上 下
54 / 96
第2部 自由

力の考察

しおりを挟む
 クレアは自室へと戻ると、侍女長のサラにアーサーと面会を希望する旨を伝えた。
 すると、それは突然の申し出であるのにも関わらず、アーサーから晩餐の前に執務室へと来るようにとの連絡を受けたのだった。

 そして、早速アーサーに先ほどの庭園での出来事を説明すると、アーサーは目を大きく見開きしばし無言になった。

「あの、アーサー様」
「薔薇が、咲いた……?」

 普段はあまり表情を崩さないアーサーだが、流石に驚きを隠せない様子である。

「はい」

 そう言ってクレアが差し出したのは、見事な薔薇の花だった。前もって一輪持ち出していたのだ。

「……ひょっとして、例の力が作用したのか」
「分かりません。ただ、ジョーロで水を撒いていたら突然発光して……」
「……そうか」

 アーサーは執務椅子に座ったまま、何かを深く考えこむような仕草をしている。

「ともかく、庭師のトムに『不思議な力が働いた』と事情を説明するわけにもいかないだろう」

 アーサーは、執務机の引き出しから小瓶を取り出しクレアに見せた。

「この魔法の栄養薬を、俺から受け取ったと説明をするんだ」
「魔法の栄養薬ですか?」
「ああ」

 何でも、それは帝国屈指の魔法使いらが専用の特殊な液体に直接魔法力を込めたもので、ふりかけると植物の成長を早めるのだそうだ。
 そのような魔法の薬があるとはと、クレアは内心驚いた。

「ともかく、きっと君の力によるものだろう。それにしても、その力はどういったものなのだろうな」
「はい」
「前回は破れた衣装を元通りにし、今回は植物の成長を促進させた。俺の推測では、君は再生の術が使えるのかと思ったが、そうとは言い切れないようだ。何か共通の点はないだろうか」
「再生の術ですか?」
「ああ。それは、かつてこの大陸に存在した幻の魔法と言われている」

 アーサーの話によると、その魔法は「壊れたものを見事に再生する」もので、かつてユーリ王国の前身であるカサブランカ王国の王族のみが使用することができたらしい。

「カサブランカ王国……」
「どうやら君の祖国のユーリ王国の王族は、そのカサブランカ王国の血流を汲んでいるらしい」

 あれからアーサーなりに資料を取り寄せて、色々と調べ推測を立てたとのことである。

「君は、再生の魔法を使用することができる数少ない魔法使いなのだと思ったんだが」

 アーサーは、今度は机の引き出しから手のひらサイズの時計のようなものを取り出した。

「これは携帯型の魔力測定器だ。これで魔力を測れるんだが、測定してもよいだろうか」
「はい、かまいません」

 返事をしつつ、胸の鼓動が高まるのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【欧米人名一覧・50音順】異世界恋愛、異世界ファンタジーの資料集

早奈恵
エッセイ・ノンフィクション
異世界小説を書く上で、色々集めた資料の保管庫です。 男女別、欧米人の人名一覧(50音順)を追加してます! 貴族の爵位、敬称、侍女とメイド、家令と執事と従僕、etc……。 瞳の色、髪の色、etc……。 自分用に集めた資料を公開して、皆さんにも役立ててもらおうかなと思っています。 コツコツと、まとめられたものから掲載するので段々増えていく予定です。 自分なりに調べた内容なので、もしかしたら間違いなどもあるかもしれませんが、よろしかったら活用してください。 *調べるにあたり、ウィキ様にも大分お世話になっております。ペコリ(o_ _)o))

タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~

ルッぱらかなえ
大衆娯楽
★作中で出来上がるビールは、物語完結時に実際に醸造する予定です これは読むビール、飲める物語 ーーーー 時は江戸。もしくは江戸によく似た時代。 「泥酔して、起きたらみんなちょんまげだった!!!」 黒船来航により世間が大きく揺らぐ中、ブルワー(ビール醸造家)である久我山直也がタイムスリップしてきた。 そんな直也が転がり込んだのは、100年以上の歴史を持つ酒蔵「柳や」の酒を扱う居酒屋。そこで絶対的な嗅覚とセンスを持ちながらも、杜氏になることを諦めた喜兵寿と出会う。 ひょんなことから、その時代にはまだ存在しなかったビールを醸造しなければならなくなった直也と喜兵寿。麦芽にホップにビール酵母。ないない尽くしの中で、ビールを造り上げることができるのか?! ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

「お前は聖女ではない!」と妹に吹き込まれた王子に婚約破棄されました。はい、聖女ではなく、『大聖女』ですが何か?

つくも
恋愛
王国リンカーンの王女であるセシリア。セシリアは聖女として王国を支えてきました。しかし、腹違いの妹に「本当の聖女ではない」と吹き込まれた婚約者の王子に婚約破棄をされ、追放されてしまうのです。 そんな時、隣国の王宮にセシリアは『大聖女』としてスカウトされます。そう、セシリアはただの聖女を超えた存在『大聖女』だったのです。 王宮でセシリアは王子に溺愛され、『大聖女』として皆から慕われます。小国はセシリアの力によりどんどん発展していき、大国に成長するのです。 一方、その頃、聖女として代わりの仕事を担うはずだった妹は失敗の連続。彼女にセシリアの代わりは荷が重すぎたようです。次第に王国は衰えていき、婚約者の王子からは婚約破棄され、最後には滅亡していくのです。 これは聖女ではないと追放されたセシリアが、ホワイトな王宮で大聖女として皆から慕われ、幸せになるお話です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

もうなんか大変

毛蟹葵葉
エッセイ・ノンフィクション
これしか言えん

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...