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27. ただの食事

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その日、一人でフレディはランチで混み合っているエデンにやってきた。

アメリアがいないので余計に忙しそうだ。弁当の注文を主にして営業しているらしい。

それでも、やはり混んでいる。

「ああ、フレデリックさん、すみませんが注文少し待っていてくださいね」

「わかった。紙に書いてあとで渡す」

「助かるわあ!」

自分のように注文に悩み、声をかけるタイミングをはかるのが下手な人間は、書く方がいい。

アメリアがいないだけで、ここは騒がしいのにさみしい。

注文を書いて紙を飛ばすと、ヒューッと厨房に飛び、貼りついた。
「フレデリックさん、これ便利ね!次からもこうしてくれる?」

「嫌だ。アメリアが聞いてくれるのが良いんだ」

「それもそうか」

女将は笑った。

「ちょっとあとで頼みごとをしてもいいかい?」

フレデリックは、頷いた。

食事のあと、以前魔術を付与して冷やしたまま運べるカゴを見せられた。

「これの、温かいまま運べるものを作ってほしい。ちょっとね、店に来られない常連さんに唐揚げを届けたいんだ」

大将と女将さんが、頭を下げた。
「ああ、それくらいならすぐにできるが」

二人の様子から、事情があるのだとわかった。
「今すぐできるが、それをアメリアに配達させるなら協力しないよ」

今までにない低い声。
二人は、フレデリックから漏れる魔力に背筋がビリビリした。
けれど反面、ホッとした。
「アメリアには、絶対に運ばせない」

その決意を感じて、フレデリックも魔力をおさえる。
「すみません、アメリアのことになると自制できないみたいです。僕が運びましょう」

「いや、それは」

「僕なら、運べる場所だと思う。温かいまま渡せます」

女将さんと大将は、顔を見合わせた。

「よろしく頼みます。」


「それと、たぶん魔術師が結界を見張ってるから毒味という賄賂に、少し多めに唐揚げもらえますか?」

大将は笑った。
「フレデリックさんも人間らしくなったなあ」

「誉めてるのよ、これで」

女将さんがとりなした。

「おかげさまで」


本当に、この店とアメリアのおかげで。
僕は人間らしくなったと思う。

王宮の使用人の住居棟にフレディはやってきた。

一応結界はある。
壊すのは簡単だけど。
細かい解除の仕方がわからない。ノックの代わりに少し術式を突っついてみる。
自分がここに来ただけで、認識はされているだろうから、誰か来ると思う。

「誰かと思ったらフレディかよ……」

魔術師が三人やって来た。

「魔術攻撃かと思ったら、お前ならいるだけであれだけ警報レベル上がるんだな。若手の訓練に丁度いいな。」

「攻撃の意図はないから、それくらい見抜けよ。誰が張ったの。こんなクズ精度のガバガバ結界」

後方にいた二人の魔術師が
「すみません!!」

と頭を下げた。

「お前、全く後輩指導しないくせに心だけ折るのやめてくれる?」

「それは悪かった。これあげるから」

保温袋を一つ渡す。

「うわっ、何これ熱いじゃん。美味そう」

「唐揚げ」

「中にこれを配達してくるから」


「いやいやちょっと待て、一応ここ監視対象だから、誰も通せないんだよ」

「……それ、冷めないうちに食べなよ」

「フレディ、俺たちは一応組織のなかにいるから命令を無視すると色々とだな、お前にはわからないかもしれないけど、うーん、」

「それ毒味だから、君たちが食べてくれないと困るんだ。監視対象を口封じに誰かが……そんなことになったら困るから結界張ってるんだよね?
困ったなー。毒味、僕がするわけにもいかないでしょ」

「いただきます」

後輩がぎょっとしている

「いいんですか?」

「仕事だからな」

「ついでに中の結界も綻びがないか見てくるよ」

フレディはスタスタと中には入っていった。

「なんであの人結界に入れるんですか!」

「え?お前ら見てなかったの?術式書き換えてたぞ。詠唱なしで光の速さで」

「さすが塔の妖怪……魔力暴走で人を殺して塔に幽閉されたって本当ですか?」

ムシャムシャ唐揚げを食べながら後輩が聞く。

「話が大きくなってるな。アイツはそんなんじゃねーよ。」

「あと、あんなに顔が良いなんて聞いてません」

「それに関しては俺も思う。」

結界の先を見ながら思う。
フレディを起こしたのは誰だよ。勢力図変わるぞ。
まあ、俺には関係ないけど。

中に入ったフレディは、唐揚げを無事に届けていた。


「これは、大将から」

「何であなたが……」

「伝言。『また食べに来てくださいね』って。多分アメリアもそう言うと思う。知らないけどね」

少し痩せたデンバーさんと、彼女。

アメリアが、この店で食事をして恋人になった人たちなの、と嬉しそうに教えてくれたのを覚えている。

「ああ、そうか。君がアメリアさんの」

「あなたが!やっぱり。」

彼女さんがふんわりと笑った。

「アメリアさんに憧れているお客さんも多いから断るのは大変じゃないですか?って聞いたら。お客さんはみんな大切で、恋愛としては考えられないけど、どうしても放っておけない特別な人が出来てしまったって言ってたわ。」

「放っておけない、それは頼りないってことかな、僕が」

「ふふ。それはアメリアさんしかわからないけど。

でも、私もこの人を放っておけないの。不安はあるけど、今ずっと二人でいられるから不幸ではないの。女将さんたちにお礼を伝えてもらえますか?」

もちろん、と二人と握手した。


結界から出ると、魔術師が増えていた。

「なんで増えてるの」

「呼んだんだよ。お前が結界直すの見てろって。」

「そんな大袈裟な」

「めったにないだろ、見るくらいいいじゃねえか、だいたいお前が……
嘘だろ、お前」

後輩たちは、キョトンとしている

「せめて詠唱してゆっくりわかるように直せやコラー!」


後輩たちは、またなにも見えなかった。

「しかも繋ぎ目どこだよ!無駄にいい仕事してんじゃねえー」





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