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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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なんとなく話が切れたところで、ミリアがためらいつつ声を上げた。

「トラヴィス殿下、兄とジョーの精神魔術はいつになったら解いて貰えますか?」

「もう少し相手の出方を見たいから待ってくれないか。どちらにせよ、今はマリオット先生が隣国に出張中なので解術は出来ないのだ」

(へぇ!マリオット先生出張中なんだ。道理で最近生徒会室に来ないと思った)

ミリアは不承不承と言う表情で

「分かりました・・・」

と頷いた。

「マリオット先生の出張はエメライン王女の説得ですか?」

「そうだ」

ディーンの問いにトラヴィスは苦い顔で溜息をついた。

「彼女は自国に戻ってからも、皇国についてある事無い事を言い回っているらしい。おかげで隣国セルナクの王は私との婚約破棄もこちらの責任だと言って来た」

「あんなに学園で騒ぎを起こしたのに!?怪我人だって出たんですよ!?」

エメラインは自国に戻るまで投獄されていた。学園内で魔術で人を攻撃したのだから当然だ。

皇国で処罰されてもおかしくないくらいだったが、さすがに隣国セルナクとの関係を重んじた皇帝は、トラヴィスとの婚約破棄という処分だけでエメラインをセルナクに返すことにした。

エメラインから謝罪の言葉は最後まで無かった。トラヴィスにも、もちろん襲撃された私に対しても。

(こうなると気持ち良い程の悪役っぷりだよね)

ゲーム通りで感心してしまうくらいだ。

だけど次のトラヴィスの言葉に私はギョッとさせられた。

「最近になって精神魔術の事がどこからか漏れたんだよ。エメラインは自分は操られていたせいで、あくまで被害者だと言いだした。しかも精神魔術をかけたのはコールリッジ公爵令嬢だと言ってるようだ」

「えええ!?私がですか?。そんな・・・だって、私は魔力ゼロなんですよ!?」

どうやって精神魔術をかけるんじゃい!?

(とんでもない奴だ。感心なんてしてる場合じゃ無かった。エメラインってば、まだ私をターゲットのしてるの!?)

あまりのしつこさにうんざりした。

「だから外交大臣と一緒にマリオット先生に行って貰ったのさ。彼は去年アリアナの担任だったし、エメラインの担任だった事もあるからね。上手く相手をなだめられたらいいんだが・・・」

そう言いながらもトラヴィスはあまり期待しては無さそうだった。

「おまけに私との婚約をもう一度結び直したいと言ってるらしいよ。困ったものだ」

彼の言葉にこの場にいる全員がどん引いた。

(しつこいなんてもんじゃない。往生際が悪い上に粘着質・・・怖すぎでしょ!?)

しかしトラヴィスはもっと怖い事を話しだした。

「これは今朝届いた情報だが、どうもセルナクの王はアリアナを連れてくるように言ってるらしい。君が犯人なのかをセルナク側で見極めたいそうだよ。だが、恐らくセルナクに行ったが最後になんだかんだで有罪にされてしまうだろうね」

「じょ、冗談じゃ無いですよ!」

そんなの有罪→投獄→処刑の流れじゃないか!。悪役令嬢のテンプレじゃあるまいし!

(ロリコンより酷いよ!。無茶苦茶だ。エメラインもセルナクの王もおかしいって!)

しかしよく考えればゲームでは戦争仕掛けてくる国だ。エメラインの責任で婚約破棄したからって大人しく納得する相手じゃ無いのかもしれない。

慌てる私にトラヴィスは少し笑って

「そんなに心配しなくて良い。そうはなら無い様にこちらも対応してるから。向こうだって証拠は無いから、そこまで無理強いはしてこない。それに君の父上がそんな事、承諾するわけが無いだろう?」

「そ・・・そうですね」

私はとりあえず胸を撫で下ろした。

「で、では今は何としてでも、マリオット先生には頑張ってもらわねばですね」

そう言って右手をギュッと握ったところで、執務室の扉がノックされた。

「兄上、パーシヴァルです」

「ああ、入ってくれ。・・・遅かったな」

「すみません、色々頼まれてしまいました」

パーシヴァルは中へ入ると大量の書類を机の上に置いた。

(あ、生徒会の仕事だ)

この学園の行事は、ほぼ生徒会がが主体で行っている。

先生方からの要望を聞いて新しい企画を行ったりもするので、いつも生徒会は仕事でいっぱいなのだ。

闇の組織の事も調べなくてはいけないけれど、生徒会の事も疎かには出来ないので自然とやる事が多くなる。

だけどトラヴィスは皇国の実務も手伝いながら、この学園の仕事も全て完璧にさばいていた。

(本当に有能なんだよね。さらに裏の肖像画の商売まで仕切ってるんだから)

私はチラッとトラヴィスをうかがってみた。横顔からだけでも上に立つ者としてのオーラが感じられる。周りが彼を崇拝するのも分かる気がした。

(しかも滅茶苦茶ハンサムな上に背が高くて格好いいときてる)

エメラインが執着するのも分かる気がした。


トラヴィスは書類の中の一枚を手に取ると、口元に手を当てて何か考え始めた。パーシヴァルが覗きこんで、

「ああ、これは魔術指導の先生からの要望企画です。野外での実戦授業を泊まり込みで行いたいとか。ただ、去年も一昨年も参加希望者が少なくて実行されなかったんですよ」

そう説明した。

(だって貴族の坊ちゃんやご令嬢ばっかだもんね、この学校は。そんなワイルドな事したくないでしょうよ)

多分今年も人が集まらないんじゃないだろうか。魔術指導の先生のがっかりする顔が目に浮かぶ。

だけどトラヴィスは何か思いついたようだった。書類を私達の方へ向けて、

「これを利用させて貰おう」

そう言ってニヤッと笑った。
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