上 下
33 / 34
最終章

最終話 婚約式はロマンチックに

しおりを挟む



夏の終わりのよく晴れた日。
予定に多少の変更はあったが、この日、
ユベール=ヴァンアズール王太子と、リゼット=グノー公爵令嬢の婚約式が、
王宮の礼拝堂にて執り行われた。

王、側近、重役、来賓、そしてグノー家からは、両親と兄夫婦が出席していた。
厳粛な空気の中、式が進行していく。

誓約書にサインをし、婚約が成立した事が、司教の口から皆に伝えられた。

指輪が運ばれて来て、ユベールがそれを取り、あたしの指に嵌めてくれた。
それは、銀色の指輪で、綺麗な煌めきを見せた。

「お兄様から聞いたの?」

あたしの父は母に銀色の指輪を贈った。
そして、兄も又、フルールに銀色の指輪を贈っていた。
それが、とても羨ましくて、「あたしも銀色の指輪を貰うわ!」と宣言していた。
だけど後々、一般的には金色が多く、銀色の指輪を贈るのは『グノー家の習わし』だと知り、すっかり諦めていたのだ。
だから、まさか、銀色の指輪を貰えるとは思っていなかった。

ユベールはふわりと笑う。

「うん、ちょっとズルしちゃったね、
でも、太陽の君に比べたら、僕は月みたいだからね…
僕が君を守る、誓いだと思って、リゼット」

「あなたって、本当にロマンチストだわ!やっぱり、あなたにして正解よ!」

「そ、そうかな?」

あたしは、戸惑うユベールの手を掴み、金色の指輪を嵌めた。
魔毒が抜けても、まだまだその指は細いが、骨はしっかりしているし、
もう少し肉付きも良くなるだろう。

「サイズが変わったら直すわね。
あなたが、あたしを『太陽』だと言うから、あたしは金色にしたの。
意味はあなたと同じよ、あたしたちって、ロマンチックな者同士ね!」

あたしが自分の指に嵌る銀色の指輪を見せると、
ユベールは自分の指に嵌る金色の指輪を見せ、そして、
うれしそうに、ふわりと笑った。


婚約式が終わると、王宮の庭園で披露パーティが催された。
広く美しい庭園に、白いテーブルクロスを掛けられたテーブルが沢山置かれ、
料理も振る舞われる。
綺麗な演奏の調べの中、沢山の招待客が集まって来ていた。

良き所で、あたしたちの婚約が成立した事が発表された。
そして、ユベールが王太子に任命された事も___

招待客たちは、祝福の拍手であたしたちを迎えてくれた。

皆があたしたちの元へ詰め掛け、祝いの言葉を贈ってくれた。
二週間前とは大違いだ。

あたしはメリッサとジュリエンヌ、それからクリスティナも招待していた。
あたしがクリスティナを招待した理由は、パトリックとの事を心配していたし、
本人は無意識だけど、クリスティナからの情報は役に立ったので、そのお礼だ。

「「リゼット!ユベール王太子、ご婚約おめでとうございます!」」

メリッサとジュリエンヌは笑顔で祝福してくれた。

「三人共、来てくれてありがとう!」
「ううん!こちらこそ、招待してくれてありがとう!」
「王宮の庭園のパーティに来れるなんて!最高よ!」

二人共喜んでくれて良かった。

「二人にはお世話になったもの!」

一件落着出来たのも、メリッサとジュリエンヌの協力があったからこそだ。
バトリスが見つかっていなければ、とても解決出来ていなかっただろう。

「ああ、あのお芝居ね、あれは何だったの?」
「ふふ、それはまた今度教えるわ!
今日は楽しんで行ってね!素敵な出会いもあるかもよ~?」

メリッサとジュリエンヌは「きゃー!」と声を上げ走って行った。
残されたのはクリスティナだ。
クリスティナは素晴らしく着飾っていた。

「クリスティナも来てくれてありがとう」
「ええ、招待を断るなんて、リゼットに悪いもの~、数少ない友達ですものね」

クリスティナはあまり機嫌が良くなさそうで、膨れ面をしている。

「あなた、パトリックとはどうなったの?」
「ああ、パトリック~、あの方、平民になられたのでしょう、興味ありませんわ」

あまりに素っ気無く、パトリックが少々気の毒に思えたが…
パトリックも卑怯な手で女性を手に入れていたものね、自業自得かしらね。
あの断罪の後、パトリックの部屋から、大量に媚薬が発見され、
更に王の怒りに油を注いだのだった。

「それじゃ、愛妾の話は無くなったのね?」
「当たり前よ!私が愛妾なんて!そんなの!全然、似合いませんわ~、
まぁ、あなたにはぁ、幽霊王子がお似合いですけど~」

幽霊王子…
あたしはユベールを見る。
ユベールは振り返り、その綺麗な緑色の瞳をくるりとさせた。

「僕、幽霊王子なんて言われてたの…」
「違うわよ、彼女は少し意地悪なの、あたしは幽霊だなんて思った事無いわ!」
「リゼット、婚約おめでとう、早死にされて後悔しないといいわねぇ」
「ユベールは死なないわよ!あたしが死なせないもの!」
「ええ…と、クリスティナ嬢、今日は楽しんでいって下さい」

ユベールがクリスティナに手を指し出すと、彼女は嫌そうな顔で握手をした。
だが、手を離し、ユベールの顔をチラリと見た彼女は…その目と口を丸くした。

「やだ!リゼット!彼は誰なの!?私に紹介してよ~!」
「ユベールよ、知ってるでしょう?」
「ユベール殿下は知ってるわ、それで、彼は誰なの!?教えてよ~~!」

クリスティナに、彼がユベールだと認めさせるのには、かなり労力を使った。
しかも、彼女はあろう事か、ユベールを誘惑しようとし始めた。

「私~、リゼットの親友でぇ、クリスティナと申します~」
「クリスティナ、挨拶は終わったでしょう、皆待ってるのよ」
「もう~!リゼットの意地悪ぅ!!」

やっぱり、呼ぶのでは無かったわ!!


招待客に挨拶を済ませ、漸く解放されると、
ユベールはあたしに「疲れていない?」と聞いてくれた。

「ありがとう、全然、大丈夫よ!あなたはどう?」
「うん、僕も平気だよ、リゼット…僕と踊ってくれる?」

ユベールに手を取られ、ダンスを申し込まれる。
あたしは何故か顔が熱くなった。

こんなの、変よね??
ダンスなんて、星の数程誘われているし、踊っているのに…
何故、こんなにも、特別に思えるのかしら…

『仕方ありません、恋というものは』

いつかの、義姉の言葉が頭に浮かび、あたしは益々顔を赤くしていた。

「リゼット、ごめんね、体調が悪かった?」

ユベールまで心配し始め、あたしは恥ずかしくて、
「違うわ!」と、その手を取り、ダンス広場へ引っ張って行ったのだった。

明るいテンポの良い曲に乗り踊り出す。
少しは顔の赤味も引いた気がする。
だけど、胸はまだ、どきどきとして煩い…

「君と踊るのが、夢だったんだ…」

ユベールが静かに言い、あたしは彼に目を向けた。
綺麗な横顔だわ。

「あのパーティの日ね?」

婚約が決まった日の夜、ユベールは車椅子で、とても踊るのは無理だった。

「うん、それに、テオたちの披露パーティの時もね…」
「それって、あたしたちが出会った日でしょう?
それなのに、あなたはあたしと踊りたいと思ったの?」
「出会ったのは、小さい頃だけどね」
「そうだけど、あたしは覚えていないもの!」
「うん、僕もちゃんと話したのは、テオたちの披露パーティの時だからね…」
「答えになってないわ!あなたは、あの日、あたしに一目惚れしたの?」

半ば軽口だった。
だけど、ユベールは感慨深い笑みを見せた。

「ううん、あの時にはもう、僕は君を好きだったから…」

ユベールの言葉に、あたしは目を丸くした。

「それじゃ、あなたは一体、あたしをいつ好きになったの?」

ユベールは「いつかな?」と、頭を傾げる。

「小さい頃に出会って、いつも君の事が気になっていて…
君が王宮に来た時には、遠くから見ていたりもしたんだ…
テオに君の事を尋ねたりしていたよ。
それで、結婚式の時に、成長した君の姿を見て…見惚れていた。
披露パーティの時に、君と初めて話をして…やっぱり、好きだと思ったよ」

初めて話した時、あたしは意地悪を言ったのに?

『大きくなった、だなんて!親戚の伯父さんみたいだわ!』

それに、ユベールは、怒りもせずに答えてくれた…

『テオの前だから、君を崇拝し傅く事は出来無いけど、そうしたい気分でいるよ、
見違える程綺麗になって、驚いているよ、リゼット』

ああ、この人はいい人だわって、思ったのよね…
それから、あたしは、ずっと、ユベールに好意を持っていた。

それが、いつの間にか、『恋』になった…

「君は眩しく、輝いていたよ」

ユベールが眩しそうな目をして、あたしを見る。

「いつか、君に好きになって貰えるといいなって、思っていた…」

「それなら、もう、叶ったわね!あたしは、あなたに恋してるもの。
そんなにずっと、あたしを見てくれていたのに、気付かなかったの?
ユベール=ヴァンアズール」

あたしが挑戦的に言うと、彼は笑った。

ふと、お互いの足が止まる。

あたしたちは見つめ合う。

あたしは彼の目の中に、それを見た。

最高の、ロマンチックが始まる予感…


甘いときめきに、胸が震え、あたしはそっと、目を伏せた___



《本編:完》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

【1話完結】断罪と婚約破棄……からの?!

葉桜鹿乃
恋愛
王侯貴族の令息令嬢が通う王立学園の卒業パーティーにて、ユーグレース・ザイン伯爵令嬢は、婚約者のリンク・ユシュグライド第一王子に、キリアン・ルーチェ子爵令嬢を虐めたという虚偽の罪で公の場で断罪され、婚約破棄を申し渡される。 リンク殿下とキリアン様の周りには取り巻きのように控える騎士を目指す男爵令息、魔導師として将来を嘱望される伯爵令息、宰相閣下の息子である公爵令息、教皇令息が控えていた。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載しています。 ※思いつきの1話完結です。 ※色々頭を緩くしてお楽しみください。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。

【完結】悪役令嬢の妹ですが幸せは来るのでしょうか?

まるねこ
恋愛
第二王子と結婚予定だった姉がどうやら婚約破棄された。姉の代わりに侯爵家を継ぐため勉強してきたトレニア。姉は良い縁談が望めないとトレニアの婚約者を強請った。婚約者も姉を想っていた…の? なろう小説、カクヨムにも投稿中。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...