11 / 12
11
しおりを挟む「叔母さん、散歩に行きましょう!」
わたしは叔母のライサを散歩に誘った。
マルテールに行ったわたしは、「旅行に行きましょう」とライサを連れ出し、ニューリオンに来ている。
ここは大きな町があり、郊外は景観の良い避暑地となっている。
わたしたちはつい昨日、その郊外にある高級宿に着いたばかりだ。
「まぁ、素晴らしい所ね、何処を歩いても美しいわー」
叔母は景色を楽しんでいる様だった。
わたしは一緒に楽しみながらも、気付かれない様に、目的地に誘導していた。
赤く染まった並木道の下を通りながら、わたしはその先に背の高い男性を見つけた。
「デュランド伯爵ではありませんか?」
わたしが声を掛けると、セヴランが振り返った。
「やぁ、アリスじゃないか!こんな所で会うとは、奇遇だな」
セヴランがらしくない、愛想の良い挨拶をする。
セヴランは連れていた若い夫妻に、わたしを紹介した。
「こちらは、ブーランジェ伯爵令嬢、アリスだ。
アリス、こちらは私の妻の従弟、フォスター男爵フレデリク、妻のマルティーヌだ」
「アリスです、こちらはわたしの叔母のフレミー卿夫人、ライサです」
わたしたちは愛想良く挨拶を交わした。
わたしが説明せずとも、お喋りなライサは嬉々として話していた。
「私たちは昨日着いたばかりなんですよ!
ええ、ここは初めてで、アリスが誘ってくれたんです。
宿も素晴らしいし、景色も最高ね!何処までだって歩けそうですよ!」
「それなら、私たちと一緒に来ませんか?
実は、この先に私の妻が所有する館があり、今から行く処だったんですよ。
お近付きの印に、お茶に招待しますよ」
セヴランが愛想の良い笑みを向けると、ライサはぽっと頬を赤くした。
「ええ!是非、お願いするわ!いいでしょう?アリス」
わたしは「勿論よ、叔母様」と笑顔を返し、セヴランに目で合図した。
ふふ、計画通りね!
『もう二度と来ないだろう』と思っていた館が近付いて来ると、微妙な気持ちになった。
メイドに扮して仕事をした二日間は、地獄だった。
嫌でも思い出してしまうので、顔を顰めても仕方ないだろう。
わたしたちが歩いて玄関まで行くと、扉が開かれ、メイド長が現れた。
最後に見た時から、変わっていない。
まぁ、数ヶ月程度じゃ、変わらないわよね…
「デュランド伯爵だ、ナターシャはいるんだろう?」
先程までとは打って変わり、セヴランが冷やかに告げる。
彼は茫然としているメイド長を押し遣り、館に入った。
「お、お待ち下さい!奥様をお呼びしますので…」
メイド長の静止も無視して、セヴランは二階への階段を上がって行く。
フレデリク、マルティーヌ、ライサは当然、事態を把握しておらず、オロオロとしていた。
わたしは「行きましょう!こっちよ!」と強く言い、セヴランを追った。
わたしの勢いに圧されたのか、三人もわたしに続く。
「何かしら?サプライズ?ああ、わくわくするわ!」
「なんだろう?でも、セヴランのやる事だから…」
「そうね、間違いはないわよね…」
「お、お待ち下さい!いけません!二階に上がっては…あなたたちも止めなさい!」
メイド長は喚いたが、メイドたちは『自分たちは関係無い』とばかりに、無視し、散って行った。
二階に上がり、セヴランは迷う事なく、ある部屋の前に立ち、その扉を静かに開けた。
彼は人を雇い、事前に調べていて、全て知っていたのだ。
今日、手引きした者は、驚くなかれ、この館の料理長だ。
料理長はセヴランの密偵で、町から仕入れに来る者がパイプ役となり、やり取りをしていた。
だから、わたしが調理場の物を勝手に食べても、気付かない振りをしてくれた処か、わざと食料を置いてくれていたのだ。
後から知った時には驚き、納得し、感謝したものだ___
わたしは三人に、「しっ」と静かにする様に指示し、セヴランに続いて中に入った。
部屋には誰もいなかったが、長ソファの上にはだらしなく服が脱ぎ捨ててあった。
上着、シャツ、ドレス、ズボン、それに靴…
一目で何をしていたか察しがつき、皆目を丸くしていた。
セヴランは内扉に向かい、その扉を静かに開けた。
部屋にはカーテンが引かれておらず、明るく、状況は一目で分かった。
大きなベッドで裸の男女が縺れ合っている…
「随分、お楽しみの様だな、ナターシャ」
セヴランが威厳のある声で言うと、動いていたものはピタリと止まり、こちらを振り返った。
「____!!」
ナターシャが声にならない悲鳴を上げた。
ジュールは真っ青な顔でナターシャから離れた。
離れても、もう遅いけど!
「あ、あなた!何でここに居るのよ!ここは、私の館よ!出て行きなさい!!」
「夫が妻の館を訪ねるのに理由がいるのか?
強いて言えば、おかしな話を耳にし、確認しに来たという所か」
「おかしな話ですって?」
ナターシャの顔は怒りと焦りで険悪に歪んでいるが、それが色を失くすのに時間は掛からなかった。
セヴランが体をずらし、後方で茫然と立っているフレデリク夫妻を二人に見せた。
知っているナターシャは文字通り反応したが、恐らく会った事のないジュールは訝し気に様子を伺った。
そんな中、セヴランが淡々と話す。
「メイドに聞いたが、従弟のフレデリクが度々訪ねて来ては、長期滞在している様だな?
本人に聞いたが、一度も来た事が無いそうだ、これ程おかしな話はないだろう?
何か申し開きが出来るなら聞くが、まぁ、ここに本人がいるんだから、無理だろう。
それに、その男の顔は知っている、確か、侯爵のパーティで挨拶したな、ジュール=ボワレー男爵」
ジュールも顔色を失くした。
「それでは、望み通り出て行く事にしよう、直ぐに離縁の届を出さなくてはならないからな」
「そ、そんなの、認めないわよ!」
「フン、これだけ証人がいて、言い逃れが出来ると思っているのか?
君の持ち物はこの館に送る、二度と帰って来るな、そして、二度と私に顔を見せるな」
セヴランが厳として告げると、ナターシャは震えながら歯軋りしていた。
わたしは話が終わったと判断し、一歩前に出て、口を開いた。
たっぷりと情感を込め、悲劇のヒロインとなって…
13
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる
八重
恋愛
ウィンダルスの国民は皆生まれた時に、この世界を作ったとされる五神である『獅子』『鷲』『蛇』『山椒魚』『鮫』のうちの一つの神の加護を受ける。
今から100年前に制定された「神位制度」によって、『獅子』が最も良いとされるこの国で、リディ・ヴェルジール公爵令嬢は『獅子』の加護を持つ者として生まれた。
しかし、そんなリディは婚約者である第一王子ミカエラ・ウィンドリアスから、
「そんな貧相な体で明朗さの欠片もないお前は、まるで捨てられた子猫のようだな!」
といわれたことをきっかけに、皆彼女を『子猫令嬢』と呼んだ。
婚約関係もあまりうまくいっていないリディだったが、今度はミカエラの卒業式でなんと婚約破棄される。
彼女は彼がその決断をしないことを願っていたが、叶わなかった。
だから、リディは幼馴染で第二王子であるエヴァンとの計画を実行する。
そうして、『子猫令嬢』リディは、獅子となるために口を開いた──。
※他サイトでも投稿しております
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
【短編】王子のために薬を処方しましたが、毒を盛られたと婚約破棄されました! ~捨てられた薬師の公爵令嬢は、騎士に溺愛される毎日を過ごします~
上下左右
恋愛
「毒を飲ませるような悪女とは一緒にいられない。婚約を破棄させてもらう!」
公爵令嬢のマリアは薬を煎じるのが趣味だった。王子のために薬を処方するが、彼はそれを毒殺しようとしたのだと疑いをかけ、一方的に婚約破棄を宣言する。
さらに王子は毒殺の危機から救ってくれた命の恩人として新たな婚約者を紹介する。その人物とはマリアの妹のメアリーであった。
糾弾され、マリアは絶望に泣き崩れる。そんな彼女を救うべく王国騎士団の団長が立ち上がった。彼女の無実を主張すると、王子から「ならば毒殺女と結婚してみろ」と挑発される。
団長は王子からの挑発を受け入れ、マリアとの婚約を宣言する。彼は長らくマリアに片思いしており、その提案は渡りに船だったのだ。
それから半年の時が過ぎ、王子はマリアから処方されていた薬の提供が止まったことが原因で、能力が低下し、容姿も豚のように醜くなってしまう。メアリーからも捨てられ、婚約破棄したことを後悔するのだった。
一方、マリアは団長に溺愛される毎日を過ごす。この物語は誠実に生きてきた薬師の公爵令嬢が価値を認められ、ハッピーエンドを迎えるまでのお話である。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
【完結済】家族に愛されなかった私が、辺境の地で氷の軍神騎士団長に溺れるほど愛されています
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
幼くして両親を亡くしたエディットは、遠縁にあたるオーブリー子爵夫妻の元に引き取られて育った。子爵夫妻から、亡き両親であるバロー侯爵夫妻の借金を肩代わりしてやった代わりに死にもの狂いで働けと命じられ、毎日ひたすら働くエディット。長年虐げられ、子爵邸から一度も外に出たことのなかったエディットだが、ある日突然義妹のデビュタントとなる王宮での夜会に同行させられることになった。緊張と恐怖に震えるエディットは、その会場で体の大きな騎士団長マクシムから声をかけられる。しかし極度の緊張でパニック状態になったエディットは、とんでもない粗相をしてしまう。
その後すぐに、マクシムからオーブリー子爵邸に、エディットと結婚したいとの申し出があった。実はマクシムは“氷の軍神騎士団長”の異名を持つ辺境伯で、その戦歴と威圧感のある風貌で皆から恐れられている人物であった。オーブリー子爵夫妻は様々な思惑の中、エディットをマクシムのもとに嫁がせることを決める。
恐ろしい辺境伯からひどい扱いをされるのだろうと怯えていたエディットだが、意外にもエディットにメロメロに優しいマクシム。甘やかされ溺愛されるエディットは、徐々にマクシムに心を開いていく。
だがマクシムは初夜の時から、エディットの様子がおかしいことを不審に思っており──────
引き取られた家で愛されず虐げられて生きてきたエディットが、一途な愛を与えてくれるマクシムの元で幸せになっていくストーリーです。
※当初全年齢向けで書いていましたが、性的な行為の表現が何度も出る感じになってきたので一応R15にしております。
※いつものご都合主義ですが、どうぞ温かい目で見守ってくださいませ。
※すみません、10万文字を超えそうなので長編に変更します。
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる