6 / 29
本編
3
しおりを挟む
恐らくは、あの時から変化は始まっていたのだろう。
それまで健康だったわたしは、体調を崩したり、熱を出す事が増えた。
尤も、最初は軽いもので、変に思う事も無く、気にしたりもしなかった。
十五歳の年、寄宿学校から帰省していたフィリップから「君が好きだよ」と告白された。
それまでも、周囲から「フィリップはシャーリーが好きだ」と言われていたので、
わたしに驚きは無く、ただ、告白された事を喜んでいた。
フィリップはいつも自分に優しくしてくれた。
それに、男爵子息なので、周囲の男子たちとは違い、礼儀正しく、物腰も柔らかく、
真面目で…そういった処も、安心出来た。
わたしは「ありがとう、わたしもよ」と、良い返事をした。
だが、フィリップが直ぐに親に許可を取り、婚約を決めてしまった事には驚いた。
この夏が終われば、わたしは寄宿学校に入る事が決まっていたからだ。
「婚約までする事は無いのよ?」
「婚約せずに付き合うなんて、僕をいい加減な男にしないで欲しいな、シャーリー。
それに、これから君は町を出て広い世界を知るんだから、約束しておきたいんだ。
君を僕以外の男に触らせたくないからね___」
フィリップは男爵子息だから、両親も厳しいのだろう。
わたしが行くのは女学校なので、『無用な心配だ』と思いながらも、彼に合わせた。
お互いの両親の許しもあり、その夏、わたしたちの婚約が成立した。
秋になり、フィリップは寄宿学校に戻り、わたしは女学校の寄宿舎に入った。
離れている事もあり、手紙のやり取りを始めたが、お互いに忙しく、
それは月に一通程だった。
一年目は、寒さや暑さで体調を崩す事はあったが、なんとか授業に付いていけていた。
だが、二年目の冬、寒さで体調を崩し、一月は碌に授業を受けられなかった。
春になり、暖かくなると体調は良くなったが、試験前に無理にした事もあり、
熱で試験を受ける事が出来なかった。
そんな事情もあり、わたしは帰省に合わせ、休学し、実家に戻る事になった。
学校の医師からは、寮生活が合わない、環境が悪いのだろうと言われた。
馴染んだ環境で生活すれば、直ぐに健康になるだろうと。
教師たちからも、「元気になってから通うといいわ」と諭された。
だが、牧師館に戻ってからも、頻繁に体調を崩した。
良くなっている様にはとても思えなかった。
何が悪いのか、何処が悪いのか、分からずに不安だった。
《アエレ》の唯一の医師であるヴィクトルも頭を捻り、検査を受ける様に勧められた。
わたしは自分の病を知りたかったし、治したいと思った。
だが、母が検査を嫌がった。
「少し、体が弱いだけよ、病なんかじゃないわ!
家で療養すれば、元の健康なあなたに戻るわ、シャーリー」
母はわたしを励ましてくれた。
一生懸命な母に、わたしは自分の考えを言う事は出来なかった。
だが、ある夜、両親が話しているのを聞いてしまった。
「やはり、一度、検査をして貰った方がいいんじゃないか?」
「何を言うの!施設に入れられたら、あの子は結婚出来なくなるわ!」
「心配し過ぎだよ、彼女の様にはならないよ…」
《彼女》というのは、母の子供時代の親友、マリエットの事だ。
マリエットの家と母の実家は近所で、家同士、古くから付き合いがあった。
マリエットは、二十歳の時に精神的な病がみつかり、施設に入れられ、
治療を受ける事になった。だが、良くなる事はなく悪化していった。
婚約者は直ぐに婚約を解消し、彼女を見捨てたという。
三年後、施設で病に感染し、そのまま亡くなった___
わたしが生まれた頃の話だ。
母は結婚して以降、疎遠になっていて、手紙のやり取りしかしていなかった。
実家からの知らせで、それを聞かされた時には、酷くショックを受け、苦しんだ。
その事があり、病には特に神経質だった。
「お願い!シャーリーを何処にも行かせないで!」
そんな母の姿を見てしまうと、わたしは何も言えなくなった。
ただ、少しでも状況が良くなる様、神に祈る事しか出来なかった。
だが、それも無駄だった。
わたしは《病》では無かったのだから。
《シャーリーとやら、おまえの命を貰う事にしよう》
《これより、おまえの命は、少しずつ衰えていく》
《それは、おまえの二十歳の誕生日に、完全に尽きるであろう》
妖精の女王との契約だったのだ___
◇
「シャーリー、先生が来て下さったわよ」
すっかり思い出し、頭の中で何とか整理しようとしていた時だ、
部屋の扉が開き、母が医師を通した。
わたしは気持ちが付いていかないながら、寝具からのろのろと重い体を起こした。
老年のヴィクトル先生だとばかり思っていたが、入って来たのは、もっと若く…
見知らぬ男性で、わたしは先の事も忘れ、ギョッとした。
三十歳位だろうか、銀色の髪をきちんと撫でつけ、涼やかな青灰色の目、
整った顔立ちだが愛想は無い。
シンプルだが、仕立てが良いと分かるスーツ、長身でスタイルも良い。
洗練された雰囲気があり、気後れしそうだ。
こんな人、この町にはいない筈だと、はっきり言える。
だが、初対面だというのに、何処か既視感がある…
不思議な感覚に、わたしはつい警戒を見せてしまっていた。
「驚かせて悪かったね、
僕はラウル=アラード、医師で、ヴィクトル先生の手伝いをしています」
無表情で何処か怖そうに見えるが、その声は深く落ち着いたもので、
耳心地も良く、すっと胸に落ちた。
ヴィクトル先生の、手伝い…?
ジェシカはお喋りなので、大抵の事は話してくれていたが、
診療所に手伝いの人が来ているという話は、聞いた事が無かった。
尤も、ジェシカとは、ここ二週間程会っていない。
ジェシカは去年から、隣の大きな町の仕立て屋で、住み込みで働いていて、
時々しか帰って来ないのだ。
「シャーリーです…」
「シャーリー、君は数日熱を出していたそうだね、昨夜はかなり高熱だった___」
彼の話から、昨夜来てくれた事が分かった。
いつもなら、ヴィクトル先生が来てくれるのだが…
「あの、ヴィクトル先生は、何処かお悪いのですか?」
心配になり聞くと、ラウルはすんなりと頷いた。
「ああ、ヴィクトル先生は老年だから、何処かしら悪い所もあるだろう。
昨夜は遅かったから、僕が来させて貰った。
ついでに言っておくと、今ヴィクトル先生は診療所で、外回りは僕が受け持っている」
「そうですか、余計な事を訊いてしまって、すみません…
ヴィクトル先生に何かあったのかと、心配になって…」
「いや、心配事があるのは良くない、聞いてくれていい。
君が心配してくれたと知れば、ヴィクトル先生も喜ぶだろう、少し診よう」
ラウルがその大きな手をわたしの額に当てたので、反射的に、ギクリとした。
「熱は下がったな…少し触るよ」
その手が、わたしの首筋や顔に触れる。
それはヴィクトル先生と似ていて、次第に緊張も解け、落ち着いた。
「異状は無い様だ、痛い処はある?何か気になる症状は?」
「いえ、ありません…」
「頻繁に体調を崩す事があるそうだね、一度検査を受けてみてはどうかと思うんだが…」
ラウルの言葉に、わたしは過敏に反応してしまった。
「必要ありません!」
「病の原因が分かれば、治療法もみつかるかもしれない、
君は若いし、今なら治療にも十分に耐えられるだろう…」
「わたしの事は放っておいて!」
わたしは彼に背を向けた。
何処が悪いのか、何が原因なのか、わたしが一番良く知っている。
そして、決して、良くなる事が無い事も___
今のわたしは、絶望に打ちひしがれ、失礼な態度を取っている事も気にならなかった。
「それでは、良く食べて、もう少し太りなさい。
それから、体調の良い時には少し運動する様に、陽に当たるのもいい、
だけど、無理はしない様に。何かあれば、遠慮なく相談して欲しい___」
ラウルは静かに部屋を出て行った。
わたしは膝を抱き、声を殺して泣いた。
◇◇
二十歳の誕生日に、わたしの命は尽きる。
どんな治療を受けても、どんな薬を飲んでも、その運命は変わらない。
検査など無意味だ___
わたしは部屋に閉じ籠り、独り、絶望の淵にいた。
やって来るその日を思い、怯えた。
そして、色々な事が頭に浮かんでは、わたしを苛んだ。
両親、弟。
親友、友達…
そして、婚約者___
あれから、三日が経っただろうか…
牧師館に一輪の花が届けられた。
わたし宛だと書かれた物は何も無かった。
だが、わたしが閉じ籠っていた所為か、両親は喜ばせようと、わたしにそれを持って来た。
「シャーリー、あなたにお花が届いているわよ!きっとフィリップからね」
フィリップは記念日には、沢山の花束を贈ってくれる。
だが、一輪だけというのは、初めてだ。
それに、メッセージも無い。
だが、それを言うと両親を困らせると思い、わたしは笑みを作り受け取った。
それは、目にも鮮やかなオレンジ色の大輪の花で、茎に薄いピンクのリボンが結ばれていた。
「素敵…フィリップにお礼の手紙を書くわ」
「それがいいわ、でも、熱が出た事は言っては駄目よ、心配させるでしょうからね」
「はい、お母様」
母が部屋を出て行き、わたしはクローゼットを漁り、奥から小さな一輪挿しの花瓶を取り出した。
だが、少しだけ逡巡し、それは奥に戻した。
わたしは使っていないカップに水を入れ、リボンを解くと、花を挿し、窓際に置いた。
あの日、レナから貰った花を思い出したからだ。
窓際に飾ると、家が分かると言っていた。
これは花畑の花ではないが、飾っていると、レナが来てくれるのではないかと思えた。
レナと話したい。
この事を話せる相手は、レナしかいない___
だが、レナを困らせるだけだろうか…
レナはあの時、わたしを止めてくれた。
それを聞かずに、女王と契約したのは、わたしだ___
「受け入れるのよ、シャーリー」
自分の運命を。
恐ろしかったが、そうするより他なかった。
「二十歳までの、残された時間を、大事にするの…」
わたしは鏡の中の自分を見つめ、言い聞かせた。
それまで健康だったわたしは、体調を崩したり、熱を出す事が増えた。
尤も、最初は軽いもので、変に思う事も無く、気にしたりもしなかった。
十五歳の年、寄宿学校から帰省していたフィリップから「君が好きだよ」と告白された。
それまでも、周囲から「フィリップはシャーリーが好きだ」と言われていたので、
わたしに驚きは無く、ただ、告白された事を喜んでいた。
フィリップはいつも自分に優しくしてくれた。
それに、男爵子息なので、周囲の男子たちとは違い、礼儀正しく、物腰も柔らかく、
真面目で…そういった処も、安心出来た。
わたしは「ありがとう、わたしもよ」と、良い返事をした。
だが、フィリップが直ぐに親に許可を取り、婚約を決めてしまった事には驚いた。
この夏が終われば、わたしは寄宿学校に入る事が決まっていたからだ。
「婚約までする事は無いのよ?」
「婚約せずに付き合うなんて、僕をいい加減な男にしないで欲しいな、シャーリー。
それに、これから君は町を出て広い世界を知るんだから、約束しておきたいんだ。
君を僕以外の男に触らせたくないからね___」
フィリップは男爵子息だから、両親も厳しいのだろう。
わたしが行くのは女学校なので、『無用な心配だ』と思いながらも、彼に合わせた。
お互いの両親の許しもあり、その夏、わたしたちの婚約が成立した。
秋になり、フィリップは寄宿学校に戻り、わたしは女学校の寄宿舎に入った。
離れている事もあり、手紙のやり取りを始めたが、お互いに忙しく、
それは月に一通程だった。
一年目は、寒さや暑さで体調を崩す事はあったが、なんとか授業に付いていけていた。
だが、二年目の冬、寒さで体調を崩し、一月は碌に授業を受けられなかった。
春になり、暖かくなると体調は良くなったが、試験前に無理にした事もあり、
熱で試験を受ける事が出来なかった。
そんな事情もあり、わたしは帰省に合わせ、休学し、実家に戻る事になった。
学校の医師からは、寮生活が合わない、環境が悪いのだろうと言われた。
馴染んだ環境で生活すれば、直ぐに健康になるだろうと。
教師たちからも、「元気になってから通うといいわ」と諭された。
だが、牧師館に戻ってからも、頻繁に体調を崩した。
良くなっている様にはとても思えなかった。
何が悪いのか、何処が悪いのか、分からずに不安だった。
《アエレ》の唯一の医師であるヴィクトルも頭を捻り、検査を受ける様に勧められた。
わたしは自分の病を知りたかったし、治したいと思った。
だが、母が検査を嫌がった。
「少し、体が弱いだけよ、病なんかじゃないわ!
家で療養すれば、元の健康なあなたに戻るわ、シャーリー」
母はわたしを励ましてくれた。
一生懸命な母に、わたしは自分の考えを言う事は出来なかった。
だが、ある夜、両親が話しているのを聞いてしまった。
「やはり、一度、検査をして貰った方がいいんじゃないか?」
「何を言うの!施設に入れられたら、あの子は結婚出来なくなるわ!」
「心配し過ぎだよ、彼女の様にはならないよ…」
《彼女》というのは、母の子供時代の親友、マリエットの事だ。
マリエットの家と母の実家は近所で、家同士、古くから付き合いがあった。
マリエットは、二十歳の時に精神的な病がみつかり、施設に入れられ、
治療を受ける事になった。だが、良くなる事はなく悪化していった。
婚約者は直ぐに婚約を解消し、彼女を見捨てたという。
三年後、施設で病に感染し、そのまま亡くなった___
わたしが生まれた頃の話だ。
母は結婚して以降、疎遠になっていて、手紙のやり取りしかしていなかった。
実家からの知らせで、それを聞かされた時には、酷くショックを受け、苦しんだ。
その事があり、病には特に神経質だった。
「お願い!シャーリーを何処にも行かせないで!」
そんな母の姿を見てしまうと、わたしは何も言えなくなった。
ただ、少しでも状況が良くなる様、神に祈る事しか出来なかった。
だが、それも無駄だった。
わたしは《病》では無かったのだから。
《シャーリーとやら、おまえの命を貰う事にしよう》
《これより、おまえの命は、少しずつ衰えていく》
《それは、おまえの二十歳の誕生日に、完全に尽きるであろう》
妖精の女王との契約だったのだ___
◇
「シャーリー、先生が来て下さったわよ」
すっかり思い出し、頭の中で何とか整理しようとしていた時だ、
部屋の扉が開き、母が医師を通した。
わたしは気持ちが付いていかないながら、寝具からのろのろと重い体を起こした。
老年のヴィクトル先生だとばかり思っていたが、入って来たのは、もっと若く…
見知らぬ男性で、わたしは先の事も忘れ、ギョッとした。
三十歳位だろうか、銀色の髪をきちんと撫でつけ、涼やかな青灰色の目、
整った顔立ちだが愛想は無い。
シンプルだが、仕立てが良いと分かるスーツ、長身でスタイルも良い。
洗練された雰囲気があり、気後れしそうだ。
こんな人、この町にはいない筈だと、はっきり言える。
だが、初対面だというのに、何処か既視感がある…
不思議な感覚に、わたしはつい警戒を見せてしまっていた。
「驚かせて悪かったね、
僕はラウル=アラード、医師で、ヴィクトル先生の手伝いをしています」
無表情で何処か怖そうに見えるが、その声は深く落ち着いたもので、
耳心地も良く、すっと胸に落ちた。
ヴィクトル先生の、手伝い…?
ジェシカはお喋りなので、大抵の事は話してくれていたが、
診療所に手伝いの人が来ているという話は、聞いた事が無かった。
尤も、ジェシカとは、ここ二週間程会っていない。
ジェシカは去年から、隣の大きな町の仕立て屋で、住み込みで働いていて、
時々しか帰って来ないのだ。
「シャーリーです…」
「シャーリー、君は数日熱を出していたそうだね、昨夜はかなり高熱だった___」
彼の話から、昨夜来てくれた事が分かった。
いつもなら、ヴィクトル先生が来てくれるのだが…
「あの、ヴィクトル先生は、何処かお悪いのですか?」
心配になり聞くと、ラウルはすんなりと頷いた。
「ああ、ヴィクトル先生は老年だから、何処かしら悪い所もあるだろう。
昨夜は遅かったから、僕が来させて貰った。
ついでに言っておくと、今ヴィクトル先生は診療所で、外回りは僕が受け持っている」
「そうですか、余計な事を訊いてしまって、すみません…
ヴィクトル先生に何かあったのかと、心配になって…」
「いや、心配事があるのは良くない、聞いてくれていい。
君が心配してくれたと知れば、ヴィクトル先生も喜ぶだろう、少し診よう」
ラウルがその大きな手をわたしの額に当てたので、反射的に、ギクリとした。
「熱は下がったな…少し触るよ」
その手が、わたしの首筋や顔に触れる。
それはヴィクトル先生と似ていて、次第に緊張も解け、落ち着いた。
「異状は無い様だ、痛い処はある?何か気になる症状は?」
「いえ、ありません…」
「頻繁に体調を崩す事があるそうだね、一度検査を受けてみてはどうかと思うんだが…」
ラウルの言葉に、わたしは過敏に反応してしまった。
「必要ありません!」
「病の原因が分かれば、治療法もみつかるかもしれない、
君は若いし、今なら治療にも十分に耐えられるだろう…」
「わたしの事は放っておいて!」
わたしは彼に背を向けた。
何処が悪いのか、何が原因なのか、わたしが一番良く知っている。
そして、決して、良くなる事が無い事も___
今のわたしは、絶望に打ちひしがれ、失礼な態度を取っている事も気にならなかった。
「それでは、良く食べて、もう少し太りなさい。
それから、体調の良い時には少し運動する様に、陽に当たるのもいい、
だけど、無理はしない様に。何かあれば、遠慮なく相談して欲しい___」
ラウルは静かに部屋を出て行った。
わたしは膝を抱き、声を殺して泣いた。
◇◇
二十歳の誕生日に、わたしの命は尽きる。
どんな治療を受けても、どんな薬を飲んでも、その運命は変わらない。
検査など無意味だ___
わたしは部屋に閉じ籠り、独り、絶望の淵にいた。
やって来るその日を思い、怯えた。
そして、色々な事が頭に浮かんでは、わたしを苛んだ。
両親、弟。
親友、友達…
そして、婚約者___
あれから、三日が経っただろうか…
牧師館に一輪の花が届けられた。
わたし宛だと書かれた物は何も無かった。
だが、わたしが閉じ籠っていた所為か、両親は喜ばせようと、わたしにそれを持って来た。
「シャーリー、あなたにお花が届いているわよ!きっとフィリップからね」
フィリップは記念日には、沢山の花束を贈ってくれる。
だが、一輪だけというのは、初めてだ。
それに、メッセージも無い。
だが、それを言うと両親を困らせると思い、わたしは笑みを作り受け取った。
それは、目にも鮮やかなオレンジ色の大輪の花で、茎に薄いピンクのリボンが結ばれていた。
「素敵…フィリップにお礼の手紙を書くわ」
「それがいいわ、でも、熱が出た事は言っては駄目よ、心配させるでしょうからね」
「はい、お母様」
母が部屋を出て行き、わたしはクローゼットを漁り、奥から小さな一輪挿しの花瓶を取り出した。
だが、少しだけ逡巡し、それは奥に戻した。
わたしは使っていないカップに水を入れ、リボンを解くと、花を挿し、窓際に置いた。
あの日、レナから貰った花を思い出したからだ。
窓際に飾ると、家が分かると言っていた。
これは花畑の花ではないが、飾っていると、レナが来てくれるのではないかと思えた。
レナと話したい。
この事を話せる相手は、レナしかいない___
だが、レナを困らせるだけだろうか…
レナはあの時、わたしを止めてくれた。
それを聞かずに、女王と契約したのは、わたしだ___
「受け入れるのよ、シャーリー」
自分の運命を。
恐ろしかったが、そうするより他なかった。
「二十歳までの、残された時間を、大事にするの…」
わたしは鏡の中の自分を見つめ、言い聞かせた。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!
鍋
恋愛
私の名前はカトリーナ・アルティス。伯爵家に生まれた私には、幼い頃からの婚約者がいた。その人の名前はローレンス・エニュオ。彼は侯爵家の跡取りで、外交官を目指す優秀な人だった。
ローレンスは留学先から帰る途中の事故で命を落とした。その知らせに大きなショックを受けている私に隣国の『血塗れ国王』から強引な縁談が届いた。
そして失意の中、私は隣国へ嫁ぐことになった。
※はじめだけちょっぴり切ないかも
※ご都合主義/ゆるゆる設定
※ゆっくり更新
※感想欄のネタバレ配慮が無いです
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
その伯爵令嬢は、冷酷非道の皇帝陛下に叶わぬ恋をした
柴野
恋愛
それは一目惚れだった。
冷酷非道の血まみれ皇帝と呼ばれる男に、恋をしたのだ。
伯爵令嬢マリア・フォークロスは、娘を高値で売り付けたい父に皇妃になれと言われ、育てられてきた。
とはいえ簡単には妃どころか婚約者候補にすらなれるはずもなく、皇帝と近くで言葉を交わす機会さえろくに得られない。しかしながら、とあるパーティーで遠目から眺めた際――どうしようもなく好きになってしまったのだ。
皇帝陛下の、最愛になりたい。
皇帝に冷たい視線を向けられつつも、マリアは恋心のままに文を綴る。
自分の恋が叶わぬものだという現実に見て見ぬふりをして。
※本作は『社交界のコソ泥と呼ばれる似非令嬢に課されたミッションは、皇帝陛下の初恋泥棒です(https://www.alphapolis.co.jp/novel/6211648/759863814)』の前日談ですが、単体でもお楽しみいただけるはずです。
※主人公は報われません。
※悲恋バッドエンドです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない
七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい!
かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。
『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが......
どうやら私は恋愛がド下手らしい。
*この作品は小説家になろう様にも掲載しています
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる