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しおりを挟むメロディとアランが恋愛成就した暁には、魔族が襲って来る___
ゲームのシナリオではそうなっている。
シナリオ通りになるとは言い切れないけど、そういう可能性もあるという事だ。
大体、断罪を一大イベントと捉えていた女神だ、魔族の襲撃だって、必須に違い無いわ!
ゲームのシナリオだと、魔族が結界を破り、王宮を襲い、
メロディ、アラン、イレール…カルテットたちで応戦に向かう。
メロディは歌で魔族を弱らせ、皆に力を与える。
そして、アランが金の武器を使って魔族を倒すのだ。
他の三人…イレールたちも魔族に対抗するが、命を落とす…事もあった。
特に、イレールはメロディを守り、命を落とす事が多い…
「イレール様は、わたしが守らなきゃ…!!」
その為には、魔族に対抗出来る魔法を習得するのが良いだろうか?
魔族に対抗する武器、アランが持っている金の剣は王族しか保持出来ない物だ。
後は、聖水だが、魔族を怯ませる事は出来ても、一時的なものだ。
「お守りに持っておくべきね…」
聖水はメロディに頼んでみる事にし、アランにも金の武器を貰えないか聞いてみようかしら?
魔族に対抗する魔法を調べなきゃ…
わたしはそれを考えながら、寝落ちしたのだった。
◇◇
朝、いつもの様に、クララに髪をセットして貰ったわたしは、
「今日から先に行くわね!イレール様を待ち伏せするの!」と、独り、急いで寮を出た。
三年生の教室へ向かう階段の前に陣取り、イレールを待った。
通って行く生徒たちが、チラチラとわたしを振り返る。
まぁ、この美貌だものね!ふっ、注目を浴びても仕方がないわ!
わたしは澄ました顔で立っていたが、何やら、周囲が「クスクス」笑っているのに気付いた。
何か変かしら?
わたしは鞄から手鏡を取り出そうとし、それに気付いた。
何処から生えたのか、鞄に蔓が巻き付いている。
「きゃ!!」
驚いて思わず鞄を放ってしまった。
鞄はすっ飛んで行き、生徒の顔面に直撃した。
「ああ!?すみません!!大丈夫でしたか!?」
「驚いたなー、誰かと思えば、ヴィオレット嬢か~」
直撃したと思ったが、寸前で受け止めたらしい、美しい顔が現れた。
金色の長髪、そして甘い青色の目…
ベラミー侯爵令息のセザールだ。
セザールは鞄を返してくれたが、「うわ、悪趣味だね~」と気味悪がった。
「一言多いのよ、ありがとう、ごめんなさいね」
「一言多いのはそっちもでしょ、それで、こんな処で何やってんのさ?」
「あなたには関係無いでしょう?」
ニッコリと笑顔で返すと、セザールは綺麗な眉を寄せた。
「可愛くないな~、俺、先輩だよ?」
「先輩には関係ありませんので、答える義務はございません」
「うわ~、そういう態度だとモテないぜ~」
「結構ですわ、わたしにとってイレール様以外は、男じゃありませんもの」
ごちゃごちゃと言い合っていると、わたしたちの前で足を止めた生徒がいた。
「ヴィオレット、こんな処で何をしているんだ」
訝し気な顔でアランが立っていた。
「イレール様に、朝の挨拶をしに来たの!」
「俺には答えないのに、アランには答えるのか?」
「アランは元婚約者で、あなたはただの先輩だもの、一緒の筈が無いでしょう?」
「普通、婚約破棄されたら、先輩より疎遠になるものだろ~」
「そうなの?知らなかったわ、教えてくれてありがとう、先輩」
「キー-!何か、腹立つ!!」
「おい、ヴィオレット、イレールが行くぞ」
アランの声でわたしは我に返った。
セザールを押し退け、階段を上がるイレールを追い掛けた。
「イレール様~!」
声を掛けると、イレールは足を止め、振り返った。
いつも無表情だが、今日は何故か少し機嫌が悪そうに見えた。
何かあったのかしら?悪い夢を見たとか?
「お早うございます!」
「お早う、それだけか?」
「はい、イレール様のお顔を見たかっただけですので!
でも、少し、元気が無い様に見えます、何かあったのですか?」
わたしが聞くと、イレールは「別に、気の所為だ」と、視線を反らした。
それから、ふと、わたしの鞄に目を止めた。
「それは…どうした?」
「ああ、急にこの様な状態になってしまって、何か植物の種が付いていたのかもしれません」
わたしは特に気にしていなかったが、イレールはわたしから鞄を捥ぎ取り、じっと見分した。
それから、「害は無いか…」と、安堵の息を吐き、魔法で蔓を祓ってくれた。
「変だと思う事があれば、自分で判断せず、聞いた方が良い。
先日、廊下で転倒したのも変だった、考え過ぎなら良いが、悪意の様なものを感じる…」
悪意…
ヴィオレットはメロディ以外にも、階級の低い者には厳しく当たっていたし、
同じ貴族の令嬢たちにも嫌味や皮肉を言ったり…兎に角、嫌な女だったので、
悪意を持たれ、報復されても仕方が無い気もした。
まぁ、やり方は根暗だと思うけど…
「はい、気を付けます」
犯人を見つけようとか、騒ぎ立てるつもりは無いが、
わたしはイレールを心配させない様に、頷いた。
「それでは、イレール様、次は昼に食堂でお会いしましょう!勉強頑張って下さい!」
わたしは明るく挨拶をし、階段を駆け下りる。
三年生の棟から二年生の棟へと向かう、渡り廊下を走っていた時だ…
ビシュ!!
気配を感じたかと思うと、スカートが切り裂かれていた。
二十センチ程、ナイフで切った様に、バッサリと穴が空いている。
「うわ!酷い~!」
声を上げつつ、周囲の気配を伺ったが、人の気配は感じなかった。
逃げたのかしら?
イレールが言った通り、これは完全に悪意があるわね…
スカートでは無く、腕とか足とか…顔だったら?
転倒も、廊下だから助かったのだ、もし、階段の上だったら…
想像し、ぞっとした。
今までのケースから考えると、そこまではやらない気はするが、
それでも、絶対では無い、激情に駆られる事もあるだろう…
怖い___
メロディや他の子たちも、こんな思いだったのだろうか?
わたしは魔法でスカートを戻した。
「もっと、魔法を覚えないとね…」
◇
昼休憩になり、わたしは食堂へ急いだ。
だが、思い掛けず、担任に引き止められた。
「援助の件で、ド・ブロイ公爵が来られているから、一緒に来なさい」
これは断れない。
わたしは泣く泣く、イレール様との昼食を諦め、担任に付いて行ったのだった。
用意された部屋は学園長室だった。
相手が公爵だから気を使ったのだろうか?
中に入ると、父が不機嫌な顔で、偉そうな態度でソファに座っていた。
「お父様、態々おいで下さり、ありがとうございます」
「フン!もう父親では無い!勘当したのを忘れたのか!」
「それでは、もう、勘当の手続きを済まされたのですか?」
「当然だ!おまえは、ド・ブロイ公爵家とは何の関係も無い!名乗る事は許さん!
今日はそれを説明しに来たのだ!」
取り付く島もない。
担任も学園長も呆れているのか、唖然としている。
「大人しく修道院に行けば良いものを、フン、魔法学園など、
おまえみたいな者が、魔術師などなれる訳がない!
言っておくが、ヴィオレット、後で泣きついて来ても知らんからな!
当主に歯向かった者がどんな末路を辿るか、思い知るがいい!」
娘に対し、何という言い草か!父はきっと、洗脳でもされているのだろう。
そう思う事にし、わたしは大人しく聞いた。
ここで言い争っても、学園長と担任に醜態を晒すだけだ。
普段体裁を気にする父だが、学園長と担任は数に入っていないのだろう。
魔法学園にコンプレックスでもあるのかしら?
父が書類にサインをし、出て行くと、学園長は改めてわたしに尋ねた。
「家の事情で学べない者は、国から援助が受けられるが、
卒業後、受けた援助の期間中は、国に務める事になる、良いかね?」
メロディやイレールもその筈だ。
メロディは聖女として務める事になり、イレールは宮廷魔術師だろうか…
イレールと同じ職場が良いが…無理なら、アランに泣きつこうかしら?
「はい、承知しております」
わたしは従順に頷いて見せた。
「親の反対がある中、魔法学園で学び、国の役に立つ者になりたいと言う
君の姿勢は、賞賛すべきものである、援助の申請を認めよう___」
援助申請を出すに当たり、ド・ブロイの名が使えないので、
違う名を用意しなければならなかったが、
その手続きの用紙も取り寄せてくれていたので、すんなりと運んだ。
新しい名は、《ヴィオレット=フルー》
前世の《花沢》にちなんで、《フルー(花)》だ。
階級は、当然、平民だ。
学園長室を出ると、アランとメロディ、イレールが待っていた。
「心配して来てくれたの!?」と喜ぶわたしを、血相を変えたアランが遮った。
「ヴィオレット!勘当されたというのは本当か!?」
「本当よ、修道院に入らず、学園に通うなら勘当すると言われていたの、
でも、本当に手続きしているとは思わなかったわ…」
「何を呑気な事を言っているんだ!どういう事か、おまえにも分かっているだろう!?」
アランは声を荒げたが、わたしにはピンと来ていなかった。
「問題は無いわ、援助の申請をしたから、学園にはこれまで通り通えるし」
「おまえは、貴族じゃなくなったんだぞ!」
「そうよ、新しい名は《フルー》、ヴィオレット=フルー、いいでしょう?」
わたしは胸を張ったが、アランは兎も角、メロディとイレールも微妙な顔をしていた。
「え?駄目?似合わない?」
「そういう問題じゃないだろう!皆がどんな反応をするか、想像付かないのか!?」
「どんな反応?確かに、必要以上に憐れまれると面倒ね」
「それだけで済めば良い方だ、没落貴族がどんな扱いを受けるか…」
「心配し過ぎよ、アラン、学園では階級なんて関係ないでしょう?」
「そんなもの、建前だという事は、おまえが一番知っている筈だ!」
ああ、言っちゃった。
まぁ、ヴィオレットは、公爵令嬢、王子の婚約者である立場を利用し、
学園の女王に君臨していたものね…
「俺がド・ブロイ公爵を説得する、それまではこの事は内密にしておけ!」
「無理だと思うわよ、だって、名簿からド・ブロイの名は消されるもの、出欠で分かる事よ。
それに、父を説得するのは無理よ、あれは洗脳教育を受けているに違いないわ、頑固なの」
「いや、俺が説得してみせる!俺は王子だ!」
アランは強固だが、わたしとしては、あの家に戻りたい訳では無い。
それに、イレールと結ばれるには、《貴族》という立場は足枷でしかない。
「アラン、あなたが責任を感じる事は無いのよ?わたしはそれだけの事をしたんだから。
修道院へ送られる事は、勘当と同じよ。修道院へ入れば名を変えるでしょう?
父はどうあっても、わたしをド・ブロイ家の系図から排除したいのよ。
わたしを恥と思っているの。
だから、寧ろ、学園に戻れた事に感謝している位よ、アラン、メロディ、イレール様、ありがとう」
わたしがアランに手を差し出すと、アランは戸惑いつつも、握手をしてくれた。
わたしはメロディには「ありがとう!」と抱擁し、そしてイレール様には…
抱擁と迷ったが、引かれない様に、握手に決め、手を差し出した。
「イレール様もありがとうございます!」
「俺は何もしていない」
イレールは素っ気なく頭を振ったが、メロディが援護射撃をしてくれた。
「そんな事はありません!
あのパーティの時も、お義兄様はヴィオレット様を庇われましたもの!
お義兄様の言葉で、あの場にいた皆が、心を動かされたのよ!」
「ええ!?聞いてないわ!メロディ、詳しく教えて!」
「握手をしたら、黙ってくれるか?」
イレールが手を差し出したので、わたしは迷った末に、その手を両手で握ったのだった。
メロディに後でこっそり教えて貰えば良いものね!
ああ…イレール様の手…大きくて、逞しくて、温かい…
「おい、いい加減にしろ、女性がはしたないぞ!
イレールが困っているだろう、それに、おまえ、昼食の時間が無くなるぞ」
むむ…!アランってば、本当に、乙女心の分からない奴ね!!
「食事よりも、イレール様の手を握っていたいの!」
「腹が鳴ってもいいのか?」
「アランだって、メロディの手を握っていたいでしょう?」
わたしが言ってやると、アランは顔を真っ赤にした。
「お、俺は、王子だ!その様な不埒な真似はしない!!」
「動揺し過ぎると逆に怪しいわよ?」
「ヴィオレット様!アラン様はあたしの手を握りたいなど、その様な事…思われませんわ…」
「いや、メロディ、俺はそういう意味で言ったのでは無いぞ!」
「どういう意味かしらね~?」
「ヴィオレット!!」
アランを苛めていると、イレールから、「食事はした方がいい」と手を放された。
くすん。
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