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第1章 悪役令嬢は目立ちたくない

第3話 やっちゃった・・・

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1か月前、まだ私がアリアナになる前の事だ。

 婚約者のディーンが、早めに学園寮に入寮したと聞いたアリアナは、いてもたってもいられなくなったらしい。

 すわ、自分も早く入寮しなくては!と兄のクラークを急かして天候の悪い中、アンファエルン学園へと馬車を走らせたらしい。

 そこで運の悪い事に、走っていた馬車のすぐ近くの木に雷が落ちて木が倒れ、馬車は横転したのだ。

 幸い大きな事故の割に、クラークもアリアナもケガはなく、御者も無事だった。だが、事故のショックで気を失ったアリアナは二日後に目を覚ましたものの、それまでの記憶を失っていた・・・というのは建前の話。


 私はアリアナとは全くの別人である。


 (あの時は、お父様、お母様、お兄様も大変ショックを受けてたわね・・・)

 それはそうであろう。公爵家の令嬢であるアリアナは、父母と兄にはごってごてに溺愛されている。その娘が記憶喪失になったのだ、皆気も狂わんばかりに心配した。おかげで1か月、学園に入学するのが遅れたのだ。

 (ベッドの中で、気を失って・・・、また目が覚めた時も夢かと思ったわ。)

 自分が13歳の公爵令嬢だとはかは、全くピンとこなかった。ただ、アリアナ・コールリッジと言う名前には何故か聞き覚えがあった。それから家族の名前を教えてもらい、更に婚約者の名前と、入るはずだった学園の名前を聞いて、私は衝撃を受けた。

 (これ「アンファエルンの光の聖女」じゃん!)

 ここが乙女ゲームの世界である事を思い出したのだ。そしてさらにショックだったのが、

 (私、悪役令嬢になってる~~~~!)

 アリアナ・コールリッジは、このゲームの中の悪役令嬢、しかも主な舞台であるアンファエルン学園の1年生の時にしかほぼ出てこない、モブ系悪役令嬢なのだ。

 ゲームの中では、主人公(ヒロイン)は学園に入学し、5年間通う間に様々な試練に遭遇する。その試練の一つが悪役令嬢:アリアナ・コールリッジによる嫌がらせである。

 とはいえ、学園の1年目というと、ほぼチュートリアルな位置付けで、アリアナのイジメも全体的に見たらジャブ程度のものだ。

 だが、それでもヒロインに仇なした悪役令嬢の末路は結構悲惨だ。

 1年の時に出てくる攻略相手は、

 アリアナの婚約者ディーン・ギャロウェイ公爵子息、

 アリアナの兄のクラーク・コールリッジ公爵子息、

 そして国の第二皇子のパーシヴァル・レイヴンズクロフトだ。

 リリーがこの3人の誰と仲良くなっても、アリアナは1年の終わりに彼女への嫌がらせを断罪され、ディーンに婚約を破棄された上、恐ろしい事に学園卒業後、20歳年上のおじさん公爵と結婚させられるのだ!

 アリアナの末路、雑!

 (しょせん、モブだからね。処刑とか国外追放とかにはならないんだけど・・・、それにしても結婚相手がヤバすぎる!)

 アリアナの最終的な画面で、その結婚相手の絵が現れる。最初のセリフは「アリアナさん、あなたは私と結婚する事になりました。」だ。まぁまぁのイケオヤジなのだが、次のセリフが「可愛がってあげますよ、うっひっひっ」なのだ!

 ヤバいやつだ!完全にロリコンだ!ゲームをしている時も、こいつが現れたら、気持ち悪くて身震いした。

 家族の溺愛設定はどうしたっ?!!。やはり、そこは貴族なので政略結婚しかなかったのか?。それともまさか、それがアリアナの幸福につながると思ったのか・・・?。

 (あいつとの結婚だけは避けなくてはいけない!)

 この1か月そればかり考えて準備してきた。

 私には、アリアナ・コールリッジの記憶が全くない。だから、今までアリアナがどうやって生きてきたのかは、ゲームのざっくりした内容しか分からず困ってしまった。

 最初に目覚めた時、ベッド脇にいた年配貴族は医者だったらしい。

 ―――アリアナ様は事故のショックが大きすぎて、今までの記憶が混乱されているのでしょう。

 そう言ってくれた。

 だから家族の事は思い出したが、細かいことはまだ混乱して忘れているという「てい」を装った。

 貴族令嬢としての作法も分からないので、お願いして1か月間、家庭教師を付けてもらった。

 おかげでなんとかそれらしく振舞えるようになり、遅ればせながら学園に入学する事になったのだ。

 本当は学園に行かなければ、ロリコンとの結婚も避けられるのでは?と思っただのだが、この国の貴族の子供は特殊な理由が無い限り、必ず入学しなくてはいけないようだ。両親も心配しながらも、学園に行く事を勧めてきた。

 こうなるとロリコン回避を目標とする私の学園での生活指針は、

 1、目立たない!

 2、ヒロインに近づかない!

 3、ディーンと円満婚約解消!

 この3つだ!

 それだったのに・・・。



 (やっちゃった・・・)

 ヒロインの腕を引いて走りながら、私は深い溜息をついた。
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