セレンディピティ

藤澤 怜

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君は魅力的

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「ただいま」
家に帰ると父はパソコンに向かって作業をしている。我が家は住宅街の中にある一軒家。窓を開けていてもとても静かで居心地が良い。
「おかえり、早かったな」
学校の中を見て回る予定が図書室しかいってない。明日また色々回ろう。
「兄ちゃんの事知ってる先生に会ったよ、図書室の司書さんだった」
「なんで先生だった?」
海堂先生の名前を出すと父はそうかと一言だけ返した。
「兄ちゃん図書委員だったんだって知らなかったよ」
「図書委員ねぇ、やってる事は図書とは関係なかったけどなぁ」
「なんか知ってるの?」
「道清達がお世話にになったのは確かだな、まああれを委員会の活動とは言えなかったがな」
「何してたの?」
「親達の知らないところで色々やってるもんだよ、高校生は」
意味深な事を言う父はこちらを決して見なかった。なんだか嫌な事を思い出した時のようなそんな感じが伝わってきた。
これ以上聞いちゃいけないのかな。
普段の父とは少し違う様子だ。
兄の高校時代の話は詳しく聞いたことがない、毎朝学校に行って帰ってくる、バイトはしてたらしいが部活はしてない。
僕が知ってる兄はそんな感じだった。
悪い事をしてるなんて話はもちろん聞いたことがない、けど父の言った#とんでもないこと#ってなんだろう。
入学初日からなんだかもやもやした感じが残る。
その日の夜に兄に電話をしたが繋がらなかった。明日掛かってくるのを待つ事にしよう。

僕は朝が強い、目覚ましより先に起きる事なんていつものことだ。いつも起きて携帯をいじるか漫画を見る。
今日から通常の授業といっても午前中はホームルームと学校案内。
午後は委員会と部活の紹介で授業は無い。
授業を受けている時間はある意味で楽だ。1人で黙々とやっていれば時間は過ぎる。#__・__#いつの間にか終わる。
休み時間で誰とも話さない事を気にする事もなければ、人の目も気にならない。
#自分から行動するの#そう言われてから高校生になったら自分から積極的に友達を作ろうと心の中で思っていた。けどせっかく話しかけてくれた人ともうまく話せない。
隣の子に話しかけてもあまりうまく話せない。終いには入学初日に泣いてるところを見てしまう。
これからの学校生活に希望は一切見えない、まあまだ2日目、頑張ろうと思いながら朝ごはんを食べる。

電車に乗り学校までの道は生徒だらけだ、学校の周りには本当に何もない、海と民家と畑だけ。
車通りも多くない道を沢山の自転車に追い抜かれながらひたすら歩く。
何か1つ委員会に入らなければならないと言っていたが、図書委員会かな。
学校の部活にサーフィンやスノーボードがあればいいなと思うが調べたところ無いようだ。
学校の敷地内は桜が咲いていて綺麗だ。
写真を撮ってる人もあちこちにいる。
4階にある教室に入り時間が来るのを待つ、毎日このルーティーンが繰り返されるのか。
「おはよう」
隣の席の女の子に挨拶をしたが彼女には聞こえなかったようだ。
彼女は自分の席で本を読んでいる。
相手にされてない感じがして少し残念だ。
「おはよう、皆席に着いて!ホームルーム始めるわよ」
京野先生は今日も元気だ。出席を取り先生の話を聞く。
午前中はクラス毎にオリエンテーション、学校の中を一回りして、奨学金の説明や3年間の年間行事の説明を受ける。
午後はクラブ活動と生徒会による学校行事の発表会。
上級生達の気合いの入った説明をよく聞いて、と京野先生は言っていた。
面白そうな部活があれば放課後に見に行き、明日から体験入部ができると言っていた。

教室から出て先生を先頭に各教室を歩いて回る。
明日から授業によっては教室を移動しなくてはならない、覚えておかなければ行けないのだかこの広い学校は僕には少しストレスだった。
廊下に貼ってある委員会のポスターを見ながら「午後に委員会の活動発表があるけど、ここにあるポスターを一通り見ておいてね!」と先生はみんなに言う。
一通り見て回るが図書委員のポスターは無い。
貼ってない委員会もあるんだとその時ばかりは思っていた。
お昼は朝コンビニで買ってきたサンドイッチとパン。
昼休みになると殆どの生徒が教室から出て行ってしまった。
高校生になったらやりたい事の1つが学校の屋上に行くことだった。よくドラマなんかで屋上にいるシーンを見るが僕の中学では屋上に出る事は禁止されていて叶わなかった。
よし行こう。
屋上まではすぐだ、教室を出て廊下の先にある階段を一階上がるだけ。階段を上がり扉を開けるとすでに何人もの生徒が座ってお昼ご飯を食べている。
午後は体育館で全校生徒の集会だ。僕は部活に入る気はないが委員会に入らなければならないとなるとどうしようかな。
開放的な空間の中に隣の席の彼女の姿がある、屋上の手すりに寄りかかり外を見ている。
昨日の図書室での彼女はやはり泣いていただろうか。僕が気にする事ではないかもしれないけど気になってしょうがない。
「音葉さん、もうご飯食べた?」
風に髪をなびかせている彼女は同い年とは思えないくらい大人っぽい雰囲気を纏っている。
「食べてない、いらない」
「そうなんだ、昨日図書室にいたよね、邪魔しちゃいけないと思って声掛けれなかったけど、本好きなんだね」
「そうね、本を読んでる時は現実を忘れられる」
遠くを見ながら笑わない彼女はなんだか僕によく似ている。
今のところ楽しい事は学校には無い。めでたく入学したが友達もまだいない僕は兄の高校時代にやっていた事と隣の席の彼女の事だけが気になってしまってしょうがない。
「ねえ、音葉さん、よかったら僕と友達になってよ」
無言で僕の顔を見る彼女。初めて彼女と目が合ったがとても綺麗な茶色の目をしている。
自然と言ってしまったが、やばいヤツだと思われたかな。
「意外と大胆ね」
彼女は真顔でそう言った。この時の顔を僕は忘れない。少し怖かった。
「そうかな、変なヤツだと思わないでくれたら嬉しいな」
恥ずかしい気持ちを隠すために買っておいたパンをビニール袋から出して一口かじる。
もう彼女の顔を見れない。
「私でよければよろしく」
言ってみるもんだと思った、自分の中にある壁を乗り越えてその先の景色が見えるようになったようなそんな感覚。
けど、ただただ嬉しかった。
「音葉さんお昼は食べた方がいいよ、はい」
楽しみにしていたチョコパンを袋彼女に差し出す。
「ありがとう」
彼女は受け取ってくれた。
2人でパンを齧りながら黙って屋上から景色を見ていた。
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