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第8話 ロランの訪問
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「失礼致します」
「マリア、掛けなさい」
「はい」
辞儀をしてからソファに腰掛けると、お父様は私に対して目を細めた。
「マリア、ナイズリー卿から話を伺ったが、……我々は了承することにした」
了承? 何の話かしら……。もしかして、「婚約はき」について何か関係があるのかしら……?
「マリア嬢」
「……はい」
「今日は来月にナイズリー侯爵家で開催する予定のパーティーに、あなた方を招待するために訪問したのだ」
「パーティーですか?」
パーティー……。
そうだわ。ナイズリー侯爵家では初夏に周囲の貴族を招待して昼間にパーティーを行っていたわね。
確か、去年は侯爵家で身内の不幸があり開催されなかったので、二年ぶりの開催になるはずだわ。
「でしたら、一昨年のように私もお手伝いに参ります」
「いや……、今年は結構だ」
「左様ですか……」
何かしら。普段とは何かが違うような気がするわ……。
それにパーティーの招待状をわざわざロラン様自ら届けに来るなんて、今までなかったことだ。
「実は、今日はあることを確認するためにも訪問をしたのだ」
「確認したいこと……ですか?」
「ああ」
何のことかしら。ロラン様がわざわざ我が屋敷に赴いて確認をしたいこと……。
やはり、「婚約はき」と関係があることなのかしら。
それからはロラン様の普段のお仕事についてを話題に、しばらくお父様とロラン様は会話をしていた。
我がアンリ男爵家は、領地なしの宮廷貴族で、当代のお父様は王宮で文官として働いている。そのツテで私とロラン様の婚約話が持ち上がり、婚約する運びとなったのだ。
会話の内容は予想外に興味をそそられるものだったけれど、お父様から私はもう私室へ戻って良いと告げられたので、なるべく音を立てずに立ち上がる。
「それでは、失礼致します。ロラン様、ごゆっくりお過ごしください」
「ああ」
ロラン様は少しだけ口元を緩めて辞儀をする私に会釈してくれた。
ともかく何事もなく終わったようで良かったと思い退室し廊下を歩いていると、進行方向から軽快な足取りで向かって来るメアリーと鉢合わせた。
「あら、お姉様。ひょっとしてお姉様もお父様に呼び出されたの?」
「ええ、そうだけれど」
そう言って綺麗な表情で笑うメアリーに、何故か圧倒されているように感じた。そして今日も香水の匂いがキツイわ……。
「そう。それでは私もご挨拶に向かうわね」
「ええ。くれぐれも失礼のないようにね」
「もちろん弁えているわ。……そうだ、お姉様。一つ良いことを教えて差し上げるわ」
「あら、何かしら」
メアリーはより笑みを強めた。それは同時に、どこか暗い感情のようなものも感じさせる。
「お姉様がこれから婚約を破棄されても大丈夫なように、既に取り計らっているから安心してね」
「どういうこと?」
「じきに分かるわ」
そして笑みの残滓を残して振り返ると、メアリーは再び歩き出した。
「マリア、掛けなさい」
「はい」
辞儀をしてからソファに腰掛けると、お父様は私に対して目を細めた。
「マリア、ナイズリー卿から話を伺ったが、……我々は了承することにした」
了承? 何の話かしら……。もしかして、「婚約はき」について何か関係があるのかしら……?
「マリア嬢」
「……はい」
「今日は来月にナイズリー侯爵家で開催する予定のパーティーに、あなた方を招待するために訪問したのだ」
「パーティーですか?」
パーティー……。
そうだわ。ナイズリー侯爵家では初夏に周囲の貴族を招待して昼間にパーティーを行っていたわね。
確か、去年は侯爵家で身内の不幸があり開催されなかったので、二年ぶりの開催になるはずだわ。
「でしたら、一昨年のように私もお手伝いに参ります」
「いや……、今年は結構だ」
「左様ですか……」
何かしら。普段とは何かが違うような気がするわ……。
それにパーティーの招待状をわざわざロラン様自ら届けに来るなんて、今までなかったことだ。
「実は、今日はあることを確認するためにも訪問をしたのだ」
「確認したいこと……ですか?」
「ああ」
何のことかしら。ロラン様がわざわざ我が屋敷に赴いて確認をしたいこと……。
やはり、「婚約はき」と関係があることなのかしら。
それからはロラン様の普段のお仕事についてを話題に、しばらくお父様とロラン様は会話をしていた。
我がアンリ男爵家は、領地なしの宮廷貴族で、当代のお父様は王宮で文官として働いている。そのツテで私とロラン様の婚約話が持ち上がり、婚約する運びとなったのだ。
会話の内容は予想外に興味をそそられるものだったけれど、お父様から私はもう私室へ戻って良いと告げられたので、なるべく音を立てずに立ち上がる。
「それでは、失礼致します。ロラン様、ごゆっくりお過ごしください」
「ああ」
ロラン様は少しだけ口元を緩めて辞儀をする私に会釈してくれた。
ともかく何事もなく終わったようで良かったと思い退室し廊下を歩いていると、進行方向から軽快な足取りで向かって来るメアリーと鉢合わせた。
「あら、お姉様。ひょっとしてお姉様もお父様に呼び出されたの?」
「ええ、そうだけれど」
そう言って綺麗な表情で笑うメアリーに、何故か圧倒されているように感じた。そして今日も香水の匂いがキツイわ……。
「そう。それでは私もご挨拶に向かうわね」
「ええ。くれぐれも失礼のないようにね」
「もちろん弁えているわ。……そうだ、お姉様。一つ良いことを教えて差し上げるわ」
「あら、何かしら」
メアリーはより笑みを強めた。それは同時に、どこか暗い感情のようなものも感じさせる。
「お姉様がこれから婚約を破棄されても大丈夫なように、既に取り計らっているから安心してね」
「どういうこと?」
「じきに分かるわ」
そして笑みの残滓を残して振り返ると、メアリーは再び歩き出した。
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