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第2部 自由

辛辣な言葉

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 先ほどまでの温和な笑みを浮かべていた様子とは打って変わって、ブルーノはクレアに氷のような瞳を向けた。

「それにしても、人質の王女風情が身分違いも甚だしい。どうして皇帝陛下は、お前なぞ皇太子の婚約者に指名したのだ。全く理解に苦しむ」
「ブルーノ様!」

 瞬間、イリスは扇子を口元に当ててブルーノに対して声を発した。通常なら貴族の令嬢がそのような声を上げるなどまかり通ることではない。
 だが、イリスは一切臆した様子を見せずブルーノに鋭い眼差し向けた。

「まさかイリス嬢。私に意見するのか」
「いいえ。ですが、今のブルーノ様の仰り方は、あまりにも聞くに耐えませんでしたので」
「ふん。それは、イリス嬢が何か勘違いをしているんじゃないのか」
「あら。わたくしはあなた様の言葉を言葉通りに受け取ったまでですわ。むしろ、あなた様の常識が遥か彼方斜め上方向にあるのではなくて?」

 イリスは、真っ直ぐにブルーノを射抜くような視線を向けている。

「相変わらず口が達者だな。私の婚約者でなければとうの昔に追放してやったものを」
「あら、わたくしを追放? 果たしてそのようなこと、あなた様の力で実際に可能なのでしょうか」
「ふん、お前の減らず口を塞いでやりたいわ」
「まあ、それは褒め言葉として受け取っておきますわね。ブルーノ様がこのように褒めてくださるのは滅多にないことですから」

 クレアは、二人の烈火の如く交わされる会話に唖然としながら先ほどのブルーノの言葉が耳から離れなかった。

 何を、言われたのだろう。そうだ、人質の王女風情がと言われたのだ。
 認識をすると同時に恐ろしさが襲ってきた。あまり面識もなくこれまでほとんど会話をしたこともない相手から、ただ否定的な言葉を言われる。
 
(何と返せばよいのかしら……。そもそも、このような場面で言い返す資格が私にはあるのかしら……)

 意識が遠のきそうだったが、なんとか途切れないように気を強く持つように努めた。

「第一皇子様。恐れながら、わたくしが皇太子殿下の婚約者になることを、皇帝陛下がお決めになられたというのは……」
「なんだ、そんなことも知らなかったのか。まあ、これは私が極秘に入手した情報だがな」

(……? アーサー様が私と婚約を持ちかけたのは、あくまでもイリス様とブルーノ様との婚約が破棄されるまでの、繋ぎのものだったのではなかったのかしら……)

 鈍る思考をなんとか働かせながらそう巡らせると、どうにも腑に落ちない疑問が浮かび上がったが、目前のブルーノの刺さるような視線を受けるとどうしてよいのかわからなくなる。
 
 恐怖心が押し寄せてくるが何かを反論しなければならない。そう思うのだが、口が動かないのだ。

「兄上。先ほどの言葉は撤回していただきたい」

 いつの間にか戻ったのか、アーサーがクレアの隣に立っていた。
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