上 下
61 / 284
第3章 悪役令嬢は関わりたくない

11

しおりを挟む
そして、私達はクラークの案内で、滝の裏側へと入っていった。


「わぁ!」

「凄いわ・・・。」


幻想的と言うのがぴったりだろう。そこはまるで、水で出来たカーテンに仕切られた様な空間だった。流れる水の裏側か見る景色は、歪んだガラスを通してみる世界の様で現実味が無い。滝つぼは透き通った紫色で、美しい紫水晶の様にきらきらと輝いていた。

皆、その光景に心を奪われ、しばらくの間、静かに眺めていた。でも途中から私は、

(これ、観光名所にしたらお金取れるよ。)

なんて、公爵令嬢らしからぬ下世話な事を考えて、頭の中で算盤を弾いていた。


「こっちには、イルクァーレが水晶になったと言う、洞窟があるんだよ。」

「えっ!?見てみたいです。」

クラークの言葉に、レティシアが真っ先に食いついた。


「イルクァーレとシーリーンの水晶は洞窟の奥らしいから、僕もまだ見つけたことが無いんだ。でも、入口の近くにも奇麗な水晶があるよ。」

「まぁ!。」


そして、皆クラークの後について、洞窟の入り口へと歩いて行った。

その途中、「あっ」と言って、グローシアが滑りそうになるのをクラークが素早く支え、「気を付けて。」と笑いかける。

「あり、あり、ありがとう・・・ございま・・・。」

グローシアが真っ赤になって、うつむく。そしていそいそと、クラークの後ろを付いて行った。


(あ~あ・・・こりゃ、クラーク×リリー計画もぽしゃるかなぁ・・・。)


私は腰に手を当てて、上を見上げた。私の前では騎士道まっしぐらなグローシアが、兄の前ではあんなに可愛いいのだ。これはもう、応援せざるを得ないではないか。

そして、なにげに後ろを見ると、クリフがまだぼんやりと滝の流れを見つめていた。

(クリフは洞窟に行かないのかな?)

私は彼に声をかけようと思った。すると突然、クリフは滝の流れの中に、頭を突っ込んだのだ。


「ク、クリフ様!?」


私は驚いて、彼に駆け寄った!。彼は後頭部を冷やすようにして、滝の中に頭を入れている。

(いや、修行僧かよ!?)

「クリフ様!何してるんですか!?」

私が彼の腕をひっぱると、クリフはようやく滝から頭をひっこめた。彼の髪から肩へと、しずくが滴り落ちる。私はポケットからハンカチを取り出し、クリフの額を拭いた。

(ああもう!こんなピラッピラのハンカチじゃ、役に立たないって!)

やっぱり、ハンカチはタオル地が一番なのにと思っていると、クリフが私の手からハンカチをそっと取って、自分で頬などを拭き始めた。私は大きく溜息をついた、


「もう・・・。びっくりしました。何してたんですか!?」

そう聞くと、クリフはちょっと笑いながら、

「気持ちいいかと思って。でも、思ったより冷たかったな。」

「そりゃ、そうです!雪解け水ですよ。」

(いきなり突拍子もない事をする人だなぁ・・・。)


クリフはあの事件が起きる前より、なんだか子供に戻った気がした。それまでは、自分の心に蓋をして、表に出ない様にして生きてきた人だから・・・。


(手探りで、本当の自分をやり直してるような感じ?。それにしても、自由人すぎるっての!)

クリフは濡れたハンカチをどうしようかと考えているようだ。私はその様子がおかしくて、クスっと笑ってしまった。そして、彼からハンカチを受け取って軽く絞った。

(岩の上に置いて、乾かしとくか・・・。こんなハンカチじゃ、)

役に立たなかっただろうな・・・と、クリフの方を見て、私は息を飲んだ。


彼の濡れた髪が、滝から透けて入る光に淡く照らされて、青く妖艶に光っていた。髪を手で無動作に描き上げ、水滴がぽたぽたと肩に落ちて服を濡らしていく・・・。

(・・・何なの!?この色気!!。まだ13歳だよ?この人ってば・・・)

水滴は長いまつ毛までも濡らし、紫色の瞳は滝つぼと同じ色で、まるで・・・、


(まるで、滝の精霊のイルクァーレみたい・・・。)


恥ずかしながら、私はあほうの様に、見惚れてしまっていた。



「アリアナ嬢?」

(うわっとぉ!)


どれくらいの時間が経ったのか、私はクリフの呼ぶ声に我に返った。クリフの顔は、横を向いていて、何かを見ているようだ。

「な、な、な、何でしょう!?」

(は、恥ずかしい・・・。なんちゅう恥ずかしい妄想を!)

「アリアナ嬢、こっちに来てくれ。」

クリフがそう言って私を手招きした。

彼は、来た方とは反対側の岸辺の方に向かって、歩いて行く。

(・・・?)

私は火照る顔を濡れた手で冷やしながら、小走りで彼について行った。

岸辺には、一段登った所に、岩盤で出来た小さな舞台のような場所があった。
そこには木々の葉を透かして零れ落ちた陽光が、まるで柔らかなスポットライトの様に光っていた。光は風に揺れる木々と一緒に、ユラユラと強度を変えながら、動いている。


(ふわ~!これはまた幻想的だわ!)

もしかして、妖精シーリーンが踊っていた場所は、こんな所だったかもしれない。


クリフはその上に軽々と登ると、私に手を差し出した。

「ありがとうございます。」

手を掴むとクリフは一気に引き上げてくれた。


「わぁ!」


光の下に立って見上げると、緑の葉の間に、小さな白い花がちりばめたように咲いていて、木漏れ日と一緒に輝きながら揺れている。まるで妖精の世界に迷い込んだ様だった。


「きれいですね!」

私はクリフに笑いかけた。

「ああ、綺麗だ。」

そう言って、彼は私の右手を握ったまま、もう片方の手で私の髪を一房救い上げ、指に滑らした。そして、私の目をまっすぐ見つめ、


「まるで森の妖精みたいだ。」


少し頬を赤く染め、心を蕩かすような優しい笑みを浮かべ、そう言ったのだ。



(〇△×□×~~~~~!!!!)





遠くの方で、ピーヒョロロ~という、鳶の鳴き声が山に響いていた。






その後、どうやってその舞台から降りたのか、いつ皆と合流したのかよく覚えていない・・・。気が付いたら私は、滝の傍の四阿で、皆と一緒にお弁当を囲んでいた・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

まる
ファンタジー
 樋口康平はそこそこどこにでもいるごく平凡な人間を自負する高校生。  春休みのある日のこと、いつものように母親の経営する喫茶店・ピープルの店番をしていると勇者を名乗る少女が現れた。  手足と胴に鎧を纏い、腰に剣を差した銀髪の美少女セミリア・クルイードは魔王に敗れ、再び魔王に挑むべく仲間を捜しに異世界からやって来たと告げる。  やけに気合の入ったコスプレイヤーが訪れたものだと驚く康平だが、涙ながらに力を貸してくれと懇願するセミリアを突き放すことが出来ずに渋々仲間捜しに協力することに。  結果現れた、ノリと音楽命の現役女子大生西原春乃、自称ニートで自称オタクで自称魔女っ娘なんとかというアニメのファンクラブを作ったと言っても過言ではない人物らしい引き籠もりの高瀬寛太の二人に何故か自分と幼馴染みの草食系女子月野みのりを加えた到底魔王など倒せそうにない四人は勇者一行として異世界に旅立つことになるのだった。  そんな特別な力を持っているわけでもないながらも勇者一行として異世界で魔王を倒し、時には異国の王を救い、いつしか多くの英傑から必要とされ、幾度となく戦争を終わらせるべく人知れず奔走し、気付けば何人もの伴侶に囲まれ、のちに救世主と呼ばれることになる一人の少年の物語。  敢えて王道? を突き進んでみるべし。  スキルもチートも冒険者も追放も奴隷も獣人もアイテムボックスもフェンリルも必要ない!  ……といいなぁ、なんて気持ちで始めた挑戦です。笑 第一幕【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】 第二幕【~五大王国合同サミット~】 第三幕【~ただ一人の反逆者~】 第四幕【~連合軍vs連合軍~】 第五幕【~破滅の三大魔獣神~】

処理中です...