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第8章 悪役令嬢は知られたくない
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トラヴィスはアンファエルンの手記を読み進めた。
「・・・私を凶行に走らせたのは、私にかけられた精神魔術の影響である事をここに記す。私は自分の力を過信していた。宝玉の力は私の魔力すらねじ伏せたのだ」
「宝玉!?」
「魔力増幅の宝玉の事か・・・」
私はディーンと顔を見合わせた。この時代でも精神魔術に宝玉が使われていたのだ。
「・・・私はヘンルーカが昔からライナスを思っていた事を知っていた。だが、私はヘンルーカを諦めきれなかった。ライナスが貴族では無い事を幸いに私は無理矢理ヘンルーカを手に入れた。そして彼女が私の元を去りライナスへと走った時、私の心に隙が出来たのだ。それ以来私の心は精神魔術に支配された。私を解術できるのはライナスとヘンルーカだけだった。なのに私は二人を・・・」
(心の隙?・・・そう言えば、学園で精神魔術をかけられた人達も、何かしら自分を見失ってしまっていたのかもしれない・・・)
エメラインやマーリン、私を断罪しようとした女生徒達。
(・・・ああ、眠らされた私もそうか)
確かにめちゃくちゃ落ち込んでいた時だったっけ。
「ライナスが作った組織は姿を隠している。どうやら何者かが先導し、犯罪に加担しているようだ。もはや、私の力では関係の修復はできないだろう。私はその事も二人に詫びねばならない」
文章からアンファエルンの苦悩が滲みでるようだった。酷い事をした人なのに、なんだか段々気の毒になって来る。
(精神魔術に操られてって事なんだよね?・・・だとすると魔術を使ったのは・・・)
トラヴィスの表情が曇った。ディーンも顔をしかめる。
多分、私達は同じ事を想像している。
「私に精神魔術をかけたのは・・・皇妃エンリル。これは彼女の復讐だったのだ。だが私にはもう彼女を止める力は無い。それにこの事が公になれば皇国はまた乱れるだろう。私はこの手記と共に事実を封印する事にした。もしいつか真実を求める者が現れる時まで、ローズ・ヴェリティの手記と汚れた魔術も一緒に・・・」
トラヴィスは溜息をつきながら顔を上げた。
「・・・手記はここで終わりだ。アンファエルン初代皇帝を操っていたのは、エンリル初代皇妃だったと言うわけだ・・・ふん、全く。何と言う呪われた家系だろうな」
自嘲気味にそう言った。
私は何と言って良いのか分からなかった。
唇を噛みしめたトラヴィスの横顔を見て、慌てて残りの一冊の本を手に取った。
「こ、この本は何でしょうかね?」
その本の表紙には何も書かれていなかった。
黒い装丁の薄いノートぐらいの厚さ。かなり古い本だ。
私は何気にその本を開いた。
すると、たまたま開いたその頁に書かれていた文章に目を奪われた。
(え・・・?)
―――肉体を離れし精神を呼び戻す儀式―――
ざらっとした感触の何か嫌な物に触れた気分がして、私は思わず本から手を離した。
「アリアナ?」
(気持ち悪い・・・この本は読みたくない)
この本には知りたくない事が書いてる。そんな気がした。
「アリアナ、どうした?」
心配そうなディーンの声。
「だ、大丈夫です。・・・えーっと殿下。巻物を先に見ませんか?」
誤魔化す様にそう言った。
トラヴィスはアンファエルン皇帝の手記のせいで、まだ物思いに沈んでいたようだ。私の声にハッと気づいたようになり、
「あ、ああ。そうだな」
と、気を取り直す様に巻物を解き始めた。
ディーンは怪訝そうに私を見ていたが、気付かないふりをした。私にもさっきの気持ち悪さが何だったのか、良く分からなかったのだ。
「これは・・・系図か?」
巻物は古い系図のようだった。
「見ろ」
トラヴィスは指し示した所に、先程知ったばかりの名前があった。
「ローズ・ヴェリティ!・・・え?この方伯爵夫人じゃないですか!?」
(闇の組織の一員だから、てっきり平民かと思ってた)
「子供が二人ですね。・・・ヘンルーカ・ヴェリティと・・・エンリル・ヴェリティ!?」
「二人は姉妹だったのか!?」
私達は愕然とした。そしてさらに
「どう言う事ですか、これ・・・」
ヘンルーカとエンリル。驚く事に姉妹は系図上で二人とも、アンファエルン皇帝の皇妃となっていた。
「ううむ・・・」
トラヴィスはうなりながらヘンルーカの部分を指差し、
「彼女は若くして亡くなっている。恐らくエンリルはその後でアンファエルンと結婚したんだ。・・・恐らくヘンルーカの身代わりに」
「身代わり!?」
「ああ、当時皇国は創立したばかり。民衆を従わせるのに『聖女』と言う象徴が必要だったんだろう。きっとヘンルーカもそれが分かっていたから、最初は皇妃となった。・・・あくまで想像だけどな」
トラヴィスは巻物を巻きなおして紐でくくり直した。
「そう言えば殿下。小部屋にかけられてた絵は誰の絵だったのですか?」
「ん?ああ、四人の人物が描かれていたよ。二人はアンファエルン皇帝とエンリル皇妃だ。後の二人は分からない」
「ええ!?それって、もしかしてライナスとヘンルーカじゃ無いんですか!?」
俄然興味が沸いて来た。
「本棚を元に戻す前に見てみるかい?」
「はい、ぜひ!」
今度はディーンに見張りを頼んで、私はトラヴィスと一緒に小部屋に入った。
絵の前で、トラヴィスは手の平の炎を少し大きくして絵を照らした。
「・・・!?」
私はその絵を見て息を飲んだ。
見た事がある肖像画よりもかなり若いアンファエルン皇帝とエンリル皇妃。落ち着いた目をした一人の若者。そしてもう一人、長いブロンドの髪にスカイブルーの瞳の美しい女性。
「この人は・・・」
私の意識の部屋で会った・・・間違いなくあの女性だった。
「・・・私を凶行に走らせたのは、私にかけられた精神魔術の影響である事をここに記す。私は自分の力を過信していた。宝玉の力は私の魔力すらねじ伏せたのだ」
「宝玉!?」
「魔力増幅の宝玉の事か・・・」
私はディーンと顔を見合わせた。この時代でも精神魔術に宝玉が使われていたのだ。
「・・・私はヘンルーカが昔からライナスを思っていた事を知っていた。だが、私はヘンルーカを諦めきれなかった。ライナスが貴族では無い事を幸いに私は無理矢理ヘンルーカを手に入れた。そして彼女が私の元を去りライナスへと走った時、私の心に隙が出来たのだ。それ以来私の心は精神魔術に支配された。私を解術できるのはライナスとヘンルーカだけだった。なのに私は二人を・・・」
(心の隙?・・・そう言えば、学園で精神魔術をかけられた人達も、何かしら自分を見失ってしまっていたのかもしれない・・・)
エメラインやマーリン、私を断罪しようとした女生徒達。
(・・・ああ、眠らされた私もそうか)
確かにめちゃくちゃ落ち込んでいた時だったっけ。
「ライナスが作った組織は姿を隠している。どうやら何者かが先導し、犯罪に加担しているようだ。もはや、私の力では関係の修復はできないだろう。私はその事も二人に詫びねばならない」
文章からアンファエルンの苦悩が滲みでるようだった。酷い事をした人なのに、なんだか段々気の毒になって来る。
(精神魔術に操られてって事なんだよね?・・・だとすると魔術を使ったのは・・・)
トラヴィスの表情が曇った。ディーンも顔をしかめる。
多分、私達は同じ事を想像している。
「私に精神魔術をかけたのは・・・皇妃エンリル。これは彼女の復讐だったのだ。だが私にはもう彼女を止める力は無い。それにこの事が公になれば皇国はまた乱れるだろう。私はこの手記と共に事実を封印する事にした。もしいつか真実を求める者が現れる時まで、ローズ・ヴェリティの手記と汚れた魔術も一緒に・・・」
トラヴィスは溜息をつきながら顔を上げた。
「・・・手記はここで終わりだ。アンファエルン初代皇帝を操っていたのは、エンリル初代皇妃だったと言うわけだ・・・ふん、全く。何と言う呪われた家系だろうな」
自嘲気味にそう言った。
私は何と言って良いのか分からなかった。
唇を噛みしめたトラヴィスの横顔を見て、慌てて残りの一冊の本を手に取った。
「こ、この本は何でしょうかね?」
その本の表紙には何も書かれていなかった。
黒い装丁の薄いノートぐらいの厚さ。かなり古い本だ。
私は何気にその本を開いた。
すると、たまたま開いたその頁に書かれていた文章に目を奪われた。
(え・・・?)
―――肉体を離れし精神を呼び戻す儀式―――
ざらっとした感触の何か嫌な物に触れた気分がして、私は思わず本から手を離した。
「アリアナ?」
(気持ち悪い・・・この本は読みたくない)
この本には知りたくない事が書いてる。そんな気がした。
「アリアナ、どうした?」
心配そうなディーンの声。
「だ、大丈夫です。・・・えーっと殿下。巻物を先に見ませんか?」
誤魔化す様にそう言った。
トラヴィスはアンファエルン皇帝の手記のせいで、まだ物思いに沈んでいたようだ。私の声にハッと気づいたようになり、
「あ、ああ。そうだな」
と、気を取り直す様に巻物を解き始めた。
ディーンは怪訝そうに私を見ていたが、気付かないふりをした。私にもさっきの気持ち悪さが何だったのか、良く分からなかったのだ。
「これは・・・系図か?」
巻物は古い系図のようだった。
「見ろ」
トラヴィスは指し示した所に、先程知ったばかりの名前があった。
「ローズ・ヴェリティ!・・・え?この方伯爵夫人じゃないですか!?」
(闇の組織の一員だから、てっきり平民かと思ってた)
「子供が二人ですね。・・・ヘンルーカ・ヴェリティと・・・エンリル・ヴェリティ!?」
「二人は姉妹だったのか!?」
私達は愕然とした。そしてさらに
「どう言う事ですか、これ・・・」
ヘンルーカとエンリル。驚く事に姉妹は系図上で二人とも、アンファエルン皇帝の皇妃となっていた。
「ううむ・・・」
トラヴィスはうなりながらヘンルーカの部分を指差し、
「彼女は若くして亡くなっている。恐らくエンリルはその後でアンファエルンと結婚したんだ。・・・恐らくヘンルーカの身代わりに」
「身代わり!?」
「ああ、当時皇国は創立したばかり。民衆を従わせるのに『聖女』と言う象徴が必要だったんだろう。きっとヘンルーカもそれが分かっていたから、最初は皇妃となった。・・・あくまで想像だけどな」
トラヴィスは巻物を巻きなおして紐でくくり直した。
「そう言えば殿下。小部屋にかけられてた絵は誰の絵だったのですか?」
「ん?ああ、四人の人物が描かれていたよ。二人はアンファエルン皇帝とエンリル皇妃だ。後の二人は分からない」
「ええ!?それって、もしかしてライナスとヘンルーカじゃ無いんですか!?」
俄然興味が沸いて来た。
「本棚を元に戻す前に見てみるかい?」
「はい、ぜひ!」
今度はディーンに見張りを頼んで、私はトラヴィスと一緒に小部屋に入った。
絵の前で、トラヴィスは手の平の炎を少し大きくして絵を照らした。
「・・・!?」
私はその絵を見て息を飲んだ。
見た事がある肖像画よりもかなり若いアンファエルン皇帝とエンリル皇妃。落ち着いた目をした一人の若者。そしてもう一人、長いブロンドの髪にスカイブルーの瞳の美しい女性。
「この人は・・・」
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