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第1部 仮初めの婚約者
婚約を交わす日
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「左様でしょうか……」
色々と疑問には思ったが、これ以上は立場も考えて追求しないようにした。
そしてデザートのヨーグルトをいただきながら、食後の紅茶もいただく。温かくて茶葉の芳しい香りが全身を駆け巡るようだった。
これまでは、自分で井戸で汲んできた水しか飲むことを許されていなかったので労働もせずに飲料水を飲めることに対してまだまだ免疫はないが、一口一口を味わって飲むことにしたのだった。
「ときに急で悪いのだが、私たちの婚約を本日の午後に交わすことになった」
「……! 本日の午後でしょうか」
それはまた急な展開である。
昨晩、アーサーと遭遇してからとんとん拍子にことが運び過ぎてはいないだろうか。
「正式には婚約式の際に交わすのだが、これから一ヶ月弱君がこの第二宮で暮らすにあたって婚約に関する署名をしておく必要があるのだ」
「……左様でしたか」
「今日署名してもらう書類は、婚約式が終わり次第宮内庁に提出することとなる」
婚約式……。
今更だが、本当にクレアはアーサーと婚約を交わすのだと一気に実感が湧いた。
「とはいえ、今日の仮の署名で君の皇太子妃教育を今週中にも開始できるそうだ。私も政務のかたわら教育を受ける身でもある。一緒に受けることはないと思うが共に励んでいこう」
「皇太子妃……教育……」
またしてもことが瞬く間に決まっていく。
そのことに驚きつつも、教育を受けさせてくれるという言葉が強く胸に響いた。
「無理強いはしないが、少しずつで良いので……」
「はい、受けさせていただきます!」
気がつけばそう答えていた。
イリスのことを考えたら遠慮をした方が良いのだろうが、それよりもこれまで誰かを気にせず教育を受けたいと強く願ってきたのでそのチャンスを掴みたかった。
「そうか。非常に頼もしいな。私もその姿勢に是非倣いたい」
二人の間に温かい空気が流れたのだった。
色々と疑問には思ったが、これ以上は立場も考えて追求しないようにした。
そしてデザートのヨーグルトをいただきながら、食後の紅茶もいただく。温かくて茶葉の芳しい香りが全身を駆け巡るようだった。
これまでは、自分で井戸で汲んできた水しか飲むことを許されていなかったので労働もせずに飲料水を飲めることに対してまだまだ免疫はないが、一口一口を味わって飲むことにしたのだった。
「ときに急で悪いのだが、私たちの婚約を本日の午後に交わすことになった」
「……! 本日の午後でしょうか」
それはまた急な展開である。
昨晩、アーサーと遭遇してからとんとん拍子にことが運び過ぎてはいないだろうか。
「正式には婚約式の際に交わすのだが、これから一ヶ月弱君がこの第二宮で暮らすにあたって婚約に関する署名をしておく必要があるのだ」
「……左様でしたか」
「今日署名してもらう書類は、婚約式が終わり次第宮内庁に提出することとなる」
婚約式……。
今更だが、本当にクレアはアーサーと婚約を交わすのだと一気に実感が湧いた。
「とはいえ、今日の仮の署名で君の皇太子妃教育を今週中にも開始できるそうだ。私も政務のかたわら教育を受ける身でもある。一緒に受けることはないと思うが共に励んでいこう」
「皇太子妃……教育……」
またしてもことが瞬く間に決まっていく。
そのことに驚きつつも、教育を受けさせてくれるという言葉が強く胸に響いた。
「無理強いはしないが、少しずつで良いので……」
「はい、受けさせていただきます!」
気がつけばそう答えていた。
イリスのことを考えたら遠慮をした方が良いのだろうが、それよりもこれまで誰かを気にせず教育を受けたいと強く願ってきたのでそのチャンスを掴みたかった。
「そうか。非常に頼もしいな。私もその姿勢に是非倣いたい」
二人の間に温かい空気が流れたのだった。
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