上 下
6 / 6

過ちはいつまでも味のするガム(2)

しおりを挟む
石原とはある歌会で出会って、というか、僕が終崎だと見抜かれてしまって。その時は作風を擬態してるつもりだったので、少々へこんだ。

彼は目立って美形というわけではないが、街中ですれ違えば十人中、六人が「あ、今の人ちょっとカッコいいな」と思うだろう。

男の場合、ここまでこぎ着けるのが難しいのだ。

女の子なら、十人中六人が可愛いなと思う子なんて山ほどいる。
場所によってはすれ違う子がみんな可愛い。
もれなく可愛い。
最低限可愛い。

男は、見られるという意識すら持たない層も多い。

僕なんて、保護色が常に欲しい。

石原は清潔感とチャラさを両立させている達人なのだ。オシャレ過ぎてもいけない。

量販店のシャツにアウトドアブランドのパンツ、印のない良い品の帆布のバック、意味ありげな小さなシルバーのピアス。

フツーの兄さんですよ、もてあそんだりしませんよ、といった空気を醸し出し、女の子を誘う。

……
雑誌に載ったときは、私服だったそうだが、もっとモード一辺倒というか、夜のオーラが出ていた。

別の雑誌には、小さなカットだったがアロハシャツを着ていた。
スカートをはいているのも見たことある。

初対面で。
なんだか派手な人がいるなと思ったら、目があって、名刺渡されて。相手の名前を詠むという遊びを彼らは仲間うちでしていたらしく、名前を聞かれた。

「ういざきやまと   初めての、崎は山に奇跡の奇、大和魂の大和です」

「俺は石原、たくみ。巨匠の匠ね」

そうして、詠みあった。

#
『ウィークリーマンション先の大和撫子を見るため迂回している』


少し笑ってしまった。目の前の派手な色男と大和撫子の組み合わせ。


僕が出した歌は
「石でさえ孕めと叩きつけるよう蜘蛛は見事な白濁を出す」

「うわあ」

石原がニヤニヤした。


あ、間違えた。
これはウケが良くない。


「君、もしかしたら『終崎』じゃない?」


あああああ。

過ちは、取り返せない。

でもまあ、

結果的に石原くんと会ってから楽しいことも多い。



僕なんかがすいませんって2日に5度は思うけど。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...