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「いやぁ…!!」

彼の目に晒され、恥ずかしさに顔が真っ赤になる。
だが、ガエルは構わずに、そこに顔を近付けた。

「ひっ!!」

彼の舌が、あらぬ所を舐め回している。
水音が響き、恥ずかしさに消えてしまいたくなった。
だが、一方で、奇妙な感覚が芽生え始めていた…

舌が中に挿し入れられると、何かが体を突き抜けた。

「ぁん!!!」

「ふっ」と、彼が笑った気がした。
わたしは恥ずかしさに泣きたいのか、それとも、彼が喜んでくれてうれしいのか、
分からなくなっていた。

舌に代わり、今度は指が入って来た。
彼の指が、わたしの中で蠢いている。

「ん、ふぅっ、は、ぁ…!」

抜き挿ししていた指が、奥を擦る___

「ひぁ!ああん!」

思わず声を上げていた。

「ああ、駄目ぇ…!そこ、擦らないでぇ!や、ぁん!」

彼の指がしつこくそこを擦って来て、わたしは声を止める事が出来なかった。
わたしは無意識にガエルに縋り付き、快楽に喘いでいた。

「ふん、子供だと思っていたが、やはり女だな…
相手は誰でもいいんだろう?」

彼の指が責める様に、乱暴に中を掻き回した。
わたしは頭が真っ白になり、否定する事など叶わなかった。
快楽の波に翻弄され、そして、打ち捨てられた。
体に力が入らず、わたしは気を失い掛けていた。


「く…っ!」

苦し気な声、下部の痛みと圧迫感から、わたしは意識を戻した。
ガエルがわたしの足を抱え、中に入って来ようとしている。
わたしは息を飲んだ。

「あ、ああ…!」

恐ろしさに声を漏らすと、ガエルの目がわたしに注がれた。
その目にはもう、怒りは見えなかった。
ただ、苦し気で、そして、困惑している様に見えた。
途端、わたしの内に、愛おしいという感情が沸いてきた。
ガエルの胸に手を這わせ、口付ける…

「止め…!!」

ガエルが苦し気に顔を顰める。
わたしも痛みに息を詰めた。
ガエルが荒く息をし、それから、わたしに口付けた。

それは、これまでの荒々しいキスではなく、いつもの羽の様なキスでもなく…
甘く、誘うような、強請る様なキスだった。
唇から、胸に落とされる。
わたしは喜びに震えていた。

ガエルが腰を動かすのに合わせ、わたしも動いていた。

「あん!あぁ…ん!」


欲望を吐き出した後、ガエルはわたしを抱きしめ、額や頬に優しいキスを落とした。
わたしは安堵と満足感に包まれ、眠りに落ちていた。





目を覚ますと、窓から明るい陽が差し込んでいた。
随分、深く眠っていた様だ。
隣にガエルの姿は無く、あれは夢だったのだろうか?と思ったが、
わたしは何も着ておらず、行為の痕も見えた。

「わたし、ガエルに抱かれたのね…」

胸に喜びが溢れ、わたしは自分を抱きしめた。
だが、ふと、それを思い出した。

「でも…ガエルには、アデールがいる…」

それなのに、どうして、ガエルはわたしを抱いたのだろう?

「ガエルは、怒っていたわ…」

わたしを裏切り者と言った。
わたしへの罰、戒めのつもりだったのだろうか?

ただ、それだけ…
そう思うと、心が冷え冷えとした。
わたしは頭を振る。

「だけど、優しかったわ…」

愛されていると、誤解する程に___


ガチャリと、扉が音を立てて開き、わたしは咄嗟に上掛けを首まで引き上げた。
それを目にしただろうガエルは、一瞬、足を止めたが、
何事も無かったかの様に、部屋に入って来た。

紅茶のトレイをテーブルに置き、紅茶を淹れ、わたしに渡してくれた。

「飲みなさい」

昨夜とは違い、いつものガエルに見えた。
わたしはカップを受け取った。
カップから熱が伝わり、何処かほっとした。
だが、ガエルの方は、椅子に座ると、難しい顔で嘆息した。
重々しい空気が流れる中、口を開いたのは、ガエルだった。

「すまなかった、と言うべきだろうな」

ガエルが独り言の様に零した。
ガエルの顔がわたしの方を振り返る。
彼は困惑の表情を浮かべていた。

「君の真剣な気持ちを、私は踏み躙ったのだろう…責められても仕方は無い。
だが、話して欲しかった。私たちの婚約は、成り行きだったかもしれないが、
それでも私は、君との結婚を真剣に考えていたんだ。
君なら信じられると思えた…」

わたしとの結婚を真剣に考えていた?
わたしは思わぬ言葉に、茫然としていた。
ガエルの方は、怒りが戻って来たのか、厳しい顔つきになった。

「何故、正直に話してくれなかったんだ、シュゼット!
君が本気であの男を愛しているというなら、私は身を引く事も出来たんだ。
それなのに、私を欺き、二人でコソコソ会い、駆け落ちを計画するなど…
私や君の家族がどれ程苦しむか、考えられなかったのか?
君の頭には、あの男しかいないのか!?」

わたしは無意識に頭を振っていた。

駆け落ちだなんて!
それに、ガエルが言う《あの男》というのは、誰の事なのか?
ラザールだろうか?
ガエルが本気で言っているとしたら、とんでもない話だ___!

「ち、ちがいます…ちがうの…!」

紅茶が零れ、手を濡らした。

「わたしが話せなかったのは…怖かったからです…
あなたの口から聞くのが、怖かったんです…」

「私が、何を言うと?」

ガエルは訝しげな顔をし、ベッド脇に座ると、わたしの手からカップを攫った。
わたしは想いが溢れ、泣いていた。

「愛している人がいると…」

面と向かい、ガエルの口から聞かされれば、わたしは崩壊するだろう。
わたしは今や両手に顔を伏せ、咽び泣いていた。

「シュゼット、泣くんじゃない…」

ガエルがわたしを抱き寄せた。
その温もりと支えに、わたしは恐々額を付けた。

「私が君以外、一体、誰を愛しているというんだ?」

「アデール…」

わたしがその名を呟くと、ガエルは鋭く息を吸った。
わたしは再び涙を零した。

「ああ、どうか、おっしゃらないで下さい!
あなたが彼女と一緒になりたいのなら、わたしは身を引きます…
婚約破棄も、わたしの方からするつもりでした。
ですが、あなたの口からは、聞きたくありません!とても、耐えられないもの!」

「いや、聞いてくれ、シュゼット」

ガエルが子供をあやすかの様に、わたしの体を揺すった。
わたしは「いやいや」と頭を振った。

「いいか、君が誰から何を聞かされたかは知らないが、
私とアデールの間に、心疚しいものは何一つ無い。
彼女には、三月前から何かと付き纏われているが、私にその気は無く、はっきりと断っている。
私にとって、彼女は従妹に過ぎないんだ」

わたしはそれを頭で理解すると、目を見開き、ガエルを見ていた。

「それは、真実ですか?
もし、わたしを憐れんでおっしゃっているのなら、結構ですから…
どうか、真実をお話し下さい…」

ガエルが「参った!」という様に、頭を振り、苦笑した。

「君は意外と頑固だな、シュゼット。
今、話した事が真実だ。
私がこれまで、アデールに惹かれた事は無かった、これからも絶対に無い事だ。
その理由は幾つかあるが、一番は、彼女が財産目当てだと分かっているからだ」

何故、「財産目当て」と言い切れるのか?
ガエルは自身がどれ程魅力的か、分かっていないのだ!
疑わしく見るわたしに、ガエルは続けた。

「アデールの事は昔から知っているが、彼女は小さい頃は、家族に習い、私を見下していた。
彼等は、両親と兄が亡くなった途端、手の平を返し、擦り寄って来たんだ。
そういう者たちを、私は一生忘れないだろう。
礼儀は尽くしても、心を許す気はないし、愛など生まれはしない、絶対に___」

断固とした口調に、わたしはそれが真実であると悟った。
それに勇気付けられ、まだ残っている疑惑を、口にした。

「パーティで、人目を憚り、彼女と二人きりになられた事は?」

「パーティに招かれた際、顔を合わせる事はあるが、二人にはならない。
アデールに限らず、他の誰ともだ」

「あなたがパーティに出席なさっていたとは、知りませんでした。
あなたは、わたしを誘って下さらないでしょう?」

婚約者ならば同伴するものだし、声を掛けて貰えるものと思っていた。
だが、ガエルは当然の様に答えた。

「君はパーティが好きではないだろう?
それに、多くは、碌な者たちではない。行かずに済むならその方がいい。
私もパーティには極力顔を出さないでいるが、どうしてもと言われた時だけだ」

確かに、わたしはパーティが苦手だと、ガエルに伝えていた。
だが、ガエルが出席するなら、話は別だ。
それが、何故、彼には分からないのだろう?
わたしは苛立ちに拳を握り締めた。

「ですが、他の女性たちから、あなたを守るのも、婚約者の、わたしの務めですわ!」

感情で、つい言ってしまったが、それは正しい気がした。
恨みがましく彼を見つめると、ガエルが「ふっ」と笑った。

「その通りだ___すまなかった、シュゼット。
だが、私としても、君を若い男共に触れさせたくなかった。
君が誰かと恋に落ちるかもしれない、そんな危険は避けるべきだろう?」

「そんな危険はありませんわ」

「だが、ラザールがいる___」

ガエルが笑みを消し、目を細くした。

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