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「もう、やだ……」

ジオスがビクッと掴んでいた腕を強ばらせた。

「嫌そうに見えないけど」
「もう、待つのも探すのも、誰かを好きになって傷つくのも嫌、期待させて居なくなるなら放っておいて」

かっこわるいのはわかっている。それでも、この人に知って欲しかった。

「じゃあ、俺が」

言葉を止めたので、顔をあげると目が合う。
「見るな」
カトリーヌを抱き込むように肩越しに頭を預けられる。頬にジオスの首筋があたる。

「俺は、傷つけた?」

カトリーヌは迷った。
居なくなって寂しかったし腹立たしいと思っていた。でも、わからない。

勝手に期待して、好意をもって、好きになりかけただけ。
「もっと傷つけてくれたら、あなたは私のことを忘れなかったのに。」
首に唇を当てると、肩に息を感じた。ため息なのか吐息なのかわからない。ただ、ジオスが熱い。

ぎゅうっと力を込めて抱きしめられる。

「あんたって奴は……」

顔をずらして見ると、ジオスの耳が赤い。

「忘れてない」

小さく、掠れた声。

「部屋に来て」

カトリーヌがそういったら、口を手で覆っていた。
「いいのか」
「どうせほとんど皆、寮に帰ってこないわ」
「そうじゃなくて」

カトリーヌは、断られないと思っていた。ジオスはもう、このまま帰れないって顔をしている。
そんな風にしたのが自分だと思うと嬉しかった。
手を引いて階段を上がるときも、ジオスの足取りがゆっくりなのが気になった。
今までの彼氏はもっと、カトリーヌの体に触れながら、キスをしたり
せっかちな人は抱上げたりしていた。その頃はそれが嬉かった。

求められて、触れられて、好きだよと言われて信じていた。
甘い言葉も、お前だけだよって囁かれるのも。

部屋のドアの前で、足が止まった。

私、何をやってるんだろう。
ジオスが頭に手をおいた。手のひらから温もりか伝わる。
ここで、やめたらこの人はまた居なくなってしまう。
ドアを開けて、引っ張り混んでキスをした。

さっきの熱を忘れないように、一瞬冷静になったのを認めたくないから。

それでも、ジオスは受け入れてくれているけれど、背中に添えられた手は優しい。
さっきみたいに、きつく抱き返してくれない。

「やっぱり、私みたいなのは嫌なの?」

服を握ったまま下を向いて頭をこつんと胸にぶつける。
「なんで泣いてんだよ」

言われて、目から涙が膨れ上がって流れた。

その雫を舐められる。

「あんたが泣いてると、めちゃくちゃにしたくなる。初めて会った時から」
髪をぐしゃりと掴んで後頭部を押さえて、噛みつくようにキスをされる。

少しだけ荒っぽい。首筋に落とされていくキス。

胸元に手が伸びて、ベッドに座らされる。
キスをしたまま、服を脱がせて髪をほどかれる。

頬を両手で挟まれて、じっくりと顔をみられると熱が集まる。

ジオスの顔も。

これが、始まりならいい。

肩の丸みを指が滑っていく。
トントン、とピアノを弾くみたいに。

あ、きれいな指をしている。
そう思ったら、その指が身体中を探っていって熱を灯すみたいに蠢くたびに、
自分が楽器みたいに知らない音を出しているのが恥ずかしくて同時に気持ち良かった。
きれいな優しい指が、外側から内側から今までを作り替えていくように。

胸の先を吸われて息がヒュッと鳴る。

指が水音を立てるたびに深いところがもっと欲しがっている。
キスをしたら舌が指と同じような動きをして、もうどこからも蜜が溢れている。

ジオスに服を脱ぐように手でスリスリと胸元から撫でたら、渋々というように裸になった。
肌がくっつくと少し湿っていて、肌が当たるたびに皮膚もビリビリと気持ちがいい。

一度、カトリーヌだけ達してから指を抜いて、熱そのものを埋め込むように少しずつ体重をかけてきた。
腰がくっついて、距離がなくなった。
腰も胸も頬も全てが溶けるみたいにくっついて、
大きくため息をついたあとにジオスが、ふっと笑った。

「どうし、たの」

「気持ちいいのと、ホッとしたのと、温かいのと、色々」

カトリーヌも、ふふっと笑った。

「おんなじ」



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