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番外編⑥ ご招待

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「ライラさん、迎えに来ましたよ」
予定より少し早く食堂の入り口にキラキラした人がいます。
普通のことをしているだけでも目立つのは何故でしょうか。
何度見ても慣れないのですが、このチャラい、いえ華やかな方がエドガー様の妹の旦那さん。
アルフレッド様はお客様の目を集めています。


今日は家族の食事会ということで招かれています。
なぜエドガー様ではなくアルフレッド様が迎えに来てくださったのかといえば、何かと理由をつけて早退してエリーゼ様に会いたいからだそうです。

大丈夫なのかしら、騎士団。

とはいえ、私もご両親との食事会では緊張してしまうので、その前にエリーゼ様と会えるのは嬉しいです。

今日のためのドレスをエリーゼ様が見立ててくださいました。エリーゼ様の侍女の皆さんが支度をしてくださるそうです。

うちが貧乏な男爵家なので、何もわからず途方に暮れるところでした。
本当に縁のない上流階級で、何が困るのかさえ私にはわかりません。
エドガー様は優しいのですがその点は一切参考になりません。
「ライラは何を着ていてもライラだろう」

そうなんですが。

そうなんですが、少しでも好印象を持って頂きたいんです。
とエリーゼ様に力説しました。

「お兄様はそういうことには興味無さそうですものね」

エリーゼ様も遠い目をして同意してくれました。

「私は学も教養もないですし」

「それは、お兄様は気にしていないのでしょう?」

「ええ、『自分に比べれば皆おしなべて頭の性能が劣っていると感じているから大差ない。気にするな』って」

「お兄様……!言い方!ごめんなさいね」

エリーゼ様が額に手をあてて嘆かれました。

「いえ、でもそれで気が楽になったというか。わからないことは皆さんに助けていただこうかなって。
でも、あの、贅沢がしたいわけではないんですが、エドガー様に少しでも釣り合うようになりたいんです」

付け焼き刃では知れてると思うんですが、と恥ずかしそうにするライラに、エリーゼは温かい気持ちになった。

(お兄様に欠けているものをライラ様が持ってらっしゃるのかしら。よくこんな良い方を見つけたわ)

「ライラ様、私も昔、アルフレッド様に釣り合いたいと背伸びをしたことがありまして」

耳の近くで小声で話す

「えっ!とてもお似合いですしあんなに愛されてらっしゃるのに?」

「アルフレッド様は女性に人気でしたし、華やかな方なので私なんかでいいのかしらと不安でした」

「エリーゼ様でも不安になってらしたんなら、私なんて実感なくて当たり前ですね。」

ぽやぽやとしたライラが可愛くて、これはお兄様が短期決戦で手に入れたのもわかるわ、とエリーゼは思った。

そこからドレスを一緒に仕立てて、今日初めて袖を通すのだ。

「アルフレッド様、エリーゼ様の体調はいかがですか」

「しばらく前はひどかったけど、今は落ち着いているそうだ。」

「うちの業者から進められた産地のレモンなんですが、お料理やレモネード、お湯に浮かべても香りを楽しめるそうです。お屋敷の料理人に渡しても良いでしょうか」

「ありがとう。いい香りだと思ってた。」

エリーゼは少し痩せたけれど、ゆったりとした水色のワンピースを注文していた。首もとも冷えず、お腹も締め付けないもの。

「楽しみですね。」

お腹をゆっくりと撫でるエリーゼと傍らに座るアルフレッドは一枚の絵のようだった。少しずつ母親の顔になっていくのかもしれない。

ライラのドレスは緑色だった。麦畑のようなライラの髪色と、蜂蜜のような瞳の色を引き立ててよく似合っていた。

「お兄様も驚くわね」

ヘアメイクも、エリーゼは既婚者なので落ち着いている。
侍女たちが張り切ってライラを華やかにしてくれた。

「私たち、こういった原石を見るとウズウズします。エドガー様が驚く顔が楽しみです!」

「こんなにきれいにお化粧したことなくて、ありがとうございます。どうしよう、落とすのが勿体ない。このままずっといられたらいいのに」

「夫としては化粧してない素顔を見られるのも特権なんだけどね?ね?エリーゼ」

エリーゼの頬にキスをする。

「アルフレッド様!未婚の令嬢の前でやめてください」

「ええ、ちょっと刺激が強いです。」

旦那様はちょっと特殊ですからね、ライラ様、エドガー様は大丈夫だと思いますよ。

侍女たちが励ましてくれた。


迎えに来たエドガー

「行こう」

「お兄様、ライラ様を見て何かおっしゃることはないの?」

「よく、似合っている?」

なぜ疑問形。

「もっとあるだろ。可愛いとか綺麗だとか」

アルフレッドが言った

「お前が先にライラを見たことが許せないんだが、更に今誉めたか?そのチャラチャラした軽口しか言わない口で、俺のライラを?」

室内の体感温度が下がった。

「一般論!一般論だし、俺はエリーゼを言葉を尽くして誉めちぎってきたから、癖で!そう!他意はない」

「そそそ、そうですわ!」

二人が慌てている横で、

「俺のライラ、おれのライラ……」

赤い頬を押さえてポヤーッと
しているライラ。

(これくらい天然な人じゃないとお兄様の溺愛は無理だわ!怖い!兄ながら引くわ!)

と、溺愛されているエリーゼは思った。

両親との食事会も和やかに進んだ。
両親は、エドガーが結婚相手を見つけてきたというのを実在するのか半信半疑だったので、まずライラに感謝した。

「うちの息子、言い方がきついし難しいことばかり言って困らせてないかしら」

「え、いつも率直に言って下さるので助かります。私が話すとりとめもない事をよく聞いて下さいます」

エドガーが
女子の話を聞く……だと?

婚期になって寄ってくる令嬢を
『は?』
『時間の無駄』
『結論は?』
『で?』

って会話を強制終了させていた息子が!

両親も使用人も感涙した。

「エドガー様、このお魚はこのカトラリーで合っていますか?」

「ああ。しかし少し力がいるな。これを食え」

フォークで出されたものをライラはパクッと口にした。

しまった、

皆さん固まっていらっしゃる

「すみません、マナー違反でしたよね」

しゅんとするライラ。

エドガーが、あーん!?


メイドがお茶のワゴンにつまづき、エリーゼがカトラリーを落とし、執事が手を滑らせて呼び鈴を落とした。

「堅苦しく考えなくていい。自然体のライラでいい」


あなたが一番不自然なんですけど?
と一同の心拍数は上がり続けた。
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