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第3章 悪役令嬢は関わりたくない

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実は昨日の夕食後、私はディーンを呼び出して、グスタフに関する事情を全て話した。
そして、断られるのを覚悟の上、「仲睦まじい婚約者」を演じてくれるよう頼んだのだ。

別荘の白檀の部屋の中、私は声を潜めた。

「すみません、ディーン様が気が進まない事は、重々承知しております。でも、どうしてもリガーレ公爵には、わたくしの事を諦めてほしいのです!。明日の朝だけで良いので、お願いできないでしょうか?」

そう言って、90度以上頭を下げた。

ディーンは最初、私の申し出に驚いていたようだが、しばらくして溜息をついてこう言った。

「私と・・・婚約したのは、リガーレ公爵の事があったから?」

「え?」

「だから婚約を打診してきたのかい?。」

「い、いえいえ・・・そういう事では無いです・・・よ。」

(だって、アリアナは本気でディーン・ラブだったもんね。)


ディーンは少しの間考えていたが、もう一度深く溜息をつくと、

「分かった。」

「え?」

「協力するよ。」

表情を変えずに、そう言った。

「あ、ありがとうございます!」


そして今、私達は並んで、お互い微笑み合っているわけなのだ。




「これはディーン君、アリアナ嬢。見送りに出てきてくれてありがとう。・・・はて、お二人は不仲だと言う噂を聞いて、心配していたのですが、どうやら杞憂だったかな?」

グスタフの声にも表情にも、特に特別な色は浮かんではいない。けれど、私の背中には冷や汗が流れ落ちる。


「たちの悪い噂を流す方がいるのですね。」

ディーンはあくまで冷静だ。

「根も葉もない、ただの噂です。」

「ほう・・・。」

グスタフの目が値踏みする様に細められた。

(怖い、怖い、怖い・・・。)

だが、グスタフは直ぐに完璧な紳士のスマイルを顔に浮かべると、

「いやぁ、ディーン君。アリアナ嬢の様な可愛らしい婚約者を持って、実に羨ましい。私もあやかりたいものです。」

そう言って、私の方にチラリと目をやった。

(心底うらやましそうに言うんじゃない!)

私は絶えず笑顔を張り付けていたが、思わずぎゅっとディーンと繋いでいる手に力がこもった。ディーンは驚いたのか、一瞬小さくビクッとしたが、直ぐに安心させるように手を握り返してくれた。そして、


「アリアナは可愛らしいだけではなく、優しくて聡明な女性です。私は・・・、彼女をずっと守っていきたいと、そう思っています。」

そう言って、私の方を向いて極上の笑みを浮かべた。
瞬間、心臓がドクンと跳ね上がる。

(うっ・・・、やば・・・笑顔が眩し・・・。)

私は顔が熱くなるのを感じ、(流石、神セブンの一人!)と、この場にそぐわない、のんきな事を考えた。


グスタフは、見逃しそうな程ほんの瞬間、悔しそうな表情を浮かべ、「そうですか・・・。」とだけ言って馬車に乗り込んだ。

私は内心ガッツポーズをしながら、「お気をつけて。」そう言って頭を下げた。


そうしてグスタフの馬車が、先に出立して行った。


父は、母を馬車に乗せると、私にこっそり耳打ちした。

「アリアナ、しくんだね。」

「何のことでしょう?。」

父はくっくと笑って、

「私の娘は可愛いらしい上に、とぼけるのも上手い。」

とウィンクして馬車に乗り込み、ドアを閉める前に真面目な声で言った。

「ディーン君、娘をよろしく頼む。」

「はい。」

そして、父と母を乗せた馬車も、領都へ向かって出立して行った。


私は一気に緊張が抜け、大きく息を吐いた。

(よ、・・・よし、これでグスタフも、ちょっとは考え直すはず・・・)

そう思って、ディーンの手をまだ握っていた事に気付いた。

「すみません!」

私は慌てて手を離した。そして、

「あの・・・、ありがとうございました。ほんとに、助かりました。」

そう言って、ディーンに頭を下げた。返事が無いので、頭を上げてみると、何故かディーンは先ほどまで握っていた手を、ぼんやり見つめている。

「あの・・・ディーン様?」

そう聞くと、彼はゆっくりと手を降ろし、

「いや、別に・・・私が君の婚約者であるのは、事実だから・・・。」

「え?でも・・・。」

「礼を言われるような事じゃないよ。」

そう言って、彼は私の方を見ずに、玄関の方へ歩いて行ってしまった。


(なんか、怒ってる・・・?)


「やっぱり、変なお芝居させちゃったからかな・・・?。」

ディーンがリリーを好きなのだとしたら、嫌な役だったに違いない。
借り作っちゃったなぁ、と思いながら、私も別荘の中へ戻った。
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