上 下
10 / 96
第1部 仮初めの婚約者

パーティー当日

しおりを挟む
 そして二週間後。
 今日は皇太子披露パーティー当日である。
 パーティーは夕方に始まるのだが、皇女宮では普段よりも侍女や下女が朝から忙しなく動いていた。
 皇女二人の身支度は昼食後から始まるからだ。

 まずは侍女による入念な湯浴みから始まり、マッサージを時間を掛けて行なう。
 そしてコルセットで身体を絞めた後に、華美なドレスを身につけていくのだ。

 また、他に化粧を施し髪を結い上げる工程もあるので、昼食後に始めてもパーティーの開始時刻ギリギリまでかかる場合もあった。

 そして今は、丁度皇女二人のドレスを身につける工程の最中である。
 第一皇女のイザベラはドレス担当の侍女に対してあれこれと指示を出し、侍女はその全てに丁寧に対応している。

「そうね、今回は二着を仕立てたけれど、今日の気分はこちらの紺青のドレスだからこれを身につけるわ」
「かしこまりました」
「それと……、アイツにもそろそろ衣服の用意をさせて」
「かしこまりました。直ちに手配をいたします」

 大方を把握しているのか、ドレス担当の侍女は丁寧に辞儀をした後速やかに退室して行った。
 残された同担当の侍女らは、手際よく皇女たちのドレスの着付けを行っていく。

「お姉様。ウスノロクレアはドレスを見て大層失望するでしょうね」
「ええ。……だからトスカ、貴方が情けをかけてあげなさいな」

 トスカは口角を上げると、心底可笑しいのか綺麗な笑みを浮かべた。

「はい。それはもう、たっぷりと」

 イザベラはこれから起こるであろう出来事を思い浮かべると、笑みが止まらないのであった。

「……あら、お姉様。そちらの本、見つかったのですね」
「ええ」
「良かったですわね」
「……そうね」

 軽く頭を下げて退室していくトスカを、イザベラは複雑な心中で見送った。
 というのも、先程トスカが気にかけた占星術の本は、イザベラがの本なのだ。

 その本は、彼女が十五歳の誕生日の際に皇帝である父親からの数ある贈り物の中の一つだったものである。
 内容もさることながら、星空が描かれた表紙が気に入っていたので常に手元に置いておいたのだが、誤って他の不必要な本と一緒に処分をするようにと侍女に命じてしまったのだ。

 気がついた時には既に焼却された後で取り返しがつかず、イザベラはしばらくの間悩んだ。

 皇帝からの贈り物をイザベラの過失で誤って処分してしまったことなど、皇帝に知られたら自分はどうなってしまうのだろうか。
 そう思うと恐ろしく、イザベラはしばらく食事が手につかなかった。だから彼女はあることを思いついたのだ。

 それは、本の処分を命じた侍女に宝石の心付けを渡して口止めをして、別の侍女に罪を被せることだった。
 その侍女は処分を命じる直前に本に触っていた。なので彼女に対して「お前が紛失させた」と吹き込むのは容易だったのだ。

 そうして、その侍女は自分が紛失させたのだと思い込み、必死になって本を捜索した。
 後は、発見することができなかったと泣きついた侍女に相応に罰を与え、皇帝に報告するだけだったのだが……。

(何故、焼却されたはずの本が戻ってきたのかしら)

 先日、件の侍女が見つかったと本を持ってきたのだ。
 
 色々と腑には落ちなかったが、まあいい。
 今は、クレアが困り泣いて自分に詫びる姿を見られるのだからそれを楽しみにしようではないかと、イザベラは細く笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

白花の姫君~役立たずだったので人質として嫁いだはずが、大歓迎されています~

架月はるか
恋愛
魔法の力の大きさだけで、全てが決まる国。 フローラが王女として生を受けたその場所は、長い歴史を持つが故に閉鎖的な考えの国でもあった。 王家の血を引いているにもかかわらず、町娘だった母の血を色濃く継いだフローラは、「植物を元気にする」という僅かな力しか所持していない。 父王には存在を無視され、継母である王妃には虐げられて育ったフローラに、ある日近年力を付けてきている蛮族の国と呼ばれる隣国イザイア王との、政略結婚話が舞い込んでくる。 唯一の味方であった母に先立たれ、周りから役立たずと罵られ生きてきたフローラは、人質として嫁ぐ事を受け入れるしかなかった。 たった一人で国境までやって来たフローラに、迎えの騎士は優しく接してくれる。何故か町の人々も、フローラを歓迎してくれている様子だ。 野蛮な蛮族の国と聞いて、覚悟を決めてきたフローラだったが、あまりにも噂と違うイザイア国の様子に戸惑うばかりで――――。 新興国の王×虐げられていた大国の王女 転移でも転生でもない、異世界恋愛もの。 さくっと終わる短編です。全7話程度を予定しています。

処理中です...