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ミラと師匠

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「お師匠さま、言い残すことはありますか?」

箒を逆さに持って邸の裏口でミラは笑って言った。
目は笑っていない。

「悪かった」

「何度言えばわかるんですか」

「悪かったって。もうしない」

「女の人と遊ぶのを止めろとは言いません。せめて、香水と化粧の匂いを取ってから帰ってきてください。飛竜たちが困っています」

小屋の方からミラを援護するように唸り声がする。
人工的な香りに体調を崩してしまうのだ。
ミラが薬草を与えて機嫌を治してくれる。
「わかった、今度から化粧の薄い町娘か騎士にする」

「反省してませんね?」

箒の先を師匠の鼻先に向ける

「してるしてる。
そうだ、しばらくお前を王都の知り合いに預かってもらうから。しばらく俺のことは気にしなくて良いぞ!王の頼みで出掛けるからな」

師匠、ギリムは素早く邸に入ろうとする。ミラは師匠の三つ編みを掴んだ。
「お前、尻尾みたいに掴むなよ」

「王都!?私が王都に!?
やったあ、師匠ありがとう!」

「まあ、ちょっと気難しい奴だけど悪いようにはしないだろ」

「どなたのところですか?貴族ですか?行儀にうるさい方ですか」

「王宮魔術師のワイアットだ。堅苦しいが悪い奴じゃない。」

「黒髪ですか?美形ですか?」

「……なんでおっさんの容姿が気になるんだ」

「目の保養です!」

「まさかお前、俺の事もそういう目で見てたり」

「するわけありません。失望しかしません。私は真面目で一途な旦那さまと運命の出会いをするんです。王都で。」

「そんな男いるわけないだろ。だいたい出会えるわけが……」

「こんな僻地にいたら若い男どころか人間すら見ませんから。王都なら若い雄がたくさんいます」

「若い娘が雄とか言うのは止めろ。萎える。家畜と竜の世話しかさせてないもんな。教育間違ったわー俺」

「竜でさえ番うのに私には汚れた心の師匠しか側にいないって不幸ですよ。はっ、まさかワイアットさまも同類ですか?」

「いや、あいつはクソ真面目で潔癖だ。」

「素敵じゃないですか!
待ってください、もしかしてワイアット様には弟子がいたりしますか
?」

「……様付け、だと?
弟子は……いたような。
まあ部下?的な者は王宮にも邸にもいるだろうな」

「魔術師の弟子はいないのかな。」

「なんでお前そんなにこだわるの」

「兄弟子って憧れなんですよ。王都で美味しいものを買ってくれたりお土産くれたり、自分の分のデザートをくれたりするんですよね。あと、守ってくれたり」

「そんな話は聞いたことがない」

「師匠の元カノが、兄弟子と結婚するっていう報告をくれたときに散々ノロケを聞きました!遊ぶなら師匠みたいなタイプだけど結婚は違うって言ってました!」

「……ミラ、それは兄弟子と言うより惚れた女にだからしてたんだと思うぞ。まあいいや。ワイアットのとこにいる奴はどうせ真面目で面白くない奴だと思うけどな」


ミラには言わなかったけど、そういえばワイアットのところに弟子がいたような気がする。
真面目そうな、黒髪のちょっとつり目の体温が低そうな……。

あいつも女嫌いじゃないのかな。
まあいいか。




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