上 下
27 / 34

27

しおりを挟む


前世で、わたしは歌手を目指していた。

バイトをしたお金でボイストレーニングにも通ったし、日々、発声練習、体力作りもした。
オーディションでは、個性が足りないとか、魅力に乏しいとか、見た目が地味だとか、
他に特技は無いのか…等々、嫌な事ばかり言われて、一度も合格した事は無かった。
どれだけ足掻いても無駄だと、おまえでは無理だと言われている気がした。
自信なんて欠片も無かった。
才能が欲しい、才能さえあればと、どれだけ願ったか。
芸能界で輝いている子たちが、どれだけ羨ましく妬ましかったか___

自分なんて駄目だ。
この世界から必要とされていないんだ。
普通に就職して、結婚して…その方が親も喜ぶし、それでいいのよ。
だって、才能なんて無いんだもの!才能の無い者の生きる道は、それしかないのよ!

諦めたくなくても、諦めなければと…


「あたし、聖女じゃなくていいんです…あたしも、魔術師になろうかな…」

メロディの言葉に、わたしはカッとし、叫んでいた。

「甘えないでよ!」

「好きな事で頑張れない者が、どうして他の何かになれるっていうのよ!?
あなたには《聖女の光》がある、それがどういう事か分かっているの?
あなたには《聖女》になる資格があるっていう事なの!
わたしには《聖女の光》なんて無い!わたしがどれだけ望んでも、
わたしには《聖女》になる事は出来ないの!」

「あなたが努力して足掻いている事は分かるわ、辛いのも分かる、
だけど、投げ出さないで!喰らいついて行くのよ!
それで駄目でも、皆何も言わないわ、頑張ったねって言ってあげる。
でも、今はまだ駄目よ!今投げ出すなら、わたしはあなたを認めない!」

「ヴィオレット様…すみません、あたし…」

メロディは顔色を失くし、震えていた。
わたしは正気に戻り、怒りは萎んでいった。

「わたしこそ、キツク言ってしまって、ごめんなさい…八つ当たりなの。
わたしは、あなたが羨ましい、選ばれた者だもの…
でも、あなたにとっては、負担でもあるわよね…」

周囲の期待が大きい程、プレッシャーがあるのかもしれない。
メロディは真面目で素直な子だ。責任感も強い筈。
荷の重さは、本人にしか分からない。
それでも、その荷を背負ってみたいと望んでしまうのよね…

「学園には、沢山勉強して、立派な魔術師になって、家族を養うんだ!って、
それに、お友達も沢山作ろうって、希望を持って来ました。
鑑定の時、《聖女の光》があると言われた時は、うれしかったです。
自分が特別な人間になった気がしましたし、聖女になれるのだと思ったら、
目の前が開けました。
あたしは平民の生まれです、一生、下町から出られないと思っていましたから…
それが、聖女になれると聞けば、舞い上がりますよね?」

メロディは「ふふふ」と笑い、それから、悲しい目になった。

「でも、学園は思った程、楽しい処じゃなくて、魔法の授業の成績は良くても、
聖女としては全然で、司教様をガッカリさせてばかりで…
それが辛くて、頑張るんですけど…
『とんだ見込み違いだった』とか、『平民の娘だからこんなものだろう』とか、
『時間の無駄だ』と司教様と教師たちが話しているのを聞いて…
自分は駄目な人間なんだって…
《聖女の光》を持ってしまったばかりに、迷惑を掛けてしまっているんだって…」

メロディがポロポロと涙を零す。
わたしはメロディの肩を抱いた。

「分かったわ、その司教と教師たちが《クソ》なのよ」
「!?」

メロディが目を丸くする。

「司教と教師たちは、あなたに罪悪感を抱かせて、あなたを委縮させているわ。
そんなの、《聖女の光》だって委縮しちゃうわよ!」

「ヴィオレット様…あなたは、一体…?」

メロディが不思議そうな顔でわたしを見る。
偉そうに言い切るわたしが何者かですって?

「聖女研究をしてるの、結構、詳しいのよ」

前世では、ゲームでヒロインやってましたから!

メロディは冗談だと思ったのか、「ふふふ」と笑った。

「わたし、あなたには休養が必要だと思うわ!
それに、司教や教師たちは総入れ替えした方がいいわ!アランに言ってあげる」

「止めて下さい!アラン様には…知られたくありません…
それに、司教様たちの所為ではありません!あたしが悪いんです…」

優しい心を持っているからこそ、《聖女の光》も宿るのだろう。
だけど、その優しさに胡坐を掻き、虐め、委縮させる者は、わたしが許さないわ!!

「メロディ、このままだと、あなたは《聖女》になれないわ、それでいいの?
《聖女》になるには、あなたの心の不安や枷を外すのよ!
もっと自由になるの!」

「自由に…自由になりたいです…でも、司教様たちの所為にはしたくありません。
アラン様の力も使って欲しくありません…誰にも迷惑を掛けたく無いんです…!」

メロディの目はわたしに助けを求めていた。
わたしはメロディの手をギュっと握ると、大きく頷いた。

「分かったわ、何か考えてみましょう。
大丈夫よ、わたしが絶対にあなたを《聖女》にしてみせるから!」

「あたしには、ヴィオレット様の方が、《聖女》に思えます…」

いやーね!わたしは元・悪役令嬢よ!
わたしは「さぁ、食べましょう!甘い物を食べると落ち着くわよ!」と促し、誤魔化した。

スイーツを食べ、元気が出た処で、メロディを誘った。

「護符を見に行ってもいい?」
「護符ですか?」
「護身用にね、メロディは持ってないの?」
「あたしは授業で作りましたので」

メロディは髪を掻き分け、耳を見せた。
小さな金の星のピアスだ。

「素敵!目立たないし、自然だわ!それにしても、皆、作る物なのね…」

わたしは首に付けている紐を引っ張り、指輪を出して見せた。

「実は、イレール様が作られた物を貸して貰っているの」
「それでしたら、あたしも作るまで借りていました」

メロディが懐かしそうに指輪を見た。

ああ、やっぱり、メロディに渡したかったのね…
でも、渡せなかったんだわ…
イレールの気持ちを考えると胸が切なくなった。

「授業で習うまでは気付かなかったんですが…今見ると、これはかなり高度な魔法式ですね…
流石、お義兄様です!」

それだけ、あなたを想っているのよ!!
イレールが一番守りたい相手は、メロディなのだから…

「授業を選択すれば作れます、でも教わるのは簡単な物なので…
これ程の物は作れないかと…ヴィオレット様は買われますか?」

作るのも面白そうだが、直ぐにでも欲しいので、買う事にした。

「買う事にするわ、宝飾品は持ち込みかしら?」
「恐らくは、授業でも用意した宝飾品に魔法式を入れました」
「それじゃ、先に宝飾品を見に行くわ!」


メロディに案内して貰い、宝飾品の店を覗いた。
尤も、その店は華美で高価な物ではなく、若い下級貴族、平民の女性たちが身に着ける、
安価でシンプルでファンシーな物が並ぶ店だ。
身分相応にしないとね。それに大事なのは魔法式の方だ。

「わたしもピアスにしようかなー」

身に着けるには最適だし、可愛い。
迷ったが、結局は、金色の細い指輪にした、石は紫色だ。
イレールから借りた物に似ていて、色違いだ。

「これに決めたわ!」
「いいですね!ヴィオレット様らしいです!」
「ふふふ、ありがとう!」

一緒に、細い金色のチェーンを買った。
お値段はリーズナブルで、20ヴァルで済んだ。

それを持ち、護符を売る店へと向かった。

雑貨店の様に、様々な形の護符が置かれていた。
お札の様な物もあれば、宝飾品、羽ペンもあるし、人形もある…

「面白いわね!」
「はい!こんなにあるとは思いませんでした!」
「お札は一度使うと燃えちゃうのかしら?」
「燃えないよ、字が消えるだけさ」

答えたのはカウンターの向こうに座っている…恐らく店主だろう…老人だった。

「魔石の護符は幾らからですか?」
「小さな物でも、1万ヴァルだね」

最初に売った宝飾品もその位だっただろうか?
やっぱり結構高いのね…

「魔石は無理ね、これと同じ魔法式を持ち物に入れたいの、幾らになりますか?」

わたしはイレールの作った護符を店主に見せた。

「これはいい物だね…2千だな」

ドレスが4千ヴァルで売れていたので、わたしは頷いた。

「それでお願いするわ、宝飾はこれなの」
「ああ、次の週末に取りにおいで、用意しておこう」

次の週末が楽しみだ!


銀行に行き、新しい名に変更する手続きをし、ドレスを売った金を預けた。
用事を全て終え、ジェーンとクララと合流し、四人で食事をした。
それから、皆で店を見て周り、クララに約束していたお菓子を買ってあげたりもした。
同年代の仲間と過ごす時間は楽しく、時間はあっという間に流れ、
わたしたちは高潮した気分のまま、寮に帰った。

わたしは自室に入ると、今日買ったチェーンを取り出した。
強化魔法を掛け、イレールから借りた指輪を通し、身に着ける。
今まで手頃な物が無く、紐を使っていたが、やはりこっちの方が良い。

「んん~~!イイ感じ!!」

わたしは鏡に映し、ニンマリと笑った。

「それはそうと…メロディの事は気になるわ…」

司教と教師たちを総入れ替えしてやりたいが、それはメロディの望みでは無い。
排除すれば、同情して心を痛めるだろう。
メロディは優しいし、自分が未熟な所為だと思っているのだ。

例え指導が正しかったとしても、メロディを委縮させるのは間違っているわ!
平民だからと、メロディを見下している気もする。

メロディに自信を付けさせてあげたい。

「どうしたらいいのかしら…」

ゲームでは経験値は順調に伸びたし、やり込めばレベルも自然に上がった。
イベントがあれば経験値もかなり貰えるし…

「アランと何かあれば良いのよ!!」

ゲームであれば、だけどね…

でも、メロディの心を明るくさせる存在は、間違いなく、アランだ___


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。【完結】

古芭白あきら
恋愛
今日、私は40になる。この歳で初めて本当の恋を知った―― 聖女ミレーヌは王太子の婚約者として責務を全うしてきた。しかし、新たな聖女エリーの出現で、彼女の運命が大きく動き出す。 エリーは自分を乙女ゲームのヒロインだと言い、ミレーヌを『悪役令嬢』と決めつけ謂れのない罪を被せた。それを信じた婚約者から婚約破棄を言い渡されて投獄されてしまう。 愛していたはずの家族からも、共に『魔獣』を討伐してきた騎士達からも、そして守ってきた筈の民衆からも見放され、辺境の地リアフローデンへと追放されるミレーヌ。 だが意外にも追放先の辺境の地はミレーヌに対して優しく、その地に生きる人々ととの生活に慣れ親しんでいった。 ミレーヌはシスター・ミレとして辺境で心穏やかに過ごしていたが、彼女の耳に王都での不穏な噂が入ってくる。エリーの振る舞いに民達の不満が募っていたのだ。 聖女の聖務を放棄するエリーの奢侈、100年ぶりの魔王復活、異世界からの勇者召喚、そして勇者の失踪と度重なる王家の失政に対する民の怨嗟――次々と王都で問題が湧く。 一方、ミレの聖女としての力で辺境は平穏を保っていた。 その暮らしの中で、ミレは徐々に自分の『価値』と向き合っていく。 そんな中、ミレは黒い髪、黒い瞳の謎の青年と出会う。 この人を寄せ付けないエキゾチックな青年こそがミレの運命だった。 番外編『赤の魔女のフレチェリカ』『小さき聖女シエラ』完結です。 「小説家になろう」にも投稿しております。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...