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シーカー子爵は暗躍できない

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「……シーカー殿、今日は資料を頂ける筈でしたよね」

「あ、すみません。うっかり忘れたみたいで。先に研究所のほうに送ったので、また写しをもらってくださいね」

宰相の執務室。
アルダールが笑顔で話してはいるが、怒りでひきつっている。

「寒冷地に適した植物の品種改良の試算と、去年のデータをくださいってお願いした筈ですが」

「なので、送り先を『うっかり』間違えました!」

「良い大人が『うっかり』で済みますか」

「実際に品種改良をする研究所の職員の方が私の値打ちをわかってくれますので『ついうっかり』しました。世事に疎い学者なもので!机上で論じられても無駄ですので」

眼鏡の奥で人の良さそうな目が笑っている。

アルダールは苛立った。
本当に、この人のこういうところは変わっていない。

「大人げない……」

「何ですか」

「相変わらず大人げないって言ったんですよ!今度は何を根に持ってるんですか」

「植物学者をディスってるんですか?」

「一般的な言い回しでしょう。ネチネチネチネチ。アイリス嬢は知ってるんですか?あなたがそんなに大人げないこと」

「そんなこと、君に関係ないだろう」

プイッて!
そんな態度を仕事中に取るなんて

「じゃあ聞くけど、君と弟のどっちがアイリスの相手なんだ?
どっちがアイリスを泣かせた?」

……は?

「待ってくれ、相手って。私は彼女と何もないから、消去法で弟だろうが……」

「そっか。アイリスを傷つけるような奴は父親として認めるわけにいかない」

「そんなことを根に持ってるのか」

「そんなこととは何だ!」

「うちの弟なんか、アイリス嬢に全く相手にされてないんだぞ?こっちこそ根に持ってもおかしくないくらいだ」


「二人とも、静かに」

宰相が入ってきた。

「アルダール、ボルクが不憫だからやめてくれ。
シーカー殿、長男が失礼した。次男はこいつほど口が上手くないがアイリス嬢のことは真剣に考えているようだ。
いずれ断られるにしても、シーカー殿ではなくアイリス嬢から直接聞いた方が本人も立ち直りやすいと思う。
親として、しばらく見守ってくださるとありがたいのだが」

シーカー子爵も、頬をかいた。

「私も大人げない言動をしてすみません。
アルダール殿も申し訳なかった。」

「いや、私もつい言葉が過ぎました。」

「以前、王女殿下に講義したときにアルダール殿に妬まれて嫌みを言われた事を思い出してしまって……」

「そういうところが根に持つって、言ってるんですよ!」

「根は大事だろう!」

「だからアンタと話をするのは嫌なんだ!」

貴公子と呼ばれるアルダール
癒し系と呼ばれるシーカー子爵。


どこがだ、と宰相は思った。でも言わなかった。本物の大人なので。

シーカー子爵は表立って行動してしまうので、いつも暗躍できない。

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