7 / 9
7.
しおりを挟む
二週間後、カトリーヌは城下街に出た。
「この辺のはずなんだけど……」
セルジオさんの奥さんから聞いた店を探している。
雑貨屋さんと化粧品屋にハンドクリームが置いてあるらしい。
でも、どうやら納品しているだけで工房や住まいは別にあるようだ。
どちらの店にも可愛らしいディスプレイをされていた。
メッセージは多種類あった。
もっと恋人関係を思わせるものもある。
『あなたが一番』
『同じ香りをつけて』
『少し大胆に触れて』
香りは三種類が定番で、季節限定が二種類ほどあるらしい。
ジオスの手がかりがこれしかない。
「すみません、これを作ってる人はいつ納品に来ますか」
「……いつ来てるんだろ。店長なら知ってるのかな。いつもお客さんの様子を見たいからって、ふらっと来られるんです。可愛いお子さんを連れて」
「可愛いお子さん……?」
「はい。ベビーカーに乗せて」
「その方は、男性ですか?女性ですか?」
「女性ですよ。」
それはジオスの仕事仲間?
改めて、彼のことを何も知らないと気づく。
近くの店を見て回れば花屋さんやパン屋が並んでいる。庶民的で住みやすそうな街だ。
ジオスと会ったのはいつも夜だったのでこんなに明るい街並みにいる姿が想像できない。
帰ろうと思った。考えないといけないことが増えたし。さっきの雑貨屋で紅茶もあった気がする。ゆっくり見ていなかったのでもう一度覗いて帰ろうと思った。
慣れない街をキョロキョロして歩いていたからだろう。
普段ならすれ違って終わりかもしれない。
路地の壁にもたれて腕組みをしている。ベビーカーを横に置いている。
帽子をかぶった男性。うつむいているけど似ている。
声をかけようとしたときに、小走りで横を追い抜かれた。
「ごめんね、つい色々見ちゃって」
小柄な女性が駆け寄っていく。
「良い子にしてた?」
「ああ、問題ない。こいつを見てたら俺も寝そうだった」
「また徹夜したの?ごめんね。帰ったら寝ていいから」
ベビーカーの中を二人でみながら話している。
手にもった籠から野菜とパンが出ている。
あ、これは。
確実に、あれだわ。
そのまま、後ずさりする。
男性が、ふっと顔を上げた。目があった。
何か言おうとした。
女性が気づいて振り返る。
ダメだ、見られたらジオスが困る。
逃げようとした。
通りで立ち止まっていたので、後ろから歩いてきた人にぶつかりそうになった。
「危ない」
腕をつかまれて、肩を抱かれた。
その声、腕。
「どうしたんだ」
「あの、」
なんと言っていいのかわからない。奥さんの前でただの知り合いのふりを出きるほど、図太くもない。かといってこのままではおかしいと思われる。
ジオスが、見捨てていたら何も困らなかったのに。
「大丈夫?とりあえずお嬢さんこっちへ」
奥さんが手招きして、ジオスがそのまま道のはしに連れていく。
「起きちゃった、ちょっと抱っこするわ」
赤ちゃんをあやす姿は優しそうで。
その二人を見るジオスも自然で。
「なんで泣いてるんだ?さっきぶつかったようには見えなかったけど、何かされたのか?」
両手で肩をつかんで揺さぶってくるジオス。
「やめて」
邪魔をしたくない。幸せそうな家族を壊したくない。ジオスに恨みはあるけれど、こんなところで言うつもりはない。
「何かお話があるんじゃないの?ジオス、お店に入って来たら?」
赤ちゃんをあやしながら言った。
なんて余裕があるの、この奥さん。浮気に慣れてるの?
ジオス、最低なのでは。
赤ちゃんの髪色も、ジオスと同じ。
「悪い、荷物だけ運ぼうか。」
「じゃあ、あとで牛乳を取りに行ってくれる?今日はまだ入荷してなくてあとでまた買いにいこうと思ってたのよ。
でも無理しなくていいわよ。あの人が帰ってきてからでもいいし」
「えっ」
声を出したら、二人が振り返った。
「どうした」
「夫婦、ではないの……?」
「違う」
「あらあら、それでお嬢さん泣いてたの?」
可愛らしい笑顔と、キラキラした目に好奇心が溢れていた。
「急用ができたから、先に帰ってくれ。ねえさん」
「ねえさん……?」
「あとで話すから。とりあえず二人になりたい」
ジオスが、耳元で囁いた。
それだけで、頬が熱くなる。
「この辺のはずなんだけど……」
セルジオさんの奥さんから聞いた店を探している。
雑貨屋さんと化粧品屋にハンドクリームが置いてあるらしい。
でも、どうやら納品しているだけで工房や住まいは別にあるようだ。
どちらの店にも可愛らしいディスプレイをされていた。
メッセージは多種類あった。
もっと恋人関係を思わせるものもある。
『あなたが一番』
『同じ香りをつけて』
『少し大胆に触れて』
香りは三種類が定番で、季節限定が二種類ほどあるらしい。
ジオスの手がかりがこれしかない。
「すみません、これを作ってる人はいつ納品に来ますか」
「……いつ来てるんだろ。店長なら知ってるのかな。いつもお客さんの様子を見たいからって、ふらっと来られるんです。可愛いお子さんを連れて」
「可愛いお子さん……?」
「はい。ベビーカーに乗せて」
「その方は、男性ですか?女性ですか?」
「女性ですよ。」
それはジオスの仕事仲間?
改めて、彼のことを何も知らないと気づく。
近くの店を見て回れば花屋さんやパン屋が並んでいる。庶民的で住みやすそうな街だ。
ジオスと会ったのはいつも夜だったのでこんなに明るい街並みにいる姿が想像できない。
帰ろうと思った。考えないといけないことが増えたし。さっきの雑貨屋で紅茶もあった気がする。ゆっくり見ていなかったのでもう一度覗いて帰ろうと思った。
慣れない街をキョロキョロして歩いていたからだろう。
普段ならすれ違って終わりかもしれない。
路地の壁にもたれて腕組みをしている。ベビーカーを横に置いている。
帽子をかぶった男性。うつむいているけど似ている。
声をかけようとしたときに、小走りで横を追い抜かれた。
「ごめんね、つい色々見ちゃって」
小柄な女性が駆け寄っていく。
「良い子にしてた?」
「ああ、問題ない。こいつを見てたら俺も寝そうだった」
「また徹夜したの?ごめんね。帰ったら寝ていいから」
ベビーカーの中を二人でみながら話している。
手にもった籠から野菜とパンが出ている。
あ、これは。
確実に、あれだわ。
そのまま、後ずさりする。
男性が、ふっと顔を上げた。目があった。
何か言おうとした。
女性が気づいて振り返る。
ダメだ、見られたらジオスが困る。
逃げようとした。
通りで立ち止まっていたので、後ろから歩いてきた人にぶつかりそうになった。
「危ない」
腕をつかまれて、肩を抱かれた。
その声、腕。
「どうしたんだ」
「あの、」
なんと言っていいのかわからない。奥さんの前でただの知り合いのふりを出きるほど、図太くもない。かといってこのままではおかしいと思われる。
ジオスが、見捨てていたら何も困らなかったのに。
「大丈夫?とりあえずお嬢さんこっちへ」
奥さんが手招きして、ジオスがそのまま道のはしに連れていく。
「起きちゃった、ちょっと抱っこするわ」
赤ちゃんをあやす姿は優しそうで。
その二人を見るジオスも自然で。
「なんで泣いてるんだ?さっきぶつかったようには見えなかったけど、何かされたのか?」
両手で肩をつかんで揺さぶってくるジオス。
「やめて」
邪魔をしたくない。幸せそうな家族を壊したくない。ジオスに恨みはあるけれど、こんなところで言うつもりはない。
「何かお話があるんじゃないの?ジオス、お店に入って来たら?」
赤ちゃんをあやしながら言った。
なんて余裕があるの、この奥さん。浮気に慣れてるの?
ジオス、最低なのでは。
赤ちゃんの髪色も、ジオスと同じ。
「悪い、荷物だけ運ぼうか。」
「じゃあ、あとで牛乳を取りに行ってくれる?今日はまだ入荷してなくてあとでまた買いにいこうと思ってたのよ。
でも無理しなくていいわよ。あの人が帰ってきてからでもいいし」
「えっ」
声を出したら、二人が振り返った。
「どうした」
「夫婦、ではないの……?」
「違う」
「あらあら、それでお嬢さん泣いてたの?」
可愛らしい笑顔と、キラキラした目に好奇心が溢れていた。
「急用ができたから、先に帰ってくれ。ねえさん」
「ねえさん……?」
「あとで話すから。とりあえず二人になりたい」
ジオスが、耳元で囁いた。
それだけで、頬が熱くなる。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています
氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。
それは、絵に描いたような契約結婚だった。
しかし、契約書に記された内容は……。
ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。
小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。
短編読了済みの方もぜひお楽しみください!
もちろんハッピーエンドはお約束です♪
小説家になろうでも投稿中です。
完結しました!! 応援ありがとうございます✨️
【R18】お飾り王太子妃は今日も暴走する〜えっ!?わたくしたち、白い結婚でしたよね〜
湊未来
恋愛
王太子妃リリアには、秘密があった。
それは、誰にも知られてはならぬ秘密である。
『リリアが、騎士団の練習場に通いつめているだと!? まさか、浮気?』
夫カインがリリアの不審な行動に頭を悩ませ盛大なる勘違いをしていた頃、リリアは己の趣味を満喫するため今日も上機嫌で王城内を闊歩していた。
『あちらの殿方と殿方のなんと麗しいこと。あら、やだ、あんなに顔を近づけちゃって。そのまま、唇と唇が……きゃ♡』
脳内妄想で忙しいリリアもまた、盛大なる勘違いをしていた。
新婚初夜に『今夜、君を抱くことはない』と言ったカインの言葉の真意を読み誤り、白い結婚だと思い込んだリリアの勘違いは加速する。
果たして、二人は『盛大なる勘違い』を乗り越え、結ばれることができるのか?
幼な妻を愛するが故に手が出せない年上夫カイン×幼な顔だから手を出してもらえなかったと嘆く妻リリアのすれ違いラブコメディ。
はじまり、はじまり〜♪
・R18シーンには※をつけます。
・こちらの作品は、『残念な王太子妃と可哀想な王太子の攻防』のリメイク作品となります。
・『初恋の終焉』のスピンオフ作品となりますが、こちらだけでもお楽しみ頂けます。
試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
望まれて少年王の妻となったけれど、元婚約者に下賜されることになりました
能登原あめ
恋愛
* 本編完結後にR18、シリアス寄りです。
大好きな婚約者レオ(レアンドル)との結婚まであと半年。
即位したばかりの王アンベールのわがままで、私、ジュジュ(ジュスティーユ)の婚約は白紙、六歳年上の王妃となった。
それから六年、子供のいないままの私は、元婚約者で現在は辺境伯となったレオの元へ嫁ぐことが決まった。
私の気持ちは……。
* 全8話+小話数話予定(R18含む話あり)
* Rシーンには※マークをつけます。
* コメント欄開放してますのでお気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから
みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。
婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。
相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。
恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる