが、特段力が強いわけではない。
上位種にオーガがいるが、これも知性はゴブリンと同じくらい。だが、力がとても強い。
ゴブリンは薄い茶色の毛と、額に1本の小さな角を持っている。
緑色のツルツル肌じゃなかった。
「それじゃ、数匹倒したら、後は頼むわ」
「おう! 任せとけ!」
双剣を構え、ゴブリンの群れへ飛び込んで行った。
オレたちの腕力程度じゃ、ゴブリンの細い首を切るのも全力でやる必要がある。
とはいえ、数が多いな。
「ライン、交代頼む! 7匹だ!」
「任せろ! 『晶棘』!!」
踏み込みに合わせ、『晶棘』でゴブリンたちの体を貫く。
ターバがオレの方に走ってきてくれたおかげで、全てのゴブリンがこちらへ向かってきていた。
仕留め損なえば、『晶弾』で仕留めようとおもったんだが……上手くできたな。
オレたちは広場に戻った。
「ただいまでーす!」
「おかえりなさい、もうご飯できますからね。何もなかったですか?」
「ゴブリンの群れに遭遇しましたが、なんなく乗り切りました。……というより、ラインが瞬殺しました」
正直でよろしい。
「細かく言うと、ターバが7匹、オレが残りの13匹を殺りました」
「20!? 多すぎますね……。多くても10匹前後なんですけど……」
「まあ、瞬殺だったそうですし、いいじゃないですか! ほら、もうできましたから」
ハーブ類の草を巻きつけた肉の串焼き! 美味そうだ!
「あ、武器はちゃんと洗ってきました」
「そうですか……、わかりました。食べたら、もう帰りましょうか。帰ってもすることがあるので、終わる時間は予定と代わりませんよ」
やらされたのは、武器を使った模擬戦でした……。
後から聞いた話だが、オレたちレベルだと、1人でゴブリン3体を倒せれば、良い方らしい。
ちなみに、カクトツのハーブ巻き串焼きは、以降、キャンプメニューの定番となった。
誰が喋ったのか……。
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