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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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女性は前に見た時よりも存在が濃く、真っすぐ伸びたブロンドの髪が揺れている。

(誰なの?・・・あなたは誰なんです?)

彼女は私の問いには答えず、右手を上げ真っすぐ私の方を指さした。

(へ?)

私は戸惑いながらもハッと思い、慌てて後ろを振り返る。すると、黒いフードの人物の顔から面が落ちるところだった。

(あっ!)

その顔はフードに隠れて、やはり見えなかった。だけど何故か見覚えがあると私は確信していた。

(誰?・・・ううう、思い出せない)

黒い人物の表情は分からない。だけど、こいつがずっと笑っているのが分かる。この笑い方・・・。

黄金の光の輝きが私から消える。トラヴィスの魔力の供給が終わったようだ。私は黒い人物から後ずさって離れ、ソファに戻った。女性の姿は既に無かった。

(ふう・・・)

自分の意識世界だというのに、

(どう解釈すれば良いのやら)

私は額を両手で押さえて頭を振った。目の端に茶色がかった黒髪が揺れる。そうだ、前の世界の私の髪の色はこの色だった。すっかり忘れていたのに・・・。


頭を上げるとトラヴィスがアリアナを見ていた。

「どうだ?」

トラヴィスの問いに、

「・・・ありがとうございます。楽になりましたわ」

アリアナが立ち上がって礼を言った。

(良かった。でも、ごめん。ちょっと力を使っちゃった)

私は独り言のようにそう呟いた。

(でも、おかげで色々分かった事があるよ)

黒い人物を見る限り、男か女かは分からないけどそこそこ背は高い。きっと大人だ。それに左手には白い玉・・・トラヴィスの言う魔力増幅の宝珠だな・・・を持ち、右手に二つの指輪。そのデザインも確認出来るようになった。実物を見ればきっと分かるだろう。

(残念な事に詳細を伝えられないのがねぇ・・・)

やはり、魔術の解術を待つしか無いのかもしれない。

黒い人物の正体を探るのに、トラヴィスに貰った魔力を半分くらい使ってしまった。アリアナはまた直ぐに魔力供給が必要になるだろう。私はアリアナに申し訳ない気分になる。

(うう、ほんと、ごめん・・・)

辛い思いをするのはアリアナなのだ。

(次の魔力供給で、アリアナはディーンの魔力を貰うだろうか・・・それともまた拒むかなぁ・・・)

今日もアリアナの視界にディーンはあまり映らない。きっと彼の方を見ないようにしているのだ。

同じ身体に居ると言うのに、アリアナの気持ちが分からない。

何となく情けない気持ちでスクリーンを見つめた。



トラヴィスはアリアナを座らせると、

「彼女とのコンタクトは、少し控えた方が良さそうだ。アリアナ嬢を疲れさせてしまうようだからね」

労わる様にそう言った。

(そうだよ、ねーさん。こっちだって相当疲れるんだから!)

私は右手を振り上げた。弱気な気持ちを追い払いたくて、八つ当たりの様に言ってみる。

「こちらの声を聞いてもらう分には大丈夫のようだから、伝えておこう。今日ジョーが、例の光の魔力の持ち主を連れて来るそうだ」

(え!?)

それは思ってたよりも展開が早い。

「リリーはノエルや女生徒達の解術で疲れているから、夕方に集まる事にした。それまで待っててくれ給え」

(う、うん。分かった)

いよいよもう一人の光の魔力の保有者が分かるわけだ。ちょっとドキドキしてくる。

「だが、私はあまり楽観視はしていない。この精神魔術が強力なのが分かっているからな。もう一人が相当の魔力の持ち主で無ければ解術は難しいだろうから」

(あ、そうだよね。もし、マーリン程度の魔力だったら無理って事だもんね)

だけど、私は不思議な予感を感じていた。前にも思ったけど、やっぱりその人物はこの世界のキーパーソンになるだろうって。

そして同時に不安な気持ちが胸に広がる。

(きっと、この闇魔術は解術されてしまう・・・でも、アリアナ!・・・本当に良いの?)

自分の解術よりも、アリアナの事が気になっていた。だけどアリアナはトラヴィスの言葉に頷いて、

「返事はありませんが、殿下の声は伝わっていると思います。・・・今日の夕方、わたくしもあの子と共に皆様をお待ちしていますわ」

そう言った口調はとても落ち着いたものだった。
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