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こんなに変わるとは

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その日のエリオットはおかしかった、と後に職場の人間は口を揃えて言った。

机にガンガンと頭をぶつけたかと思うと、幸せそうに微笑んだり、
落ち込んだり、口を手で覆って赤面したり

どうかしたんですか?と聞くまでもなく何かあったのだと思う。
聞いてしまったら、今までのエリオットのイメージが崩れるようなことがあるかもしれない。リアクションに困る。知らん顔で黙っていようと思った。
みんな、興味はあるけど自分が生け贄になる気はなかった。つつかないほうが良い藪もある。
仕事さえ終わればそれで良い。
そんな風に有能な部下を育てたのはエリオットだ。私情をもちこまない、仕事に集中するべき。
無理な残業はないし、遅れはサポートしてくれる。クリーンで理想的な上司だった。
だから部下も「エリオット様を紹介して」という身内や友人からの願いを断ってきた。
「仕事にそういう私情を挟むのを何より嫌う方なので」
と。
でも今のエリオットは明らかに。

定時に皆が帰った後にもエリオットは残っていることが多い。
最近は早く帰っていたようだが

帰る間際に見たエリオットはそわそわして頬を赤らめて

「色気垂れ流すのやめてほしいよな、エリオット様は顔が良すぎる……」
部下たちは一杯飲んで帰ることにした。帰っても一人で気にしてしまうのは目に見えていたから。

エリオットも悩んでいた。
まっすぐ帰ってリズに会いたい。でも恥ずかしいから会いたくない。たぶん
「ただいま」
「お帰りなさい」

のやり取りをしたら、朝のようにまた脳が沸騰して使い物にならない。仕事じゃないから使い物にならなくても問題ないが、夜に頭の働きが悪くなるというのは理性のタガも外れるということで
思春期の少年のような欲望を野放しにしてしまったらどうしよう。うちにはリズがいるのに。まさか自分に限ってそんなことはないと思うが、一応保険として求婚をしておくべきじゃないだろうか

「ものすごく処理速度の速い脳がくだらないことを堂々巡りすると、無駄遣い感が凄いな☆」

背後から頬をツン、とつつかれて、
悲鳴をあげるエリオット

ウインクしているアレン。
「お前、どこから、いつまでっ!?」

「いつから居て、どこまで聞いたかって?
廊下まで聞こえてたよ」

「ひっ」

アレンは『ひっ』だって、あのエリオットが!
と声を殺して笑っている。

「聞かれたからには仕方ないが、この間の夜会の令嬢と結婚する」

「そうなんだ、急だな。おめでとう。まさか、結婚を早めないといけない事態に?」

「ああ、早めたい。明日にでも娶りたいくらいに。」

「え、まってどういうこと」

「結婚しないと毎朝心臓が持たないしキスしてしまいそうだ」

「ちょっと待て、本当にどういうこと」
アレンは辛抱強く聞き出した
「早く求婚して結婚しないとリズが鈍感すぎて逃げてしまう」

「……話を整理しよう……さっき結婚するって言ってたけど、二人は恋人ではないんだよね?なんで結婚どうこうの話をしてるんだ」

「結婚するのは確定事項だからだ」

「は?いやいやいや、そうとは限らないよ」

「なぜだ」

これだから!顔と頭と家の良い男は!

「フラれる時は一瞬でフラれるよ。恋人でも婚約してても」

エリオットがガタガタ震えだした。

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