モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

閑話２ ディーンの戸惑い

3

リリー嬢はアリアナを背に庇ったまま私を睨みつけている。

（どういう事なんだ？これじゃまるで・・・）

「アリアナ様は、私が他の方達に囲まれている所を助けてくださったのです。もうちょっとで手を上げられるところを止めてくださいました。きっとご自身も怖かったでしょうに・・・。」


リリー嬢はそう言って気遣わしげにアリアナを振り返った。


（まるで私に虐められているアリアナを、リリーが庇っているようじゃないか・・・？）


「それに、ディーン様はアリアナ様の婚約者でいらっしゃいますのに、アリアナ様を疑うなんて信じられません、酷過ぎます。」


その言葉を聞いて、私は頬を叩かれた様な衝撃を受けた。だが、思考は混乱し頭が状況についていけていない。


「アリアナ様に、謝ってください。ディーン様。」

（謝る・・・？。私が・・・？。あのアリアナに・・・？。）


何も建設的な事が思い浮かばない。これじゃただのボンクラじゃないか。私はこんなにも無能な人間だっただろうか？。そんな事をぐるぐる考えていると、


「よ、良いのです。誤解が解けたのなら大丈夫です。もう参りましょう！」


アリアナがそう言って、リリー嬢の手を引っ張り、二人とも走って行ってしまった。

（あ・・・。）

美しいピンク色の髪と、ふわふわのハニーブロンドが揺れながら、あっという間に私の視界から消えてしまった。




私は何が起きたのか、理解出来なかった。午後の授業は全く身が入らず、休み時間も気まずくてリリー嬢に話しかける事が出来なかった。

唯一分かったのは、私がとんでも無く思いあがっていたという事だ。


「何がリリー嬢を守るだ・・・。何がコールリッジに逆らう覚悟だ・・・。」

私は夜、寮の机で、肘をついて組んだ手の上に額を乗せた。こんなにも自分を情けなく、恥ずかしく思ったのは初めてだった。


「それに、いったい・・・どうして・・・。」


アリアナがリリー嬢と共に走り去っていく前、私の方に向けた表情が目に焼き付いて離れない。

いつも高慢で、かつ私に対する執着を隠そうともしない顔を見るのが嫌で、会っても視線を逸らすようにしてきた。


久しぶりにちゃんと見たアリアナは、最初に見た時と同様、妖精の様に可憐だった。




次の日、学園の教室に入るなり、私はリリー嬢に廊下の隅に連れて行かれ、糾弾された。

「ディーン様。ディーン様がいつも私を庇ってくれたり、親切にして頂いてる事にはとても感謝しています。でも、昨日のディーン様のアリアナ様へのなさり方は、あまりにも思いやりにかけていたと思います。アリアナ様はきっと傷ついています。」

「あ、ああ・・・すまない。」

「謝るのなら、アリアナ様になさって下さい。私は、アリアナ様はディーン様に相応しい素晴らしい方だと思いました。こんな事でお二人が喧嘩するのは悲しいです。」


リリー嬢にそう言われるのは、なんだか凄く複雑な気分だった。


「リリー嬢の話はなんだったんだ？。」

教室に戻ると、パーシヴァルがニヤニヤしながら好奇心丸出しにそうに聞いてきたのがうっとうしかった。私は何も答えず、溜息をしながら彼から離れた。

リリー嬢には謝る様に言われたが、私はまだ納得できていなかった。
冷静にになって考えてみると、あのアリアナが人を庇うなんて考えられない。もしかしたら、リリー嬢に対して何か良からぬ事を企んでいるのではないだろうか？

そんな風に思ったが、アリアナを良い人だと思い込んでいるリリー嬢にそんな事は言えない。
だからと言って、直接アリアナに確かめる事も出来なかった。

（本当にボンクラじゃないか・・・。）

アリアナはあの日会ったっきり、一切私の所へ来ることは無かった・・・。