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カインは困惑している

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「師匠のヘタレ……」

自室に戻ってからため息とともに呟いた。
ギリム様は相変わらず気さくな人だった。

ミラは。
思っていたより小さくて。

師匠が心配していたような妖艶さは無かった。

ただ、お菓子を食べる様子が

かわいくて目が離せない。

カインは顔に出ないように表情筋を固くした。

カインは子供の頃に飼っていたウサギに餌をやりすぎて抱いたり構いすぎて、体調不良にしてしまったことがある。
両親から叱られ、小動物禁止令が出た。

可愛い生き物を触りたいし愛でたいけれど、怖さも知っている。

ミラは王都で男性と素敵な出会いをしたいらしいが、僻地育ちの世間知らずだ。変な男に引っ掛からないように気を付けようと思った。

師匠も、ミラなら大丈夫かもしれない。
それでももし、師匠がミラを気に入って、ミラも師匠を気に入ってしまったら。ここの使用人たちは全力で嫁にしようとするだろう。

それは嫌だなと思った。それくらいなら俺が……

いやいや今日会ったばかりの子、それも子供に何を考えているんだ俺は。

とりあえず疲れているだろうし王都で知り合いも居ないだろう。そんな子につけこむような真似は最低だ。

師匠が言っていたような美人ではないけれど、ひっそりと咲く花のように可憐で儚げな雰囲気のある

まあ、可愛い。
可愛いけど、だからといって年上の男性が急にベタベタ近づいても怖いだろう。節度をもって、ミラが快適に過ごせるようにしてやろう。


でも俺は大抵顔が怖いとか冷たそうといわれる。

ギリムがニヤニヤしているのが見透かされているようで嫌だった。
『うちの娘、可愛いだろー。やらんぞ』
とでも言っているかのようだ。

両方の師匠の手前、目につくところで可愛がる訳にはいかない。

部屋をノックしたけれど返事がない。そっとドアを、押して覗いてみると、テーブルのところに頭が見えた。

考えるより先に体が動いた。頭を抱き起こして
魔術で調べるとミラは眠っているだけだとわかったので、その場にそっと下ろした。
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