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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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「どうしてアリアナの前に聖女ヘンルーカが現れたのか、またエンリル皇妃は何故アンファエルンを操って闇の組織を弾圧したのか・・・謎だらけだが、分かった事もある」

トラヴィスはローズの手記を開いた。

「ここに書いてある文章・・・『私達にはライナスが必要だ。その為にも私達はエンリルの力に頼らざるを得ない。あの魔術を使えるのはエンリルだけなのだから』と言う部分。そして『儀式は成功した』という言葉。これについて、皆はどう思う?」

トラヴィスの問いに、皆は困惑の表情を浮かべた。

そりゃそうだろう。それだけじゃ普通は何も分からないよね。だけど、

(トラヴィスは気づいたんだ)

私にはトラヴィスが何を言いたいのか分かっていた。そしてそれを聞きたくなかった。

トラヴィスは黒い本を開く。

「これは、ここに書かれている魔術の中で一番の禁術・・・いや、邪法と言っても良いかもな。その方法が書かれてある」

「邪法・・・ですか?」

リリーが眉をひそめた。

クリフは本を覗きこんでトラヴィスが指さす言葉を読んだ。

「肉体を離れし精神を呼び戻す儀式?。これは・・・」

どう言う魔術なのかとクリフが問う前に、重々しい口調でトラヴィスが言った。

「つまりは、死んだものを生き返らせる魔術と言う事だ」

皆は驚愕に言葉が出ないようだった。

それともそんな魔術の存在を信じられないと思ったからだろうか。

トラヴィスは言葉を重ねた。

「しかもこの方法はかなりおぞましいぞ。生き返らせると言っても、ここに書いてある通り精神だけなんだ」

「どう言う事でしょう?。精神だけ生き返るんですか?。どうやって・・・?」

とミリアが意味が分からないと言う風に問うた。トラヴィスは頷きながら黒い本を指さした。

「見てごらん。ここに儀式の手順が書かれているだろう。・・・まず第一に精神を呼び戻すにはその入れ物を用意しなくてはいけない」

「入れ物?」

「ああ、要するに別の肉体だ。誰か他人の身体を精神の入れ物として使うんだ」

「なっ!?」

ミリアとリリーの顔が青ざめた。クリフとディーンも顔をしかめている。

だがトラヴィスはそのまま本を読み進めた。

「・・・肉体が滅びゆく精神を、精神魔術の技法にて輪廻の輪に入る前に捕縛する。次に準備した肉体へと移動させ定着させる・・・とある。つまり年老いたか、病気や怪我で死にかけている人間の精神を、別の人間の身体に入れ替えるという事だ」

「そんな!・・・ではその、入れ物にされた人の精神はどうなるのですか?」

リリーが震える声で聞いた。トラヴィスは首を振って、

「いや、新しく入ってきた精神によって追い出される。そう言う儀式なんだ。それに一つの身体に二つの精神は相いれないだろう。追い出された精神はすなわち死だ。どうだ?間違いなく邪法だろう?」

そう言って黒い本を閉じた。

私は身体の震えが止まらなかった。

(嫌だ・・・やっぱりこの話は・・・)

ディーンが私を見ている。私は必死で平静を装うとした。

トラヴィスは皆の顔を見回すと、

「ローズ達、闇の組織はライナスを蘇らせる事に成功したのだと思う」

確信した口調でそう言った。

「蘇ったライナスの力で闇の組織はアンファエルンの追跡から逃れた。儀式を行ったのは皇妃になる前のエンリル。手記にあったようにエンリルは恐ろしい程の精神魔術の使い手だった。恐らくこの儀式を成功できるのは彼女だけだったのだろう」

「しかし、エンリル皇妃がライナスを蘇らせたのだとしたら、やはりアンファエルン皇帝を操って闇の組織を弾圧し続けたのと矛盾を感じます」

ディーンの言葉に私も心の中で同意した。

(確かにそうなんだよね・・・)

エンリルの意図がいまいち掴めない。

トラヴィスは両腕を組んで溜息をついた

「エンリル皇妃が何を狙っていたのか、今となっては分からないさ。遥か昔の事だからな。だがここ数年、闇の組織が活性化しているのは間違いない。それにはきっと何か理由があるはずなんだ」

そこで一旦トラヴィスは言葉を切った。そして

「恐らくイーサンはライナスの血筋の者だと思う」

確信を持った声でそう言った。

「二人とも強力な闇の魔術の使い手ですものね」

ミリアが同意を唱え、皆も頷いている。

「問題はこの手記だけじゃ、イーサンが探している闇の組織の神殿がどこか分からない事だな。紫水晶の洞窟と言う言葉だけじゃ、どこにあるのかがさっぱり分からない」

トラヴィスが困ったように言った後、私はそっと手を上げた。

「あのぉ・・・その洞窟、心当たりがあります」

そう言うとクリフがハッとしたように私の方を見た。私は無言で彼にコクリとして、

「うちの・・・コールリッジ家の領にある別荘の近くにある洞窟だと思います。滝の裏にあるんです」

ミリアが驚いて

「え!?あのイルクァーレの滝の事ですか?。恋人の伝説のある・・・そう言えば水晶が沢山ありましたね?」

「奥に行くと紫水晶も結構あると聞きました。それにあの洞窟は見た目よりも深くて、一番奥までは誰も入った事が無いんです。それにうちの別荘が作られたのは父の代になってからなので、伝説の滝の辺りはあまり人が踏み入る場所じゃなかったそうです」

それが今は結構な観光地になっている。伝説を聞いた父と母が滝で出会って結婚し、別荘が建てられて、さらに滝までの遊歩道が敷かれたのだ。

トラヴィスは考えながら、

「調査する価値はありそうだな。だが・・・どうするか」

(洞窟を調べるのは簡単じゃ無いもんね。中で闇の組織の人間と鉢合わせする可能性もあるし)

「よろしければ夏休みにでも、うちの別荘へ調査にいらしてください」

「ああ、だけど夏休みまで悠長にしていられないかもな」

トラヴィスの言葉の端になんとなく不穏な気配を感じた。
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