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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない

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狐目と髭面が呆気に取られたように口を開いたまま黙った。

(さぁ、どうくる?)

金目当てで人を売るような奴らだ、大金には目が無い筈。

「お前、何言ってんだ?」

髭面は理解出来てなさそうだ。狐目はそんな彼を無視して、

「お嬢ちゃん、自分が何を言ってるか分かってるのかい?。お前の親から身代金を取れって事か?。そんな危ない橋は渡りたくないね。」

「違います。これはビジネスです。私が私を500万ルークで買うと言ってるのです。」

「・・・お前、身なりからして貴族の子らしいが、どこの家だ?。」

(どうしよう、吉とでるか凶とでるか・・・。)

「コールリッジ公爵家ですわ。」

思い切って正直に言った。背中を冷や汗が流れ落ちる。ならず者の中には貴族を毛嫌いしているものも多い。相手の神経を逆なでしないとも限らない。

ダンッ!

狐目が急にテーブルを拳で叩いたので、髭面は飛び上がった。そして私は悲鳴をあげそうになった所を、すんでの所でこらえた。

「あ、兄貴どうしたんで?。」

「イーサンの野郎!とんだ厄介事を持ち込みやがったっ!」

吐き捨てるようにそう言うと、狐目は私を凶暴な目で睨んだ。

(怖い、怖い、怖い・・・)

でも顔には出さない。

狐目は椅子をまっすぐ座り直し、

「ちっ!で、どうするつもりだ?お前を逃がしてやったところで、俺達にどうやって金を渡す?。」

(の、のってきた!?)

「宝石をいくつか持っています。無事に帰して頂ければ、指定の場所に届けます。」

「そんな話を信用しろというのか?。」

「して頂くしかないですわ。」

お互いにらみ合ったまま、場に緊張が走る。

(目を逸らしたら負ける。)

「兄貴、やっぱりバラしちまった方が・・・。」

「てめぇは黙ってろっ!」

狐目が声を荒げた。

「コールリッジに手を出してみろ!、バレたらこの界隈ごと消されるぞ!」

「コール・・・、なんですかい?兄貴。」

髭面は皇国一の貴族の名を知らないらしい、ただただ困惑していた。

恐らく狐目は考えている。私を殺すにしろ、売るにしろ、バレたら只では済まないであろうことを。父は、公爵家の名に懸けて娘に残酷な事をした犯人を探し出すだろう。魔法省や警察省、公安、あらゆる組織を動かすだけの力が父にはある。

私はとどめにもう一つはったりをかけた。

「貴方達に魔術で印をつけました。」

狐目がびくりっと身体を震わす。

「目には見えない印です。私に何かあれば、父は貴方達をどこからでも探し出すでしょう。どうです?。できれば、平和に解決しませんか?。」

ほとんどの貴族は魔力を持っているというのがこの世界の常識だ。狐目の顔に初めて怯えたような表情が一瞬浮かんだ。そして、

「・・・おい、この娘を隣部屋に放り込んどけ。・・・食料と毛布も渡してやんな。」

「あ、兄貴!?」

「いいから言われたとおりにしろっ!」

髭面は渋々、私をさっきの部屋に連れて行くと、放り投げるようにパンと毛布をよこした。

また扉の鍵がかけられ、私は一人になった。どうやら彼らは出かけたようだ。恐らく、コールリッジ家の令嬢が行方不明であるかどうかを確かめに行ったのであろう。

「時間は稼いだ。お願い、誰か私を見つけて頂戴よ。」

私は汚らしい毛布を床に落とし、その上に座って固いパンをかじった。




どれくらい、時間がたっただろうか?。少し夜が白々と明け始めた頃だった。

再び隣の部屋の扉が開く音と、複数の足音が聞こえた。そしてそれは真っすぐ私が居る部屋へと近づき、鍵が外されドアが乱暴に開けられた。

「あっ。」

そこには、デイビットと話していた例の少年が立っていた。

「やぁ、まだ殺されていなかったんだ。」

彼はそう言ってニコリと笑う。

(まさか、こいつを呼びに行ったなんて。)

なんとなくこの少年は、狐目と髭面よりも油断がならないと感じていた。

「おい、イーサン!どういうつもりだ。とんでも無い厄介事を持ってきやがって!。」

彼の後ろに居た狐目が少年の胸ぐらを掴みかかった。

「こいつ、俺らに印を付けたって言うんだ。くそっ!公爵家に目を付けられたら、お前だって破滅だぜ!。とりあえず、お前がこいつを家に戻して、宝石とやらを貰ってこい!。」

イーサンと呼ばれた少年は、冷静だった。ゆっくりと狐目男の腕を外し、私を横目で見る。

「そんなの嘘ですよ。あんた達には何の印も付いてない。」

「何っ!?」

(えっ!?)

な、なんでバレた?

「ふ~ん、随分頭が回る事だね。甘やかされた頭の悪い令嬢だって聞いたんだけどなぁ・・・。まぁ、いいや。面倒だったから、あんた達に頼んだんだけど。ちょっと面白そうだから俺が連れて行くよ。」

そう言って、右腕を上げて手の平を私の方に向けようとた。

(こ、こいつまた魔法を使う?!。ヤバい!。)

私は無駄だと分かりつつ、咄嗟に頭を抱えてしゃがみこんだ。

ガガガーンッ!

物凄い音と振動、目を閉じていても眩しいほどの強烈な光を感じた。
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