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それくらい大事な人ができたらいいと思った

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シュラクは部屋を出て声のする方へ進んだ。

カイの名を呼ぶ声がする。
部屋の前で話を聞いた。

感動に震えていると、カタカタという音が聞こえた。
あれ、俺戸に手を置いてたっけ。と思ってみたが、自分ではない。
振り返ると、カイが反対側の端で戸にもたれていた。
その震えが伝わっていた。

「あのバカ……」

赤くなって口元を抑えている。
「カイさん……」

「見んな」

キッ、と睨まれて

ああ、やっぱり、と思った。

黒い服、龍の刺繍。
「俺が惚れたのはアンタだった」

「それは俺じゃない。」

「女にフラれて絶望して任務中に殺気を放っている、それを美しいと思ったんだ。」

「だからそれは、俺じゃない」

「俺なら絶望したあんたでも愛せる」

「は?」

じりじりと追い詰められて、顔の横に両手を置かれる。

体もデカイし顔の良い奴が迫ってくる。

これは一撃打ち込んで逃げようと構えたときに、もたれていた戸が開けられた。

「何やってんだ、お前ら」
ヒューゴが戸を開けた。カイが後ろに倒れ込むのをヒューゴが支えようと手を出し、シュラクがカイを抱き止めようとする。

なんだこれ。

カイを挟んで、男二人。

「カイさん!」

リナの声に、カイがハッとして身を低くする。

流石の身のこなしに、シュラクとヒューゴは体勢が戻せず、二人で手を繋ぐ格好になった。

なんだこれ。
誰だこいつ。

「カイさん、こんな、こんなの。死んじゃ嫌だー」

抱きついてイヤイヤと首を振る。
カイはゆっくり座って、リナの背中を撫でる。
「リナ、あの頃はちょっと荒れてたんだ。自棄になってて」

「私が、拒んだから」

また、はらはらと涙を溢すのを指で拭う。

「それは違う。自分で決めたことだ。ただ、俺には仕事しかないって、思い込んでた。東の大陸で会った奴に、どうせなら生きるほうがいいと言われて任務を耐えた。もう、危険な任務は減らすつもりだ。泣くな」

よかった、とマリア達がほっとしたところで、ヒューゴが怒鳴った。

「おい、カイ、こいつ何なんだ?さっき言ってたのは。こいつは東の知り合いか?」

「いや、そいつは知り合いの知り合いで、ちょっと人探し、で、」

明らかに怪しい態度のカイ。

「俺はカイさんに一目惚れしただけだ!」

「どういうこと?」

リナが、カイにぎゅうぎゅう抱きついた。

「知らない。あいつが俺を女だと勘違いしてここまで来た。男だとわざわざ知らせるのが気の毒で、言えなかった」

「俺、カイさんなら男でも良いです!」

「お前もう喋んな!ややこしい!」

ヒューゴ姉とマリアはお茶をのみ始めた。

「それにしてもあの男の子、顔が良いわねえ」

「カイさんって騎士団でも後輩に慕われてるんですね」


「とにかく、俺はリナだけ愛してるからお前は帰れ」

「それはわかってる。女に一途なところもかっこいい。」

その時、女将が戸を叩いた。

「皆さん、お客様がいらしてまして。多分この事態を納めて、そちらを引き取ってくれそうな方なのでお通ししますね」

カイとしては、正直誰でもいいから助けてくれという心地だった。

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