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心得7 「来なくなった客のことは責めない、ただし自分のことも責めない」

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カイが朝の訓練にやって来たとき、ヒューゴは声をかけるのをためらった。

見るからに機嫌が悪い。刃物のように切れそうだ。
普段は仕事の特性もあり、感情を押し殺すような奴なのに。
短剣を投げて的に当てている。
表情が完全に殺し屋である。

数日間朝の訓練に来なかった。
最近は夜間の巡回の仕事を多めに入れているらしい。
「最近、詰めすぎじゃねえの?」

「仕事してる方が、夜は余計なこと考えないで済むから」

そう言っていた。

ーーーーーー
上司に呼ばれたのは久しぶりだった。
東の大陸での任務を打診された。カイの容姿なら溶け込める。
断ることはできない。
期間は三ヶ月。

(ちょうどいいかもしれない)

カイは耳のピアスに触れた。銀色の立方体には文字が刻んである。何か決断をするときや考えるときは一族のルーツを示すそれに触るのが癖だった。

「行きます。」

三ヶ月あれば変わっているだろうし忘れているかもしれない。俺もあいつも。

すぐにでも出立できると答えてから、商会に支度を整えに行った。

ヒューゴもカイが行ってから知った。
他の団員も。

お姐さんたちが他の団員にカイのことを聞いてからリナは知った。
カイが来なくなって三週間がたっていた。

もう落ち着いてお姐さんのお世話をしたり宴席に出ていた。
お酌をしたり、お客の隣に座るのもできるようになった。

「あの娘、リナちゃんだっけ?大人っぽくなったね」

客のなかにはリナを品定めする者もいる。
年齢的にも宴席の態度でも、そろそろ客を取っていると思われている。

カイのことは夢のように薄れていった。

「リナ、お疲れ様。最近頑張ってるわね。」

「ありがとうございます」

「今日、お客様に聞いたんだけど。カイさんは別の大陸に行ってるらしいよ。だから来ないんだと思う。」

「大丈夫ですよ、もう平気です」

もう、ここには来ないのではないかとリナは思っているし他の女たちも感じている。
それでもリナが忘れていないことを知っているから、優しい嘘を本当にしようと思っている。
だってここは、嘘と夢の街だから。都合のいい夢物語が許されないと何を希望にして日々を送ればいいの、と女たちは思っている。

好きだとか綺麗だとか、言われた言葉を鳥籠に入れて時々愛でるような生活だから。
空っぽの鳥籠には、きれいな甘い嘘が似合う。

リナも、それを知る側に片足を付けようとしていた。










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