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二週間後、カトリーヌは城下街に出た。

「この辺のはずなんだけど……」
セルジオさんの奥さんから聞いた店を探している。

雑貨屋さんと化粧品屋にハンドクリームが置いてあるらしい。

でも、どうやら納品しているだけで工房や住まいは別にあるようだ。

どちらの店にも可愛らしいディスプレイをされていた。
メッセージは多種類あった。
もっと恋人関係を思わせるものもある。
『あなたが一番』
『同じ香りをつけて』
『少し大胆に触れて』

香りは三種類が定番で、季節限定が二種類ほどあるらしい。
ジオスの手がかりがこれしかない。

「すみません、これを作ってる人はいつ納品に来ますか」

「……いつ来てるんだろ。店長なら知ってるのかな。いつもお客さんの様子を見たいからって、ふらっと来られるんです。可愛いお子さんを連れて」

「可愛いお子さん……?」

「はい。ベビーカーに乗せて」

「その方は、男性ですか?女性ですか?」

「女性ですよ。」

それはジオスの仕事仲間?

改めて、彼のことを何も知らないと気づく。

近くの店を見て回れば花屋さんやパン屋が並んでいる。庶民的で住みやすそうな街だ。
ジオスと会ったのはいつも夜だったのでこんなに明るい街並みにいる姿が想像できない。

帰ろうと思った。考えないといけないことが増えたし。さっきの雑貨屋で紅茶もあった気がする。ゆっくり見ていなかったのでもう一度覗いて帰ろうと思った。

慣れない街をキョロキョロして歩いていたからだろう。
普段ならすれ違って終わりかもしれない。

路地の壁にもたれて腕組みをしている。ベビーカーを横に置いている。
帽子をかぶった男性。うつむいているけど似ている。

声をかけようとしたときに、小走りで横を追い抜かれた。

「ごめんね、つい色々見ちゃって」

小柄な女性が駆け寄っていく。
「良い子にしてた?」

「ああ、問題ない。こいつを見てたら俺も寝そうだった」

「また徹夜したの?ごめんね。帰ったら寝ていいから」
ベビーカーの中を二人でみながら話している。
手にもった籠から野菜とパンが出ている。

あ、これは。
確実に、あれだわ。

そのまま、後ずさりする。

男性が、ふっと顔を上げた。目があった。
何か言おうとした。

女性が気づいて振り返る。
ダメだ、見られたらジオスが困る。
逃げようとした。

通りで立ち止まっていたので、後ろから歩いてきた人にぶつかりそうになった。
「危ない」

腕をつかまれて、肩を抱かれた。
その声、腕。

「どうしたんだ」

「あの、」

なんと言っていいのかわからない。奥さんの前でただの知り合いのふりを出きるほど、図太くもない。かといってこのままではおかしいと思われる。
ジオスが、見捨てていたら何も困らなかったのに。
「大丈夫?とりあえずお嬢さんこっちへ」

奥さんが手招きして、ジオスがそのまま道のはしに連れていく。
「起きちゃった、ちょっと抱っこするわ」

赤ちゃんをあやす姿は優しそうで。
その二人を見るジオスも自然で。

「なんで泣いてるんだ?さっきぶつかったようには見えなかったけど、何かされたのか?」

両手で肩をつかんで揺さぶってくるジオス。

「やめて」

邪魔をしたくない。幸せそうな家族を壊したくない。ジオスに恨みはあるけれど、こんなところで言うつもりはない。

「何かお話があるんじゃないの?ジオス、お店に入って来たら?」

赤ちゃんをあやしながら言った。
なんて余裕があるの、この奥さん。浮気に慣れてるの?
ジオス、最低なのでは。

赤ちゃんの髪色も、ジオスと同じ。
「悪い、荷物だけ運ぼうか。」
「じゃあ、あとで牛乳を取りに行ってくれる?今日はまだ入荷してなくてあとでまた買いにいこうと思ってたのよ。
でも無理しなくていいわよ。あの人が帰ってきてからでもいいし」

「えっ」

声を出したら、二人が振り返った。
「どうした」

「夫婦、ではないの……?」
「違う」
「あらあら、それでお嬢さん泣いてたの?」

可愛らしい笑顔と、キラキラした目に好奇心が溢れていた。

「急用ができたから、先に帰ってくれ。ねえさん」

「ねえさん……?」

「あとで話すから。とりあえず二人になりたい」

ジオスが、耳元で囁いた。
それだけで、頬が熱くなる。





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