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こんなに荒れるなんて知りません

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差し出した手は空中を搔いて、力なくベッドに投げ出された。

「エリーゼ、もっと、見せて」

うっとりとした声で呼び掛けられても、エリーゼの口からは荒い息が繰り返される。

ベッドに縫い止められるように押さえつけられて、ずっと深いキスをされている。

なぜ彼がこうなってしまったのかわからない



今日出席する夜会のために迎えに来てくれた。ぴったりと寄り添って囁きかけて、お兄様に見せつけるように連れだした。

先日、アルフレッド様が婚約を以前から打診していたと知って両家の話し合いが持たれた。来月には正式に婚約者となる。
それからというもの、アルフレッド様は前よりも甘い。

「俺と結婚するのは確定だからのんびりエリーゼを慣れさせようと思ったけど、伝わってないなら意味ないから。本気で甘やかそうと思って」

過保護というか、夜会では本当に付きっきりだ。

それでも、騎士団の仲間に、呼ばれて離れることがあった。令嬢たちに囲まれている。

飲み物を手に壁際に行くと、一人の男性に話しかけられた。

「エリーゼ嬢、彼の相手はお疲れではないですか?あなたの伴侶として彼は少し奔放すぎるのでは」

視線を向けるように促された先には、令嬢に腕をからめられたアルフレッド様。
笑い声の上がるその一画は目立っていて、チラチラとエリーゼを見る婦人たちもいる。扇で口元を隠しているけれど、多分同情半分、嘲り半分といったところだろう。

「あなたのような貞淑な妻を迎える者は幸運だ。あなたなら夫が愛人を作ろうと文句を言わず控えめにいるだろうから。そう思って求婚する不埒な者が多数いるそうですよ、噂ですが」

ねっとりとした声に、嘲りを感じた。

「私ならあなたをそんなふうに扱わず大切にできると思うのですが」

給仕を呼び止めて、グラスを合わせようとする。

渡される前に、自分でグラスを取って一気に飲んだ。

「エリーゼ嬢?何を……」


「私の伴侶を心配していただく義理はございませんわ」


貞淑、控えめ、レディらしく。


常にそう自分に言い聞かせていたけれど。

止めちゃおうかな、

だって、それは
アルフレッド様に見せたかった姿なんだもの。

息を吸って、男性にもう一言いってやろうかと思った時に

後ろから抱き締められた。肩を抱かれている。

「私の婚約者に何か?」

低い声。

「あ、いや」

「お引き取りください。私のエリーゼには必要ないようですから」


男性は、ぶつぶつと何か言いながら去っていった。

周囲の注目を集めていたけれど、みんながわざとらしくそれぞれの談笑を始めた。

「エリーゼ、顔が赤い」

「そうですか?
さっきお酒を飲んでしまったかも、」

それと、久しぶりに怒ったから?

お酒を勢いよく飲んでしまったけれど、初めて飲む種類だった。胃の底がポカポカする。

「エリーゼ、つかまって。
休憩室に行こう。ね?」

「やだ」

「やだ、って、何それ可愛い、いやダメだって。こんな姿見せられないよ。お願いだからエリーゼ」

体でエリーゼを隠すようにして連れ出した。

「気分は悪くない?」

「気分悪いわ」

「ええっ、横になる?」

「私、アルフレッド様が他の方といるの平気なわけじゃないのよ。」

そのとたん、横抱きにされた。

「酔ってるだろうから、あまり動かさないほうがいいだろうね。少し横になろうね」

言葉は優しいのに目が輝いていて、舌なめずりする狼を思わせた。


そのまま、キスをされて体を触られている。

これは、もしかして結構危ないのでは







    
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