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最終章
最終話 婚約式はロマンチックに
しおりを挟む夏の終わりのよく晴れた日。
予定に多少の変更はあったが、この日、
ユベール=ヴァンアズール王太子と、リゼット=グノー公爵令嬢の婚約式が、
王宮の礼拝堂にて執り行われた。
王、側近、重役、来賓、そしてグノー家からは、両親と兄夫婦が出席していた。
厳粛な空気の中、式が進行していく。
誓約書にサインをし、婚約が成立した事が、司教の口から皆に伝えられた。
指輪が運ばれて来て、ユベールがそれを取り、あたしの指に嵌めてくれた。
それは、銀色の指輪で、綺麗な煌めきを見せた。
「お兄様から聞いたの?」
あたしの父は母に銀色の指輪を贈った。
そして、兄も又、フルールに銀色の指輪を贈っていた。
それが、とても羨ましくて、「あたしも銀色の指輪を貰うわ!」と宣言していた。
だけど後々、一般的には金色が多く、銀色の指輪を贈るのは『グノー家の習わし』だと知り、すっかり諦めていたのだ。
だから、まさか、銀色の指輪を貰えるとは思っていなかった。
ユベールはふわりと笑う。
「うん、ちょっとズルしちゃったね、
でも、太陽の君に比べたら、僕は月みたいだからね…
僕が君を守る、誓いだと思って、リゼット」
「あなたって、本当にロマンチストだわ!やっぱり、あなたにして正解よ!」
「そ、そうかな?」
あたしは、戸惑うユベールの手を掴み、金色の指輪を嵌めた。
魔毒が抜けても、まだまだその指は細いが、骨はしっかりしているし、
もう少し肉付きも良くなるだろう。
「サイズが変わったら直すわね。
あなたが、あたしを『太陽』だと言うから、あたしは金色にしたの。
意味はあなたと同じよ、あたしたちって、ロマンチックな者同士ね!」
あたしが自分の指に嵌る銀色の指輪を見せると、
ユベールは自分の指に嵌る金色の指輪を見せ、そして、
うれしそうに、ふわりと笑った。
婚約式が終わると、王宮の庭園で披露パーティが催された。
広く美しい庭園に、白いテーブルクロスを掛けられたテーブルが沢山置かれ、
料理も振る舞われる。
綺麗な演奏の調べの中、沢山の招待客が集まって来ていた。
良き所で、あたしたちの婚約が成立した事が発表された。
そして、ユベールが王太子に任命された事も___
招待客たちは、祝福の拍手であたしたちを迎えてくれた。
皆があたしたちの元へ詰め掛け、祝いの言葉を贈ってくれた。
二週間前とは大違いだ。
あたしはメリッサとジュリエンヌ、それからクリスティナも招待していた。
あたしがクリスティナを招待した理由は、パトリックとの事を心配していたし、
本人は無意識だけど、クリスティナからの情報は役に立ったので、そのお礼だ。
「「リゼット!ユベール王太子、ご婚約おめでとうございます!」」
メリッサとジュリエンヌは笑顔で祝福してくれた。
「三人共、来てくれてありがとう!」
「ううん!こちらこそ、招待してくれてありがとう!」
「王宮の庭園のパーティに来れるなんて!最高よ!」
二人共喜んでくれて良かった。
「二人にはお世話になったもの!」
一件落着出来たのも、メリッサとジュリエンヌの協力があったからこそだ。
バトリスが見つかっていなければ、とても解決出来ていなかっただろう。
「ああ、あのお芝居ね、あれは何だったの?」
「ふふ、それはまた今度教えるわ!
今日は楽しんで行ってね!素敵な出会いもあるかもよ~?」
メリッサとジュリエンヌは「きゃー!」と声を上げ走って行った。
残されたのはクリスティナだ。
クリスティナは素晴らしく着飾っていた。
「クリスティナも来てくれてありがとう」
「ええ、招待を断るなんて、リゼットに悪いもの~、数少ない友達ですものね」
クリスティナはあまり機嫌が良くなさそうで、膨れ面をしている。
「あなた、パトリックとはどうなったの?」
「ああ、パトリック~、あの方、平民になられたのでしょう、興味ありませんわ」
あまりに素っ気無く、パトリックが少々気の毒に思えたが…
パトリックも卑怯な手で女性を手に入れていたものね、自業自得かしらね。
あの断罪の後、パトリックの部屋から、大量に媚薬が発見され、
更に王の怒りに油を注いだのだった。
「それじゃ、愛妾の話は無くなったのね?」
「当たり前よ!私が愛妾なんて!そんなの!全然、似合いませんわ~、
まぁ、あなたにはぁ、幽霊王子がお似合いですけど~」
幽霊王子…
あたしはユベールを見る。
ユベールは振り返り、その綺麗な緑色の瞳をくるりとさせた。
「僕、幽霊王子なんて言われてたの…」
「違うわよ、彼女は少し意地悪なの、あたしは幽霊だなんて思った事無いわ!」
「リゼット、婚約おめでとう、早死にされて後悔しないといいわねぇ」
「ユベールは死なないわよ!あたしが死なせないもの!」
「ええ…と、クリスティナ嬢、今日は楽しんでいって下さい」
ユベールがクリスティナに手を指し出すと、彼女は嫌そうな顔で握手をした。
だが、手を離し、ユベールの顔をチラリと見た彼女は…その目と口を丸くした。
「やだ!リゼット!彼は誰なの!?私に紹介してよ~!」
「ユベールよ、知ってるでしょう?」
「ユベール殿下は知ってるわ、それで、彼は誰なの!?教えてよ~~!」
クリスティナに、彼がユベールだと認めさせるのには、かなり労力を使った。
しかも、彼女はあろう事か、ユベールを誘惑しようとし始めた。
「私~、リゼットの親友でぇ、クリスティナと申します~」
「クリスティナ、挨拶は終わったでしょう、皆待ってるのよ」
「もう~!リゼットの意地悪ぅ!!」
やっぱり、呼ぶのでは無かったわ!!
招待客に挨拶を済ませ、漸く解放されると、
ユベールはあたしに「疲れていない?」と聞いてくれた。
「ありがとう、全然、大丈夫よ!あなたはどう?」
「うん、僕も平気だよ、リゼット…僕と踊ってくれる?」
ユベールに手を取られ、ダンスを申し込まれる。
あたしは何故か顔が熱くなった。
こんなの、変よね??
ダンスなんて、星の数程誘われているし、踊っているのに…
何故、こんなにも、特別に思えるのかしら…
『仕方ありません、恋というものは』
いつかの、義姉の言葉が頭に浮かび、あたしは益々顔を赤くしていた。
「リゼット、ごめんね、体調が悪かった?」
ユベールまで心配し始め、あたしは恥ずかしくて、
「違うわ!」と、その手を取り、ダンス広場へ引っ張って行ったのだった。
明るいテンポの良い曲に乗り踊り出す。
少しは顔の赤味も引いた気がする。
だけど、胸はまだ、どきどきとして煩い…
「君と踊るのが、夢だったんだ…」
ユベールが静かに言い、あたしは彼に目を向けた。
綺麗な横顔だわ。
「あのパーティの日ね?」
婚約が決まった日の夜、ユベールは車椅子で、とても踊るのは無理だった。
「うん、それに、テオたちの披露パーティの時もね…」
「それって、あたしたちが出会った日でしょう?
それなのに、あなたはあたしと踊りたいと思ったの?」
「出会ったのは、小さい頃だけどね」
「そうだけど、あたしは覚えていないもの!」
「うん、僕もちゃんと話したのは、テオたちの披露パーティの時だからね…」
「答えになってないわ!あなたは、あの日、あたしに一目惚れしたの?」
半ば軽口だった。
だけど、ユベールは感慨深い笑みを見せた。
「ううん、あの時にはもう、僕は君を好きだったから…」
ユベールの言葉に、あたしは目を丸くした。
「それじゃ、あなたは一体、あたしをいつ好きになったの?」
ユベールは「いつかな?」と、頭を傾げる。
「小さい頃に出会って、いつも君の事が気になっていて…
君が王宮に来た時には、遠くから見ていたりもしたんだ…
テオに君の事を尋ねたりしていたよ。
それで、結婚式の時に、成長した君の姿を見て…見惚れていた。
披露パーティの時に、君と初めて話をして…やっぱり、好きだと思ったよ」
初めて話した時、あたしは意地悪を言ったのに?
『大きくなった、だなんて!親戚の伯父さんみたいだわ!』
それに、ユベールは、怒りもせずに答えてくれた…
『テオの前だから、君を崇拝し傅く事は出来無いけど、そうしたい気分でいるよ、
見違える程綺麗になって、驚いているよ、リゼット』
ああ、この人はいい人だわって、思ったのよね…
それから、あたしは、ずっと、ユベールに好意を持っていた。
それが、いつの間にか、『恋』になった…
「君は眩しく、輝いていたよ」
ユベールが眩しそうな目をして、あたしを見る。
「いつか、君に好きになって貰えるといいなって、思っていた…」
「それなら、もう、叶ったわね!あたしは、あなたに恋してるもの。
そんなにずっと、あたしを見てくれていたのに、気付かなかったの?
ユベール=ヴァンアズール」
あたしが挑戦的に言うと、彼は笑った。
ふと、お互いの足が止まる。
あたしたちは見つめ合う。
あたしは彼の目の中に、それを見た。
最高の、ロマンチックが始まる予感…
甘いときめきに、胸が震え、あたしはそっと、目を伏せた___
《本編:完》
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