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銀の魔法使いと花売りの娘

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この王国において、彼のことを知らない人はいないだろう

銀色の髪とスミレ色の瞳をもつのは、唯一孤高の天才と呼ばれる彼、シリウス様だけ。

いつも冷静沈着な彼が息を荒くして路地裏に走り込んできた。そのまま壁にもたれて座りこんでいる。

遡ること数分前。

花売り娘のセーラは、薄暗がりに座っているのを病人かお年寄りだと思った。
髪の毛が灰色に見えたから。
「お水いりますか?少し待ってて下さいね」
広場で売っていたレモン水を買って、その人に差し出した。
「大丈夫ですか?」

顔をのろのろと上げたその人は、若かった。そして美形だった。
銀髪に、スミレ色の瞳。
絵が飛ぶように売れ流行歌にも出てくる、魔術師団長のシリウスだった。

魔法の進化において、彼の功績は大きい。
 噂では王女殿下と結婚すると聞いた。
そんな雲の上の人に、屋台の水など差し出してしまって良かったのかとためらった。

それでも、彼が震える手を出してくれたから信頼してもらえたことが嬉しかった。
一口、二口、と水を飲む彼に見とれてしまった。

少し息を整えたように見えたが、まだ片手で胸を押さえている。
「もしかして、毒でも……?」

「君のお陰で少し中和された。ありがとう」

声が素敵で、耳が溶けるかと思った。
「落ち着いたらまた礼にくる。名前を教えてくれないか」

「いえ、私はただの通りすがりですし、はじめはご老人が発作かなにかで座っているかかのだと思って。大したことはしていませんのでお礼などいりません。お気遣いなく。
シリウス様」

「俺の名前を知ってる……?まさか」

「誰でも知ってます。子供でも知ってるくらい有名です」

「そうか、はは」

まだ苦しそうだ。

「君は、春の匂いがする。」

「?えーっと、花の匂いだと思います」

足音が聞こえて、シリウス様が身動きした。
辛そうにしていて汗が見えたのでハンカチで押さえたら、周囲が光りシリウスに抱きしめられた。



「……、これは、何ですか」

「すまない、安全なところに転移した。君を巻き込んでしまったが残すわけにも、俺は狙われていて」

「辛いなら話さないでください」

「ここは、俺の屋敷なので安全、」

ベッドの上で、手を離して意識を失った。

セーラも、初めての転移魔法に疲れたのか眠ってしまった。


気がついたら、胸を触られていた。
裸だった。

「!」

なに、これ

背後から抱きしめられて好き勝手に触られている。

振り返って、悲鳴が引っ込んだ。
シリウスがキスをしてきたから。

「やめてください、なんで」

「いい匂いがして我慢できない」

理性を失った目をしていた。
毒ではなくそういう作用の麻薬でも使われたかのような。

セーラは怖かったけれど、別にいいかと思った。

普段の生活では出会えないような人だし。

最近は父親がセーラを値踏みするようにみてくる。男性を家につれてきてセーラに接待させて、上手いことを言って借金をしているようだ。
酒浸りの父親にいつか売られるのだと思う。

「いいですよ、シリウス様の好きにしてください」

一瞬、目の光が落ち着き

「すまない」

と囁いたあと、唇に噛みつくようなキスをされた。

そのあとは貪るように愛された。翌日、身体に残った跡をみて悲鳴を上げたのはセーラではなくシリウスだった。

「俺は、何てことを!
すまない」

何度も床に頭をつけて謝るので、苦笑いしかできなかった。

シリウス様は、なかったことにしたいんだろうなと思った。
「大丈夫です、そのうち消えます」

「何日でもここに、滞在してくれ。命の恩人に俺は何てことを」

「もういいですから。シリウス様が無事で良かった」

シリウス様の婚約を潰したい勢力が媚薬を盛ったらしい。

「君は、本当に……」


「すみません、少しだけ、眠らせてください」

ゆっくりと髪を撫でてくれる手と、何か言ってる声が聞こえたが眠りに落ちていった。


目覚めると、シリウス様からプロポーズをされていた。

まだ夢を見ているのかと思った。
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